第9話
「くそっ、善則のやつ逃げやがった!!!!陽葵・・・あのバカ。追いかけて行きやがって!すぐに助けに行きたいが、あの黒い道を分析して、作るのには時間がかかる・・・無事でいろよ」
と、心配して烏帽子が飛ばされて行っても気づかない秋貞に同じく放心状態の左大臣が話しかける。
「賀茂殿・・・今、何が起こったのだ?」
「・・・見ての通りだ。大姫を善則がどこかへ隠し、善則は逃げ、陽葵はそれを追いかけ、黒い道へと消えた。黒い道はどこへつながっているかわからないが、確実に大姫様はその中にいるはずだ。」
「娘は・・・幸世は無事なのだろうか。」
「分からない。あの道の先にいるということしか・・・!!だが、この屋敷から邪な気配は全くない。妖怪も共に去ったということだ。」
「そうか。」
「これから、大姫様と陽葵を連れ戻すことに専念します。」
「頼んだぞ。私もできる限りの援助は、行おうと思う。」
と左大臣は秋貞に言った。秋貞は陰陽助に協力を要請するため、久々に陰陽寮に出向いた。
* * *
善則を追いかけて黒い道に無我夢中で走っていた陽葵は、いつの間にか、わけのわからない世界に出ていた。周りを歩くのはひらひらとした歩きにくそうな衣装を着ているし、傘をさしている。
「ここは・・・どこ?」
本人は理解していないが、異世界ループを陽葵はしてしまっていた。
とりあえず、通りがかった女性に話しかけてみる。
「あの、すみません・・・」
「hi.」
女性は気軽に応じてくれた。
「ここはどこですか?」と聞いてみると思いっきり変な顔をされた。
「what do you say??」
(今、この人なんて言った?わどゆせい?何それ。個々の名前なのかな?)
言葉が全く通じていないことに気づいていない陽葵。すると、向こうから女性が歩いてくる。そして、陽葵に声をかける。
「ここは、西洋です。日本の東にある大陸です。」
(すっごいきれいな黒髪!!日本人だよね!!)
「?日本から来たのよね、その服じゃ怪しまれちゃうよ。着替えに行きましょう。それと、ここは違う国だから、言葉は通じないので気を付けてね。」
「ご忠告ありがとうございます。・・・って、え!?ことばって、通じないんですか!?」
「そうよ。さっきの女性がなんて言ってたか分かった?」
「いいえ・・・。」
「あなたはなんて言ってるの?って質問してたのよ。この国の言語は英語って言ってね、日本語とは全くの別物ってわけ。」
「そうなんですか。あ、そうだ。」
陽葵は、この西洋に来た目的を今、おもいだした。
「あの、こちらに左大臣の大姫様を探しに来たんです。日本人の女性を見かけたことはありませんか?」
女性に一か八か聞いてみる。
すると、明らかに一瞬女性の顔が強張った。この女性は何か知っている、知っていて隠そうとしている、そう陽葵は思った。
先ほどのすましている元の顔に戻った女性は、「知らないわ。そのような人は。ここではほとんど日本人なんてみませんから。どのような方ですか?」
女性が質問をしてくる。少しでも情報を得るために嘘をついてみようと一瞬思った陽葵だったが、陽葵も大姫様の顔を見たことがない。ただ、日本人だということしかわからない。
「・・・すみません。私、実は、見たことがなくって。」
女性は、陽葵の言葉を聞き、ほっとした様子を見せる。
「私は、幸。東幸です。いろいろあって日本から逃げてきて、この西洋に来たの。あなたは?」
「私は、安倍陽葵です。見習い陰陽師をやっています!」
「そうなの、男性の格好をしていらっしゃるけど女性よね?」
またばれた。どうしてこう、簡単にばれるんだろう?男らしさが足りないのかなあ・・・否定しても意味はないと思ったので、肯定した。
「そうです。」
「いろんな事情があるのねー。男の格好をするなんて。私もやってみたいな。・・・あ。これがいい!!」
と言って幸が手に取ったのは、超派手なドレスというものだった。