イケメン有罪~ケーキバイキング~
軽めの昼食を澄ました後、
彼女とウインドウショッピングをしながら
繁華街を散策する。
露店のクレープ屋のにおいに食欲をそそられるが、
誘惑に負けそうになるのを
唇をかみしめながら我慢する彼女は
一段と愛らしい。
これから向かう先は、
彼女の楽しみにしているケーキバイキングだ。
食べ放題のケーキバイキングといえば
女性同士で行くものだと思われがちだが
意外とカップルも多い。
大抵は、甘いもの好きの彼氏がついてきた結果ではあるので
一人黙々と食べている男が多い。
砂糖の原材料代で代金分の元でも取ろうというのか
トレーごと自分の席まで持ち帰ったティラミスをスプーンで食べている男や
多種多様なカットケーキで丸ケーキを作ろうと
苦心しながら自分の皿に盛り付けている者までいる。
イケメンならばどんな時も優雅にエレガントに。
俺はもちろん彼女を席までエスコートし、
軽く椅子を引いて着席を促す。
そして、慌てず、急がず、待たせず、
彼女のために一つ目のケーキを皿に取り
一杯の紅茶と共に彼女のもとへと運ぶ。
趣向を凝らしたケーキの繊細なデザインが台無しになるほど
山の様に乗せられた皿を並べているテーブルと
新しいケーキが追加されるたびに
我先にと砂糖に群がる蟻の様な者たちも
彼女の座るテーブルの気品あふれる光に
畏怖するかのようにこそこそと遠回りをしている。
その中で優越感に浸りながら自信に満ちた笑顔で
俺の届けるケーキを待つ彼女は輝いている。
食欲を満たすのではなく
彼女を満足させてこそ、
俺イケメン!
そんな彼女にぴったりの
かわいらしいデザインのケーキを持っていくか。
俺は、並ぶケーキの中から小ぶりだが作り手のこだわりがわかるような
デザインの凝ったケーキを取ろうとトングに手を伸ばす。
どうやら隣にいた女性も同じケーキを取ろうとしていたようで
俺のトングを握った手を上から掴み、慌てて謝罪される。
なに、気にすることはない。
もちろんイケメンならレディーファーストくらい心得てるさ、
もちろん君の分を先に取り分けさせてもらうよ。
俺はイケメンスマイルで左手を差し出し皿を受け取ろうとしながら、
『おいくつですか?』
その女性は俺の左掌の上に軽く手を置き
頬を少し赤く染めながら、
『24です』
この女24個も食うのか。
皿はどうした、この手はいったいなんだ。
不意の切り返しに戸惑うも
俺の背中に突き刺さる彼女の視線が我に帰す。
まずい、この状況はまずい。
俺はあるだけのケーキをその女の皿に乗せ
急いで彼女の元へと戻る。
俺の持ってきたケーキをそっぽを向きながら食べる彼女の傍らで
謝りながら紅茶のお代わりを用意する、俺。
そんな俺の背中に周りの囁き声が降りかかる。
『なんだ執事なのか・・・』