第13話
『失礼する。』
白髪をなびかせ、星の塔の奥へ奥へとずんずん進んでいくのは、今は式神に格落ちしてしまっている太古の神、翠。
翠は秋貞と陽葵の様子を見に来たのだ。
『秋貞の様子はどうだ。おなごよ。』
「みて・・・わかるでしょう?」
静かに陽葵は返答する。
秋貞は褥の上に寝かされたまま、身動き一つしない。かろうじて呼吸をしているのを確認できるぐらいだ。
「あなたはなんてひどいことをしてくれたの・・・?ほら、治してよ。秋貞様はきっと苦しがっておられる!!さあ早く治しなさいよっ!」
珍しく陽葵は気が動転して、どなる。陽葵は翠につかみかかり、治すよう促す。
『すまなかった。おなごよ。今、光の毒を抜く。しばし、落ち着いてまたれよ。』
翠に手でぐ、と制されやっと陽葵は落ち着いた。
数分後。
秋貞が静かに瞼を開く。秋貞の薄く開いた瞳の先にいたのは泣きじゃくる愛くるしい女陰陽師である、安倍陽葵。秋貞は手をのばし、陽葵の頬を触る。
「悪い、傷がついてしまったな。仲間を守るのは俺の仕事なのに。」
秋貞は翠玉のかけらが当たって、切れてしまった陽葵の頬を心配していた。
「・・・!!そんなっ、それは秋貞様のせいではありませんっ!」
陽葵は首をぶんぶんと横に振る。
「しかも秋貞様は私をしっかり守ってくださいました!現に今、私をかばったときの傷があるから寝ていらっしゃるのですから!!とってもかっこよかったです。ありがとうございます・・・こんな足手まといにしかならない私のために・・・」
秋貞はふ、と笑い
「足手まといなんかじゃない。お前は俺の大事な仲間なんだから。」
この言葉に陽葵は涙が止まらなくなってしまった。
* * *
『お取込み中悪いのだが。すまなかったな、秋貞。おなご。我は今から大海へ行って、村を修復してくる。失った命はもう戻らないが、魂だけでも清らかな場所に届けたい』
「そうか、お前は先程まで操られていたのだったな。もとは優しい太古の神だ。仕方がなかったことだと思え。俺はきにしない。・・・大海から帰ってきたら、俺の式神にならないか?」
突然の秋貞からの願いに戸惑う神、翠。
『我を許してくれるのか・・・。おかしな人間たちだよの。ありがたい。こちらこそよろしく頼もう。主殿。』
こうして秋貞は式神を手に入れた。




