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正常な世界にて  作者: やまさん(発達障害者)
42/52

【第42章】

 盲目のガンガールはバリアフリーを活用する。あざとい絶対領域の映える両足が、点字ブロックのラインを堂々進んでいく。

 もちろん黄色いラインは、この駅事務室へも伸びていた。そして、勘か偶然か、彼女は途中の分岐でこちらを選んでしまう……。

 ラインに沿う律儀な歩き方は、ファッションショー気分かと思わせる。険しく焦りのこもる顔つきは別として。ガンガールは近づきつつ、装填し終えたショットガンを構え直した。予備の弾が無いらしく、ここで決着をつける気だ。


 別の出入口はないかと、坂本君が室内を見回した直後、ガンガールが発砲する。間近で飛散するガラス片、床に落下する古いデスクトップパソコン。

 驚いた拍子に悲鳴を軽くあげてしまう。あと少し左横に立っていたら、顔面に散弾やガラス片を満遍なく受けている……。

「入ってきた後、一気に掴みかかる?」

「うん、同時にね」

伊藤と坂本君が小声で話す。様子を伺い、彼女に飛びかかるとのこと。いざとなれば、私も加勢しよう。

 ……ただ、いくら一人が相手でも、三人がタイミングを上手く合わせられるかな? 声を出さずに「一二の三」で合わせても、わずかな息遣いを彼女は聴きつけるかもしれない。止血したとはいえ、伊藤はケガした身だ。

 あのショットガンはセミオートで撃てる銃で、もし片方、できれば伊藤が撃たれ、坂本君と私で取り押さえる流れになっても、ギリギリ対処されてしまうかも……。事務室内の狭さから、二発で三人に命中という奇跡すらありえた。

 うん、確実に勝つためには、人数差だけではダメだ。相手は一人だからと安直に考えれば、私たちはそこに転がるお二人と共に、ここで腐りゆく運命になりかねない。


 あんな具合に腐り果てるのはイヤだと、小学生カップルの死体へ視線を移したとき、彼らの防犯ブザーに目が止まる。

 遺物であるアレは囮に使える! かなり古典的だけど、わずかでもスキをつくれるなら、やる価値はあるはず。

 鳴り響くガンガールの靴音にも突き動かされ、取りに向かう。足音を立てないよう、両膝つき足早に! 割れたガラスドアの向こうには、ガンガールのしかめっ面が浮かんで見える。坂本君と伊藤は察してくれていた。スキを伺い、逃げるか取り押さえるかしてくれるはず。

 防犯ブザーの片方を手にし、蛍光色のヒモを摘まむ私。それからピロティへ勢いよく投げた。私の指とブザーの間で、ヒモがピンっと一瞬張る。そして、ブザー本体からヒモが引き抜ける。

 うるさく鳴り始める防犯ブザー。ドア前まで来たガンガールの右耳に達したときだ。

「ピィピィピィピィピィピィ!」

敏感な耳に叩きつけられる大音量に、ガンガールの険しい表情から苦しげなものに一変する。立ち止まり、右耳を痛そうに押さえつけた。片手で持つショットガンはフラフラと震えている。

 ……だがそれは、数秒ほどのスキに過ぎなかった。強く投げたせいで、防犯ブザーはピロティの床を滑り、歩道のほうを消えてしまう。音そのものは聞こえるけど、ガンガールを苦しめるほどじゃなくなった……。

 仕返しとばかりに、彼女は再び発砲してみせる。枠から外れんばかりに開く駅事務室のドア。開いた勢いで残りのガラスも落ち、出入口の床は輝きで一杯だ。踏むと目立つ音を立ててしまうから、余計逃げづらい。ガンガールは慎重な足取りで、駅事務室へさらに近づく。完全に居場所を把握された。

 坂本君は伊藤に目配せし、壁に掛けられた竹箒を伊藤に促す。車に銃を置いてきてしまった彼向けの武器だ。坂本君はピストルが握りしめている。彼の腕前を考えれば、背負う弾切れ小銃で殴りかかるほうが、勝機あるんじゃないかな。

 ガンガールは銃を構えながら、点字ブロックの警告部分から一歩踏み出した位置に立ち止まる。警戒しているのか、しびれを切らした私たちが音を立てるのを待っているのか。ガラスドアの手前に、じっと立つ彼女。


 ……坂本君が早くも我慢できなくなり、ピストルを構えながら、ガラスドアの前に立とうとする。慎重に足を置けば、ガラス片は音を一切立てないと、軽く考えているみたい。伊藤のほうは、竹箒を壁のフックから慎重に外す最中だ。

 二人が失敗したときは、私が彼女に銃弾を撃ちこむ。刺し違える覚悟だ。潜む高山さんが、あのスナイパー少女やガンガール以外に手駒を残していないと祈る。

 今ココで警告をコミュニティまで届けられれば、たとえ私たちが死んでも、何らかの対応を取れるはず。コミュニティと高山さんの組織とが共倒れになる展開でも、後を考えれば最悪構わない。

 リセット前の高校生活ですら、高山さんには一定のカリスマがあったじゃないか。この戦いを「成功体験」に、権威や勢力やらを倍増させるバッドエンドも考えられる。

 室内に残る固定電話やパソコンに目が移りながらも、肝心の通信環境が死んでるじゃないかと思い出す。

 即撃ち殺されるけど、ここで大声を張りあげれば、どこまで聞こえるかな? 私の目は駅長机に放置されたメガホンに目が移り、そばの機器にも。


 ……耳障りでしつこくうるさい音。あの二つを「悪く」使えば出せる! 普段なら怒られるやり方で。

 悪用を思い立った私は、急ぎ足で駅長机へ向かう。足音を気にする余裕はない。転がるイスは蹴飛ばしてやった。

「おいっ」

坂本君は悲鳴に近い小声を発し、私を引き留めようとした。説明する余裕もなく、構わずに急いだ。

 背後から発砲音。幸い、放たれた散弾は運良く逸れ、ホワイトボード一面に当たる。細切れになった文字が、破片となり飛び散った。

 死の恐怖を改めて感じたけど、立ち止まれば現実となる……。

 私はメガホンを握りしめるなり、機器へ飛びつく。急いで背面へ手を伸ばすと、電源ボタンらしき突起に触れられた。迷うことなくそれを押したのは当然だ。次の散弾が、私を細切れにしないと限らない……。

 眼前の機器こと駅構内放送機器は、一番大きく目立つランプを赤く灯した。機器内部だけでなく、天井のスピーカーからも小さな音が鳴り始める。こういう機械に詳しくない私でも、いつでも使えるとわかる。

 私は浮足立つことなく、メガホンの電源を入れ、赤いランプを灯した。こっちのは小さいけど、頼りにする身からすれば同じだ。天井のスピーカーも、まるで同意しているかのように音を……。

「わあああああああ!!」

マイクテストじゃなく、私は必死にメガホンへ叫び続ける。カラオケのサビ部分でもこんな大声をあげたことはなく、早くも息苦しいけど耐えなきゃいけない。

メガホンから発せられた声は放送機器を通じ、駅構内すべてに流れていく。

 それも私の声だけじゃない。放送機器がメガホンの音声を増幅させ、「キーーーン」というハウリング音を狂ったように放ち続けるのだ。片方が沈黙するまで、コンビによる演奏は終わらない。


 安直なやり方だけど、ガンガールに大きなスキが生まれてくれた。彼女はガラスドアの元で両膝をつき、両耳を痛そうに押さえつけている。ショットガンはガラス片の中へ落ち、カチャリと音を立て、銃口から硝煙を漂わせるのみ。

 耳を押さえながらも、坂本君と伊藤は反撃に動いてくれた。私の口と手は塞がっているから、ここは二人が頼りだ。

 ……ところが、狙いを定める素振りすらなく、坂本君はピストルをひたすら撃ち始める。伊藤は箒を握りしめたまま、流れ弾を恐れ立ち尽くすばかり。

「ちゃんと狙って!」

怒りと焦りがこみ上げた私は、一呼吸おき、言葉を挟まずにいられなかった。表情で軽く謝る坂本君。

 ほんの僅かなスキマ時間にもかかわらず、このスキをガンガールは逃さなかった。彼女は指を切るのをいとわず、足元のショットガンへ手を伸ばしていた……。


 【つづく】

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