開戦前夜
1939年 8月 ドイツ ベルリン
総統官邸 総統執務室
五人の軍服姿の男と二人のスーツ姿の男が執務机の前で立っていた。黒いスーツ姿の男が執務席に座る小柄な茶色のスーツ姿の男に報告する。
「総統閣下、現在、我が情報部がポーランドや英国、フランス、ソ連に潜入させた諜報員からの最新の情報によればピウスツキは我々の要求を認めず、対決するつもりのようです。既に西ポーランド地方に居るドイツ人やユダヤ人の迫害が始まっており、一部地域では虐殺も有ったとの報告も上がっております。また、更なる大規模な虐殺が行われる兆候が有るとの情報も入っています。迅速に対応する必要があります。英国やフランスは我々がポーランドに宣戦布告した場合に備えて既に動員を開始しました。 既に英国海軍本国艦隊がコルフ島からドーヴァー海峡に集結しつつ有るとの情報も入っています。」
「我が防諜部も英国のスパイが活発化しているのを察知し、既に1500名近いMI6諜報員を逮捕しました。」
「なるほど。それは不味い。我が軍の対応はどうなっている?」
「現在、空軍は独仏国境方面に戦闘機を1000機、沿岸の基地に800機配備。ポーランド方面に1500機展開。爆撃機を独仏国境方面に650機、沿岸の基地に600機、ポーランド方面に800機展開。何時でも命令が有れば5分以内に各方面に出撃できます。」
「海軍は、既に戦略原潜を2隻、英国近海に派遣。又、ドーヴァー海峡に集結中の本国艦隊に対抗して連合艦隊と北海艦隊及び第一航空艦隊に戦闘待機命令および警報を発しました。また、第二航空艦隊にポーランド方面への移動並びに戦闘待機命令を発しました。18時間以内に出撃できます。」
「陸軍は現在、独仏国境方面に五個機甲師団を、沿岸地帯に三個海兵師団を展開。ポーランド方面に八個機甲師団と、五個騎兵師団、四個降下猟兵師団を展開。命令が有れば12時間以内に出撃できます。」
「現在、親衛隊はジークフリード要塞線に四個近衛師団と戦闘機1000機、ルーデンドルフ要塞線に三個近衛師団と戦闘機1000機を展開。これにより英仏連合軍の侵攻から防衛します。」
「既に武装親衛隊はポーランド方面に四個機甲師団を展開。何時でも命令が有れば18時間以内にポーランド領内に侵攻できます。」
「なるほど。空軍や海軍、機甲師団は陛下の御命令通りすべてティーガーI、ティーガーII、IV号、III号、パンター戦車や新型戦闘機や新型艦艇に更新済みか?」
「はい。既に全軍の機甲師団が更新済みです。」
「空軍も新型ジェット戦闘機に全軍の戦闘機部隊が更新しました。又、全軍の作戦機の半数がジェット機に更新しています。後、3年以内に全軍の全ての作戦機がジェット機に更新される予定です。」
「海軍は先日グラーフ・ツェッペリン級正規空母最終番艦が完成しました。これで空母戦力は計画通り65隻の配備が完了しました。戦艦もH級戦艦は3番艦が先週起工し、潜水艦も新型のU-XXI級65番艦が進水しております。後、2年以内に計画通り120隻の戦艦と65隻の空母と潜水艦300隻を中核とした艦隊が完成する予定です。」
「2年後には英仏ソ米にも負けない強力な列強国として復活するわけか。ポーランド侵攻作戦そのものはどうなっている?」
「現在、情報部の情報によればポーランド軍は国境地帯を完全封鎖し、ポーランド在住ユダヤ人、ドイツ人地区を包囲する様に3個機甲師団と8個騎兵師団、5個砲兵師団、9個歩兵師団からなる部隊が展開。更にポーランド陸軍航空隊の全戦力の1/4に当たる戦闘機100機、爆撃機50機が該当地域の防空を担当。我々の侵攻に備えて警戒しています。まず、空軍が開戦と同時に各航空隊基地を空爆。迎撃機を掃討し、10時間以内に制空権を獲得。24時間以内にポーランド軍陣地を空爆。その後、26時間以内に親衛隊の弾道ロケットで残存主要基地や主要都市を爆撃。36時間以内にポーランド領内に地上部隊が侵攻。と同時に現地レジスタンスとブランデンブルグ大隊によるゲリラ戦を展開。48時間以内にドイツ人、ユダヤ人地区を解放。その後、ワルシャワまで進撃。独ソ不可侵条約に基づきブーク川のラインまで制圧。ブーク川以東のソ連軍占領予定ライン以外を占領。その後、残党の掃討を行い、ポーランドを完全占領します。」
「上出来だ。その案で進めてくれ。陛下に御報告しておく。」
「しかし、英仏連合軍が宣戦布告してきた場合、現有戦力では勝ち目は薄いかと。」
「問題ない。今回も前回のチェコ同様、英仏は融和
策を出すはずだ。例え宣戦布告しても進撃してこないはず。案ずるな。ジーク・ハイル!」
「はっ!ジーク・ハイル!」
それを合図に空海陸軍の元帥と情報部長官、防諜部長官が執務室を退室していく。
執務席に座る男は一人残り呟く。
「再び戦いに挑む....か....」
この1カ月後、第二次世界大戦が勃発した。