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正常な世界にて  作者: やまさん(発達障害者)
31/52

【第31章】

 死の恐怖に急かされつつ、軽トラまで戻れた私たち。だけど、ブルや兵士たちの追跡は続いていて、流れ弾がヒュンヒュンと飛んでくる。アスファルトで跳ねた銃弾が、軽トラのナンバープレートに当たり、軽い金属音を鳴らす。跳弾でも体に当たれば、大ケガだろうね……。

 水泳選手が飛び込むように、私たちは車内へ逃げた。しかし、車の正面は公園側へ向いていて、死の恐怖は全然収まらない……。今にも銃弾が、フロントガラスを貫通して襲ってきそうだ。

「早く! 早く行こっ!」

「わかってるって!」

坂本君が、突き刺すようにキーを勢いよく差し込んで、エンジンをかける。安っぽい音だけど、エンジンは元気よくかかってくれた。日本車万歳!


 坂本君は軽トラを勢いよくバックさせる。ブルを先頭に、公園からぞろぞろと出てくる兵士たち。まだ仲間がいたらしく、20人ぐらいの集団だ……。

 とはいえ、距離が取れつつあり、彼らの姿は小さくなっていく。しかし、銃弾が次々に飛んでくる状況はなかなか変わらない。

 そして、ちょうどその時、フロントガラスに大きなヒビが入った。流れ弾の1発が運転席側の端っこで貫通している。高速の銃弾は、車のフロントガラスなんて、プスプスと簡単に貫いてしまうと実感できた……。

「クソッ!」

坂本君は悪態をつくと、ハンドルを乱暴に切り、車を急反転させた。背中側は、鉄板とシートが守ってくれている。頑丈さは期待できないけど、流れ弾を真正面から受け止めるよりかはマシだ。

「飛ばすよ! すぐ近くだけどさ!」

勢いよく急発進した瞬間、私の背中がシートに埋まりこむ。ジェットコースターみたいな感覚だ。急ハンドルの直後ということもあり、私は少しだけ気持ち悪くなる……。


 車酔いに陥らないよう祈りつつ、私はバックミラーに目をやる。ブルや兵士たちの姿は、かなり小さくしか見えない。飛んでくる銃弾も、かなり減ってくれている。

「時間的にも方向的にも、このまま家に向かうしかないなぁ」

坂本君が、苦々しい表情を浮かべながら言った。車内に差し込む日光は、黄色からオレンジ色に変わりつつある。

 あの公園とセンターガーデンは、あまり離れていない。1本東の筋へ移り、少し進めば到着だ。だけどそれは、兵士たちが追跡しやすい道のりでもあるわけだった。

 坂本君が車を左折させる。バックミラーに、兵士たちの姿が見えなくなる。その数秒後、彼が再びハンドルを切り、今度は右折だ。これで流れ弾も見えなくなった。とりあえずはね……。


 私の悪い予想は、ホントによく当たる。体のどこにも銃弾が当たっていない事は、幸運の証だとは思うけど。



______________________________



 車の前方に、センターガーデンのゲートが見えてきた。出発した時とは反対方向だけど、こっち側も最低限の守りは確保できているみたいだね。……とはいえ今は、ちょっとした問題が起きているようだ。

「ああ、邪魔だな」

「ちゃんと止まってよ?」

逃げてきた避難者と思われる、10人ぐらいの人々が、ゲートの前に集まっている。ゲート担当の若い男性二人組が、避難者たちと言い合っていた。不穏な雰囲気だ。

 安全な場所だと察した人々が、中に入れろと叫んでいることぐらいは、簡単に把握できた。私自身が保護してもらえた身なので、彼らも保護されてほしいところだ。とはいえ、実際の問題としては、何人も保護するのは難しいんだろうね……。


 坂本君は、集まる人々の手前で車を停車させてくれた。私が声かけしなかったら、人々がブレーキ役になったかもしれない。そんな気がしたのだ……・。

 車の接近には気づいたはずだけど、人々はゲートでの押し問答で忙しいみたいだ。私たちは車から降りて、ゲートに近づく。

「早く中に入れて!!」

「お前らだけズルいぞ!!」

人々は口々に叫んでいた。どれも大声だけど、リセットによる大混乱に苦しんだ焦燥感が、そこに浮かび上がっている。私自身もたいがいだけど、多大な苦労をこの二日間で経験したんだろうね……。

「どいてくれよ!!」

坂本君が人々に呼びかけたものの、どいてはくれない。耳に届いていないのか、無視しているのか……。

 私たちは幸運なことに、そこの住民なんだ。ゲートをくぐり抜け、比較的安全に暮らせるわけだ。あの兵士たちを見かけたらきっと、報いを受けさせてあげるから……。


 突然、2発分の銃声が私のすぐ横で鳴った。しびれを切らした坂本君が発砲したことは把握できたけど、あまりにも突然の発砲で、私の耳や脳が震えるようだ……。

「今すぐどけ!! どけ!!」

彼が再び威嚇発砲しようとしたので、手を伸ばして止める。耳鳴りが酷いし、ここでの銃声は、あの兵士たちの関心を引いてしまう……。

 嬉しいことに、彼は制止した意味を理解できたらしい。もう手遅れかもしれないけど、人々をこれ以上怖がらせたくない気持ちもあった。

 威嚇発砲により、集まっていた人々は道をサッと開けてくれた。当たり前だけど、やっぱり怖がらせてしまっている。ついさっき、あの公園で兵士たちによる乱射を経験したばかりだしね……。



______________________________



 人々の大半は、銃を抱えて進む私たちを見た途端に、その場からそそくさと離れていく。そりゃあ、二人の高校生が大きな銃を手に、堂々としているもんだからね……。ゲート係の男二人でさえ、私たちが持つライフルと自動小銃に少し驚いたぐらいだ。

 とはいえ、私と坂本君も、あのグラウンドで助けに入ったのだから、人々は感謝するべきだ。モヤモヤした気持ちがする。

 そして、親子とジジイだけがその場に残り、じっと私たちを見ている。度胸があるのか鈍感なのか……。


「おっ、無事だったんだ。おばさんが心配してたよ?」

ゲート係の男が、坂本君に言った。まだ日没前とはいえ、こんなご時世だから、心配されるのは当たり前だ。

「千種公園でさ、自衛隊の連中が乱射してる!」

「ああ、そうみたいだな。そこの連中が言ってるよ」

集まっていたのはやっぱり、逃げてきた避難者だ。ふと横を見ると、さっきの射撃練習中に見かけた、あの親子がいた。母親と男の子で、子供のズボンには土の汚れが薄ら付いている。

「追われててさ! こっちに来るかもしれない!」

「そりゃヤバイな! 早くこっちに来て、その銃でなんとかしてくれよ!」

ゲートのこっち側よりも向こう側のほうが、まだ安全な場所のはず。悪いけど、まだ残っている3人は、1秒でも早くここから立ち去るべきだ。

「悪いけど、この車を動かすのは疲れるからさ。ボンネットを乗り越えてよ」

端から端までをゲートと呼んでいるけど、肝心の門に当たる部分は、2台の改造された車が使われている。2台ともセダンで、道端で「拾った」車らしかった。このセンターガーデン住民の車じゃないから、ボンネットを土足で乗り越えちゃっても構わないんだろうね……。

「よっと!」

「おっ、カッコいいな!」

坂本君は躊躇することなく、華麗にさっと滑るやり方で、ボンネットを越えていく。アクション映画で見かけるアレだ。ぶっつけ本番で成功するやり方じゃないけど、どこかで練習する機会でもあったのかな?

 私は彼のように、ボンネットを華麗に乗り越えることはできそうにない。なので、岩か何かのように、土足で踏む形で越えるしかなかった。私はデブじゃないけど、ボンネットにはきっと凹みができちゃうだろう。

「すいません!」

ボンネットに右足を上げたその時、後ろから声をかけられた。振り返ると、あの母親が私を見ていた。彼女の右手には、男の子の左手がしっかりと握られている。格好がアレなので、私は足を地面に戻し、向き直った。

「私たちも中に入れてくれませんか」

彼女が言った。お馴染みのセリフだね。一度振り返ると、気まずそうな顔を浮かべる坂本君が見えた。私もきっと、あんな顔を浮かべているに違いない。



______________________________



 私はここのリーダーではないし、誰でも簡単に保護していいわけじゃないことぐらいは察することができていた。

「すいません! すいませんけど、他の場所へ逃げてください! 早く!」

私はそう言うしかなかった。だけど私の中で、罪悪感がモクモクと湧き上がっていく。まあ、当たり前の反応だ。

「そんな!! この子は私が守らなきゃいけないんです!! 旦那が収容所から帰ってくるまで、私が頑張らなきゃいけないんです!!」

母親は叫ぶ。これもお馴染みのセリフだ。映画、アニメ、漫画、小説。それらで何度も聞いたり、読んだことがある。だけど実際に生で聞くと、心に強く感じるものだ。

 ……いや、私個人とっては、とても強烈にだ。


 彼女の旦那は、例の収容所へ送られたらしい。明るい噂話1つ流れてこない、あのヤバイ強制収容所へだ……。そういえば、『矯正収容所』が正しい名前だったね。

 つまり、あの不透明な脳の検査結果に基づき、その旦那さんも収容所へ送られたわけだった。暗い情報が自然に流れてこないところを考えると、かなり酷い場所なのは確かだ。

 そんなわけで最近、愛知県内の収容所で集団脱走が起きたらしい。しかし、その旦那さんが未だに帰宅していないことを考えると……。


 私自身がその人を強制収容所送りにしたわけじゃない。検査結果どころか、顔や名前すらも知らない人だ。実際に連行したのは、第二十一特別支援隊だろう。

 ……とはいえ、完全に無関係で無罪だとは断言できない。私や坂本君は、事の真相をある程度は知っている境遇だ。高山さんが、強制収容所など一連の企みに加担している事は、本人の言葉も含めて知っている。もしあの時なんとかすれば、状況が改善したか、時間稼ぎ程度にはなったかもしれない。

 あくまで仮定の話とはいえ、その人が強制収容所送りにならなかったかもしれない。つまり、完全に無関係で無罪というわけじゃないわけだ……。

 坂本君は、それを否定するだろうけど、その気持ちは理解できる。肯定してしまえば、精神を病むほど、猛烈な罪悪感を喰らうはず……。なにしろ私は、自分はただの傍観者だと、死ぬまで思い続けられるほどの根性は持ち合わせていない。

 どちらにしても、彼らを保護することは人助けになる。しかし、安易な行動は危険だ。


 私は、男の子と母親の風貌を観察する。判断材料を探るためだ。保護するための別の理由、もしくは保護せずに済む理由が見つかるかもしれない。



______________________________



 男の子は、小学校低学年ぐらいだ。私のほうをじっと見ている。本人は無意識だと思うけど、典型的な救いを求める瞳だった……。

 それから母親は、疲労感を顔にモヤモヤと浮かべていた。それを隠す余裕すら、今は持ち合わせていないらしい。とても演技には見えず、この二日間で一生分の苦労をしたように見えた。保護するための理由は、これで十分だ。


「わかりました。どうぞ、向こう側へ行ってください」

私はそう言った。自分でも驚くぐらい、ハキハキとした口調でだ。

 ここまでハッキリ言えたのは、罪の意識が思った以上に強く働きかけてきたからだ。もちろん、衝動性もいくらかね。

 とにかく、私が今できる行動は、この親子を保護することだ。坂本君や他の人は、私が絶対に説得してみせる。


 ただ、ゲート係の男二人は、互いに顔を見合わせながらも、止めようとはしない。坂本君なんて、黙って頷きまでしている。さすがの彼も、ここは良心に基づいてくれたらしい。腕につけた腕時計が4本に増えていることなんて、たぶん関係ないね……。

 近くにいるジジイが、私を無言で睨みつけているけど、スルーしておこう。ここで下手に何か言えば、付け込んできそうな気配だからね。



「気をつけてね?」

男の子は、自分の力だけでボンネットを乗り越えていく。元気がまだ残っていることを知り、私は心の中でほっとできた。

 その時気づいたけど、男の子はズボンからヘルプマークを吊り下げていた。雰囲気的に、知的障害じゃなくて自閉症だろうと、私は確信できた。男の子と母親が収容所送りを逃れた理由が、これで判明したね。

 ボンネットの向こう側にいた坂本君が、男の子の手を引き、地面に立たせてやる。彼や男二人もヘルプマークに気づき、なるほどと納得していた。

「もしかして、この子は自閉症ですか?」

男の子を追い、ボンネットを越えてきた母親に対し、ゲート係の男が言った。余計な口出しをするのは、坂本君の十八番だけど、彼もそうなのかな? まあ、私の判断でこの親子を入れるわけなので、文句は言えない。

「ええ、そうです。……でも、おとなしくさせますから!」

母親は戸惑いを隠せない。少なくとも明るくない、デリケートな話題なんだから、当然の反応だ。母親としての苦労話は、きっと長い物だろう。

「軽度ですが、俺とこいつもそうなんです。確か、この二人も発達障害だったはずですよ」

男は言った。デリケートかつプライバシーの話なのに、ちっとも包み隠さずにね……。坂本君の口の軽さを、改めて知ることができたよ。



______________________________



「ああっ、それはよかった! 避難所はどこも酷い有り様で、この子も私も落ち着けなくて……」

母親の顔に安堵が強く浮かぶ。昨日から積み上げた苦労の何割かが、これで報われたといった感じだ。

 自閉症という事は、私と同じく発達障害を持っているわけだ。しかし、この子は見た感じ、騒ぐ系の発達障害者(例えば坂本君)には見えない。その逆で、静かで落ち着いた雰囲気を漂わせている。とはいえ、母親の立場からすると、いろいろと苦労しているに違いない。


 ゲート係の男性二人も、だいぶほっとしているらしい。この様子なら、親子の保護に反対していないね。

「あのマンションの入口らへんに、伊藤という奴がいるはずなので、彼にワケを話してください。このコミュニティへ受け入れてくれるはずです」

「あ、ありがとうございます!」

いいとこ盗りされた気はするけど、母親と男の子が嬉しそうな表情を浮かべていたので、許してあげよう。


「森村、涙物の感動シーンはそれぐらいにして、早くこっちへ来ない? 銃声がなんか大きく聞こえてくるからさ?」

坂本君が言った。水を差す発言だけど、その通りだから文句は言えない。ブルたちが撃ち鳴らしていた、聞き覚えのある銃声が、確かに私の耳にも届いている……。



 私は再び、ボンネットに右足を上げる。踏み込んだ途端、ボンネットがボコンと鳴り、そこに凹みができた。もはやちょっとしたレベルだけど、これも普段できない経験だね。

「おい!!」

なんかジジイが後ろで叫んだけど、話は後でいいや。今度は向き直らない。

 私は無視し、ボンネット上をうつ伏せで進んでいく。手足を動かす度に音が鳴り、凹みができた。

「おい、話を聞かんか!!」

ジジイがまた叫んだ。今度は無視できない羽目に陥ってしまった。

 なにしろ、ジジイが私の両足を思い切り掴んできたからね……。ジジイが手を離さないので、私はボンネットでうつ伏せのままという、シュールな姿を晒している。子供の前だし、かなり恥ずかしいね……。

「離してよ!! 離せよ!!」

私は叫ぶが、ジジイは聞いてくれない。多分、耳に声は届いているはずなのにね……。

 今すぐ足をばたつかせて振り払い、ジジイの顔に蹴りを入れてやればいい話だ。履いているスカートはロングだけど、無様にパンチラしてもおかしくない……。



______________________________



 しかし、私の目の前にまだ、あの親子がいる。正当防衛とはいえ、年寄りに顔面キックを喰らわせるシーンなんて、見せられたもんじゃない。パンチラまでしたら、さらに教育上良くないしね……。

「おいおいジイさん! タダでJKの足を掴むなんて、図々しいぞ! そもそもお触り禁止だ!」

坂本君が言った。教育上良くないセリフを堂々とね……。

「パンツ見られたんじゃない?」

「後先無い年寄りはホントいいよな」

ゲート係の男二人まで、そんなセリフを吐いた。国がまだあった頃なら、3人セットで慰謝料を請求してやるところだ!

「ジイさん、離せ!! おい、早く離せ!!」

坂本君が大声で言う。ほんの数秒前まで、ニヤニヤ笑いを浮かべていたのに、態度がすっかり急変している。脅し文句を無意識に呟いてしまったかな?

「ワシも中へ入れろ!!」

「黙れジジイ!! 今すぐ離せ!!」

坂本君がボンネットに飛び乗り、私の足からジジイの手を引き離そうとする。

 飛び乗った瞬間に起きた、ボォンという轟音と振動に思わず驚いた私。だけど、ジジイの向こう側に、ブルおよび兵士たちの姿が見えた途端、そんなビックリなんてどうでもよくなる。十分に予想できた展開とはいえ、ホントにうんざりな気分だ。

「オオオオオオオッ!!」

ブルなのかはわからないけど、兵士たちのほうから雄叫びが聞こえてきた。間違いなく、銃撃再開の合図だろうね。

「あっち行けジジイ!!」

ボンネット上で慣れない姿勢の中、坂本君はようやく、私の足からジジイの手を離せた。

 力強く除けられたジジイは、硬い路面で尻餅をつく。平常時なら、ジジイの尻骨が心配されるだろうけど、今は非常時だ。まあ元々、年寄りはそこら辺にいるものだ。

「なんて乱暴な!!」

ヨレヨレと立ち上がってみせたジジイ。幸か不幸か、体は大丈夫みたいだね。顔はすっかり真っ赤に紅潮してるけど。

「ワシはオマエラよりも長く生きてっ!!」

怒鳴り始めたジジイの口から、ひしゃげた総入れ歯が飛散する。同時に血も飛び散り、私の膝下を赤く汚した。

「キャア!!」

鮮血とはいえ、素肌なので冷たさを感じる。失礼なジジイは、私の悲鳴を聞く暇も無いらしく、後頭部と口から血を垂れ流しながら、その場にバタンと倒れた。


 ブルや兵士たちが、威勢よく撃ち始めている。射撃再開直後の初弾により、ジジイの命は見事刈り取られたわけだ。当然、尻餅から立ち上がる姿はもう見られない……。



______________________________



 火事場の馬鹿力なのか、私はボンネットをパパっと進み終えられた。ボンネットから路面へ無様に落ちたぐらいだし、坂本君のような華麗さは無かったけどね……。


 車の陰に座り込んだ私の頭上を、銃弾が何発もピュンピュンと通過していく。鳴り響く銃声なんて説明するまでもない。

「この人たちを連れてくよ!」

「わかった! 伊藤さんや応援も頼んだ!」

ゲート係の片方が、親子をその場から離れさせる。自閉症の男の子が心配になったけど、幸い大人しいままだ。母親の真似をするように、両耳を覆っているぐらいだから大丈夫だろう。まあもしかすると、こんな酷い状況に慣れ始めているのかもしれない……。


 ブルの軽機関銃、兵士たちの自動小銃。合計約20丁の銃から放たれた銃弾が、ゲート全体にダメージを喰らわせていく。肝心のゲート部分である2台の車は、早くも廃車の姿に成り果てていた……。私たちはゲートで身を隠しつつ、反撃の機会、もしくは彼らが諦めて帰る奇跡を待つしかない。

「持ちそう!? ここは持ちそう!?」

坂本君が車のドアをコンコン叩くと、窓枠に残っていたガラス片がパラパラ落ちていった。

「伊藤さんの指示で、積んだり繋げたりしたから、まだ持つはずだけど」

「そんな……」

私は思わず呟く。もしここが突破されでもしたら、兵士たちはコミュニティへそのまま雪崩れ込んでしまう。もしそうなれば、さっきの親子は……。


 絶望的な近未来を思い浮かべたとき、銃声が止んだ。兵士たちが諦めて帰っていく奇跡を願ったけど、そうはいかなかった。

 ブルが軽機関銃のリロードを行なっている。自動小銃と違い、少し時間と手間がかかるみたいだね。

「チャンスっぽいね」

坂本君の言うとおりだね。これは立派な反撃できる機会だ! ……しかし、そこでおかしな事に気づいた。なぜ、自動小銃のほうまで発砲を止める?


 その回答はすぐに判明する。周りの兵士たちが、一斉に突撃を始めたのだ。アスファルトの路面じゃなければ、モワモワと砂埃が舞う光景だね。

 多分、リロード中のブルを守るだと思う。どうやら、チームワークは意外と取れているみたいだ。ダウン症の彼らにも、他人と連携する能力はあるらしい。昨日の地下鉄での件があるから、バカにしつつ油断してた……。



______________________________



 いやいや、感心してる場合じゃない。20人ぐらいの兵士たちが、こちら目がけて突撃してくる。こっちは3人だけで、しかもアマチュアだ。

「これは降伏させてくれないね……」

残ったほうのゲート係が、ズボンからピストルを抜き出す。彼も銃を既に持っていたようだ。そのピストルは個性的な見た目をしている。

「これは伊藤さん手作りだよ。1発ずつしか撃てないけどね」

安全装置らしき部分をオフにしながら、彼はそう言った。きっと、時々話題になる3Dプリンタで作ったピストルなんだろう。手作り感満載だけど、貴重な飛び道具には違いない。


 兵士たちは、無我夢中でこちらへ突撃してきている。ゲートまでの距離は50メートルも無い。全員で一斉に走っているからか、発砲は控えめだ。そのおかげで、私たちは物陰から応戦できる。私たち3人は、銃を構えてそれぞれ狙いをつけた。軍服は着てないけど、まるで塹壕の兵士だね。

 今さらな話だけど、突撃してくる兵士たちは、陸上自衛隊の装備を身にまとう同じ日本人だ。しかし、現在は敵なんだ。


 私たちは、突撃してくる兵士たち目がけて、銃弾を飛ばしていく。坂本君が自動小銃をマガジン1つ分撃ち終えると、数人の兵士が硬い路面に倒れていく。ゲート係の男が使う手作りピストルは、1発ずつ弾込めしなくちゃいけない仕様だったけど、威力や命中力は十分にあるようだ。

 坂本君がリロードする間に、兵士たちは軽トラの陰に身を隠したり、路面に伏せたりする。さすがにこのまま突撃し続けるのは、危険だからね。しかし、こちらに接近する機会を、しっかりと伺っていた。普段のような奔放さは皆無だ。

 そんな兵士たちの中に、坂本君から自動小銃を奪われたあの兵士を見つけられた。ヤツは銃の代わりに、ナイフを手にしている。元々真面目で、最後までやり終えないと気が済まない性格なんだろう。


 突撃が一時停止した隙を突く形で、私はブルの顔部分に狙いを定める。強化ガラスの向こう側に、ブルのニヤニヤ顔が見えた。ブルは興奮しながら、軽機関銃に新しい銃弾ベルトを装着しているらしい……。おぞましさを感じつつ、私はライフルの引き金を引く。発砲による反動にも、少しずつ慣れてきた。

 腕前の成長か、奇跡が起きたのか、銃弾は狙い通りの先に命中してくれた。ヘルメットの顔部分に直撃した途端、ブルの頭部がのけぞった。顔のニヤニヤは消え、今は苦々しさが浮かんでいる。


 ざまあみろ! 発達障害者を舐めるな!



______________________________



 ライフルの銃弾は、顔を覆う強化ガラスに直撃したけど、貫通まではしていない。だけどよく見ると、小さなヒビが見えるはずだ。やっぱりガラスはガラスで、金属の銃弾には勝てないということだね。このまま何発も直撃させれば、貫通させられるはず。つまり、対爆アーマー装備のブルを倒せるんだ!

 ちょうど弾切れだったので、私はポケットから予備の弾を……。


 ……えっ? ポケットに弾が1発も無い。しまった、他の残りは軽トラに置いたままだ! 助手席の足元に箱ごと置いてきてしまった!

 軽トラの周りには兵士だらけ。危険すぎて、とても取りに行けない……。さすがの坂本君でもお断りだろう


「森村! ライフルのが無いんなら、この弾でピストル使え!」

坂本君はそう言うと、小さな円筒状の物を投げてきた。いきなりのプレゼントにビックリしつつ、それを受け取る

 それは、坂本君から渡されたピストルで使える銃弾らしい。5発分が1つに繋がっている感じの物で、さっきのグラウンドで手に入れた弾のようだ。

 空のピストルをただ渡されただけなので、説明書は読んでないし、この銃はまだ撃ったことすら無い……。だけど、多勢に無勢の今、私が見学者に回るわけにはいかない!

 スカートのポケットの奥から、ピストルを取り出す。死んだ署長の銃で、西部劇に登場しそうな古臭いデザインだけど、頑丈そうな雰囲気を漂わせている。

 私は、受け取った弾をリロードすべく、ピストルのあちこちを急いで見回す。一番目立つボタンを、思い切って押す私。坂本君のせっかちさが移ったのかな?

 ピストルの弾を詰める回転部分が、カチャリと左側へ飛び出てきた。弾を込める穴が5つ空いている! おおっ、見事正解だね!

 小さな喜びと興奮を堪えつつ、弾5発セットをその穴にブスリと差し込む。そして、その部分を元の位置へ戻した。

「んわぁーーー!!」

順調なリロードに水を差すかの如く、大声が響く。

 ゲートのすぐ目の前に、兵士が仁王立ちしていた。先陣を切る形で来たその男は、ドラゴンズのバッジを胸に付けている。自動小銃を両手に持ったまま、ボンネットに上がろうとする。当たり前の流れだけど、こっち側へ来るつもりだ。

 私は、観た映画やドラマの記憶を頼りに、ピストルのリロードを素早く完了させてみた。確か、この鳥のくちばしみたいな部分を下げれば完了のはず……。

「んわぁーーー!!」

ボンネット上で大声をまた響かせる兵士。うるさく、ウザったい! 怒りと焦りの感情が一緒に急沸騰する勢いに身を任せ、私はそいつに発砲した。狙いを定めることなく、とにかくそいつに銃口を向けてだ。

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