第1話
処刑の内容を受け、安倍一家はその日のうちに都をでることにした。
とりあえず御所を辞し、安倍邸へと戻る。
帰りは行きの時と違い、罪人であるから籠は使えず自分たちの足で歩いて帰った。
屋敷につくと、1人の男が母屋に座って待っていた。
「あっ、秋貞様!?」
「ひ・・・な・・・た?」
「儂らは邪魔になるようだから、部屋に戻って準備をしておく。ゆっくり話しなさい、陽葵。」
弘蔵はそう言い、母と乳母、女房をつれ、母屋を後にした。
母屋に2人きりとなった陽葵と秋貞の中には沈黙が流れていた。
その沈黙を破ったのは、秋貞だった。
「陽葵。文にさようなら、と書いてあったが、もう俺と会わずに処刑されるつもりだったのか?」
「・・・はい。会うと覚悟が鈍りそうでしたから・・・。」
(当たり前じゃない。未練が残らないようにしないと・・・あってしまうと未練があって死にきれないから・・・。まあ、死ぬわけではないのだけれど。)
秋貞は陽葵の返事を聞き、肩を落とす。
「そうか・・・。俺は覚悟を鈍らせる、邪魔な存在でしか、その程度の男としてしか見られていなかったんだな。」
「え・・・?」
「分かった。もう俺はお前とは会わない。だから星の塔にも一生来るんじゃない。」
唯一、仲間だと言ってくれた秋貞からはっきりと拒絶の言葉をもらった陽葵は、顔を真っ赤にし、こういった。
「・・・せっかく。都を出るだけの刑で収まったのに、そんなひどいことをいうんですね。出てってください!!秋貞様なんて、大ッ嫌いです!!!」
陽葵は心の底から叫んだ。後からすごいことを言ってしまったと気づくが、もう言ってしまったことには取り返しがつかない。
秋貞は陽葵に大嫌いと言われたそのままの勢いで安倍邸を飛び出し、星の塔へ帰りついた。そして星の塔で主の帰りを待ちわびていた翠と話す。
「ケンカ・・・するつもりなんて、なかったのにな。」
『何も話さずにいた、陽葵も悪いですが、それでいじけた主殿の方がよほど子供っぽくて悪いと思うのですが。』
「そうだよ・・・な。勢いでもう来るな、とまで言ってしまった。」
秋貞は自分のしたことについて深く、深く反省していた。




