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正常な世界にて  作者: やまさん(発達障害者)
38/52

【第38章】

 名誉の戦死を遂げた二人を、仲間がエレベーターに乗せる。粘度の高い血液が、シーツからボタボタ垂れていく。赤黒い点線が廊下に伸びる。

 遺体二人分を寝転がせたため、私含め四人はエレベーターに乗り損なう。私と坂本君と伊藤、ゲート係の生きてる方の男だ。

「階段でおりるよ。酷いケガ人を先に連れていって」

伊藤は仲間にそう言うと、階段へ向かう。ドアが閉まり、降下していくエレベーター。

 私たちも階段へ向かう。一階とこの最上階を自力で往復する形だけど、文句言える立場じゃない。私と坂本君も戦ったとはいえ、反撃されない遠距離からの一方的な戦いで、ケガは彼から受けた火傷だけ。



「オレたちの戦果は、狙い撃ってきた女子だよ。この銃で見事命中さ」

「距離がけっこうあるのに、すごい偶然だね。まさに数撃てば当たる」

「いやいや、偶然じゃないよ。オレが撃てば必然になるよ」

伊藤相手に豪語する坂本君。もちろん、空薬莢で私に火傷させた件は話さない。まあ多分、私から話したところで、彼は上手くきれい事にするだろうね。

「森村さんは何か戦果ある?」

ゲート係の男が、単刀直入に尋ねてきた。

「うーん、今のところは……その……ゼロですね」

「ああそう」

失礼なレベルでテンションを下げてきた。

 あの少女の体内に私の銃弾が残っていれば、坂本君にギャフンと言わせられる。貫通していないことに期待だ。

「高山御殿には行くつもりだよね?」

「もちろん、すぐ行くよ! 今直行すれば、遠回りしたとしても、暗くなる前にアイツん家に着ける。急がなきゃ逃げられるから、このまま車で行ってくるよ」

「なるほど。……森村さんは連れてくんだろうね?」

「ああ、連れていくよ。オレは彼女をちゃんと守る男だからさ」

勝手に話を進める坂本君と伊藤。背後に私本人がいるにも関わらず……。

「銃弾を頭に撃ちこんでやる! 一発だけじゃなく五発ぐらい、いろんな角度から頭にさ!」

洋画の悪役が使うような、安っぽいセリフを話す坂本君。自信満々に自動小銃を見せつける動きも、なかなか愉快なもの。

「確実に殺せるのかい? 彼女は彼女で、ピストルぐらい扱えるだろうから」

「大丈夫だって! 頭に銃弾を何発か撃てば。健常者だろうが障害者だろうが死ぬもんさ」

スナイパー少女を仕留めた経験(私の手柄だと思うけど)から、慢心の域に達していた。戦いにまだ素人の私ですら、これは危ない兆候だとわかる。それから、過剰な自信を持った人間が、面倒臭い結果を起こしがちという点も……。

「他の勢力にも気をつけて。もう敵と捉えられてるかもしれないから」

「うん、了解。あそこの警察署を爆破したのは」

「私は行かないよ! 絶対行きたくない!」

二人の話に割りこむ私。そう言わずにはいられなかった。

 途端に二人は、階段で歩みを止めた。しかしそれは一瞬で、階段をまたおりていく。仕方なく、私も後に続く。

「高山と決着をつけなきゃいけないだろ? いつかはボクよりも森村のほうが、やる気満々だったじゃん!」

昔話を長期記憶から拾ってきた坂本君。確かにそんな時期もあった。 だけど今の私は、正直消極的な姿勢でいる。逆に今の彼は、積極的で冒険心に溢れていた。理由は自信過剰だと、あらためて把握できる。「理解」じゃなくね。


 高山さんはバカじゃない。少なくとも、私と同等以上の知能を持っている。そして、私や坂本君のような発達障害者とは違い、言語性指数と動作性指数はバランスがいい。おまけに、金持ちだし美少女だ。

 彼女の欠点といえば、精神病質で精神障害者手帳一級を持っているぐらい。つまり、世間では「メンヘラ女」と呼ばれる類の、れっきとした障害者だ。

 ……ただ、現代の日本社会において、女性の障害者というのは、男性のそれよりも同情を得やすいと、子供ながら正直思ってる。亡き坂本ママだって、そういう思いの元、私に忠告してきたわけだ。

 とにかくそんな現実から考えれば、ただでさえ綺麗な彼女からすれば、一級でも小さな欠点でしかない。包丁二本差しで闊歩していようと、慈悲深い男性が寄っていくはず。……いや、間違いなくそうなる。たいした男女病棟、いや、男女平等だね。

 話を戻す。結論から言うと、勝率は五割ほどだと考えている。私と坂本君がこのまま、高山さん家へ自信満々に赴くとだ。

 仮に彼女が在宅としても、リビングでポップコーンを摘まみ、映画をのんびり観ているとは思えない。手下から連絡がこないことから、失敗したと察せられる。あの彼女は逃げることなく、家の防御を万全に整えるだろう。

 そして、防御を整え終わり、トイレや腹ごなしを済ませた頃に、私たちがノコノコやってくるわけだ。慢心した坂本君はきっと、玄関から堂々と入ろうとする。

 しかし上手くいかず、先頭の彼は即死……。おおかた、室内に一歩足を踏み入れた途端、頭上のショットガンが火を噴くといった流れだろう。それから、私も逃げ切れずに死ぬわけだ。

 たとえ運よく逃げられたとしても、私はコミュニティで孤立してしまう……。他に身寄りがないからね。


「分が悪いと思わない? 絶対何か仕掛けられてる!」

「うん、それは十分あり得るね」

伊藤がフォローしてくれた。しかし、引き留めるつもりはないらしい。

「心配し過ぎだよ。せいぜい、上からボウリング玉が落ちてくるとかだよ。間違いなく高山は油断してるしさ」

いや、油断しているのは坂本君だ……。ついていくにも行かせるわけにもいかない。

「けど、たくさんいたらどうするの? 私たち二人だけじゃ、相手にならないよ? その……いくら坂本君が銃を……上手く撃てても」

腕前もそうだし、予備の弾にも不安がある。ついさっきも雨あられと撃ちまくったじゃない……。

「大丈夫だって! さっきの場所みたいに、高山の手下なんてガキか女しか残ってないに決まってるよ!」

彼が強弁する。とってもうるさそうに。

 ありえる話だけど、それは私たち二人も同じこと。私なんて、それら両方を満たしている。

「いくら女子供が相手でも、油断しちゃ駄目だよ?」

再び入る、伊藤のフォロー。しかし、口調に真剣さはこもっておらず、軽口レベルの些細な忠告に過ぎないとわかる。半笑いまで浮かべ、伊藤も油断する始末……。

 ああ、もう限界。

「いい加減にして! なんでそんな軽く考えるの!」

私は叫んだ。感情に動かされ、自分自身も驚く声量および早口で。


「…………」

「……えっ?」

即座に立ち止まり振り返って、凍りついた表情を見せる坂本君と伊藤。一瞬振り返ると、ゲート係の男もそんな顔を浮かべて、私を見下ろすばかりだった。

「えっと、ごめん……。少し調子乗ってた」

「うん、私も同じだ。ごめんね」

前方の二人はそれだけ言うと、階段を再びおりていく。とりあえず謝罪を受け入れ、私も後に続いた。坂本君が素直に謝ったのは、伊藤の手前だからかもしれないが、悪い気はしない。

 私たちにワンテンポ遅れる形で、ゲート係の男もおり始める。彼はたぶん、坂本君よりも驚いたんだと思う。「坂本君の付き添い」程度の存在と捉えてたのかもしれない。

 ……いやそれは、私の邪推かマイナス思考かな?



 一階のロビーへ続くドアが、坂本君と伊藤の隙間から見える。最上階にあがった際と違い、くだりは不思議と長く感じた。坂本君が突然振り返り、逆ギレをまた起こさないかと不安を覚えた。

 幸い、前方の二人はあれから何も喋らないまま、ドアを開け、ロビーに入っていく。ひとまず安心しつつ、私もドアを抜けた。

 しかし、高山さん家へこれから行く方針に変わりはないだろうね。二人は謝罪を口にしたものの、コミュニティの防御に専念するとは言ってくれなかった。

 私ができるのは、方針を渋々認めながらも、坂本君が調子に乗らないよう注意することだ。彼に「慎重さ」を求めるなんて正直大変だけど、私自身がやらなきゃいけない。……高山さんを倒すことぐらい、難しい課題かも。

「…………」

その課題の主である彼は、ドアを抜けてすぐの場所で背を向けたまま、凍りついたように立ち止まっていた。

 彼に顔面から衝突しかけた私。逆ギレを恐れながらも、理由を尋ねずにいられなかった。だけど彼は、前方に視線や意識を向けたまま。

「……それ、血じゃない?」

「うん、そうだね」

坂本君から三歩ほど前方では、伊藤も立ち止まっている。彼の声は冷静だが、足の歩みは止めざるをえなかったらしい。


 私は気づいた。ロビーに漂う異臭から煙っぽさがほとんど失せ、鉄臭さが牛耳っている点に……。

「ひどい?」

「……うん、これはかなりね」

自分の目で確かめようと、坂本君の脇を通り過ぎる私。

 途端に、赤い水溜まりと塊が目に映り、歩みは止まった。

 色合いや状況から、間違いなくそれは人間の血液……。そして、人間の体だ。

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