【第30章】
千種公園で私は、ライフルのスコープを覗きこんでいた。ライフルを再び構えた私は、草木の中で伏せ撃ちの姿勢だ。自分で言うのはアレだけど、戦争映画の狙撃兵みたいだね。とはいえ、地べたに伏せる事への抵抗感はまだある。
銃口の先には数羽のカラスがいて、彼らは公園事務所付近でたむろしている。言うまでもなく、私がこれから撃つ的は彼らだ。カラスを撃つ機会が訪れるなんて、想像すらしたことが無い……。
カラスは賢い動物らしいけど、私たちには気がついていない。気がついた途端、一斉に飛び立ち、東山公園にでも飛び去るだろう。
「ホントにカラスなんて食べられるの?」
すぐ隣りに坂本君が伏せている。彼は、コンビニで調達した双眼鏡を使い、同じようにカラスを見ているはずだ。
「ホントだって。カラスの肉を料理する動画を、前に観たことがあるし」
あのカラスたちを、射撃の的だけじゃなくて、食糧として活用しようというわけだ。まあ、狩りという形を取れば、銃の練習で弾を使いまくっても許されるはず、という事情もあるけど。
「ゴミを食べてるから、肉が臭いんじゃない?」
カラスがゴミ置き場を漁る映像が、脳内で鮮明に再生される。袋が破れ、飛び出る生ゴミ。それを美味しそうに啄むカラス。そのままじゃないにしても、生ゴミが彼らの血肉へ化けるわけだ……。
「……まあ、臭いらしいけどさ。でも、それも慣れだよ慣れ。今やってる銃の練習と同じで、すぐに慣れちゃうよ」
「う~ん」
ラム肉みたいな臭みなら、慣れれば食べられるけど……。抵抗感は拭えない。
「それより練習に集中しなよ。グルメなのはいいけどさ」
いや、そういう問題じゃない。美味しいかじゃなくて、食べられるかの問題だ……。食品ロスの一種にもなりかねない。
とはいえ、今は銃の練習中だ。後でじっくり話し合えばいい。私は頭を軽く回し、気を取り直す。
再びスコープを覗くと、カラスたちがまだたむろしていた。野生動物には、人間社会の大きな変化なんて、理解できないか興味ないに違いないね。彼らは彼らなりに生きているのだ。
大自然の雄大さに心が移りかけつつも、私は照準の先を、一番手前にいるカラスに合わせる。仲間と会話中だ。狙う私は、引き金に指をそっと触れさせる。
「じゃあ、撃つよ?」
「うん」
坂本君の返事を聞き、私は引き金を……。いや、引いちゃダメだ。
スコープの左側から、歩く人がやってきた。10人はいる。カラスたちの背後を通り過ぎる形なので、今撃つのは危ない。
「やっと普通の人間がいると思ったら、こんなタイミングでかよ」
双眼鏡を覗く坂本君が、舌打ちを飛ばした。まあ、構わずに撃てと言わないだけ偉いね。
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どうやら、その人々は、この千種公園へ避難してきたようだ。重そうな荷物を抱えた人が多いからね。それに皆、この混乱で疲れている風貌を晒している……。
「ああ、この公園も避難所だった。向こうのグラウンドで、寝泊まりできるんだろうね」
木々が邪魔で見えないけど、あっちのほうで、避難所が開かれているらしい。襲撃されずに機能している避難所がまだあることは、多くの人々にとって救いだ。
その避難者たちが、通り過ぎるまで待つ。できる配慮だ。幸い、カラスたちは平然と、その場で戯れ続けてくれている。最後尾の人が、スコープの右側へ消えると、私は再びカラスに、照準の先を合わせる。
ところがその直後にまた、避難者たちが10人ぐらい現れた。どこかの避難所から移ってきたのかな? さらにその左側にも、避難者たちの姿が見えた。
「う~ん」
スコープから目を離し、ライフルを構え直す私。しばらく待つしかなさそうだね。
「……気をつければ大丈夫じゃない?」
「いやいや、練習中だよ?」
私がそう言うと、彼は軽くため息をついてから、双眼鏡を再び覗く。ほんの少しでも早く、私に銃の扱いになれてほしいようだ。
しかし、ついさっきなんて、暴発させてしまった。それに、スコープの照準通りに撃てたとしても、そのまま的中させるなんて、まだありえない話だ。急かさないでほしい。
「さっさと通り過ぎろよな。……おっ、やっと走ってくれた!」
彼がそう呟き、私はスコープを覗く。さっさと練習を済ませたい気持ちまで湧いてきたところだ。
……スコープ内で、避難者たちは必死に走っていた。反対方向へ逃げているわけじゃないけど、何かおかしい。みんな、恐怖心と焦りを、顔に強く浮かばせている。転んだ男の子を、母親が大急ぎで起き上がらせた。その子は、痛みを訴える余裕すら無く、母親にグイグイと引っ張られていく……。
「メシがもう底をついたとかかな? あいつらがカラスを食べ始めたら、練習に困るね」
坂本君が冗談を飛ばしたけど、私はスルーした。もし食べ物の奪い合いに巻き込まれたら、この銃を人に向けなくちゃいけないことになるはずだ……。
タタターーーンという尾を引く銃声が、数発分聞こえてきた。そう遠くない方向からの銃声で、私は地面に顔を伏せる。土の臭いが鼻につくけど、今はそれどころじゃないし、慣れる以前の話だ。
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「大丈夫! ボクらは狙われてない!」
坂本君はそう言いつつも、ピストルをしっかり握りしめている。私は恐る恐る、ライフルのスコープを覗き、さっきの避難者たちを探す。自分を狙う人の姿が見えたらヤバいけどね……。
カラスたちは皆飛び立っていたけど、避難者たちはまだ走っていた。幸い、誰も撃たれていない。だけど、顔に浮かぶ恐怖心や焦りは、1分ほど前よりも強烈だ……。
「兵士がいる」
避難者たちの最後尾に、自衛隊の兵士たちがいた。緑色の迷彩服のせいで、姿を視認しづらいけど、5人はいる。
「第21特別支援隊の連中だろうね。避難者の護衛なんて珍し」
ここでまた同じ銃声が鳴り響く。彼らが構える自動小銃が、次々に火を吹くのを目撃した。
どうやら彼らは、どこかにいる敵への応戦じゃなくて、避難者たちを急き立てるために撃ってるらしい……。弾が命中した人はいない様子だけど、立派な税金の無駄だ。
そして、さすがにカラスたちも、公園の外へ飛び去っていく。平和ボケした鳥頭でも、ようやく異常事態を察知できたらしいね。
「すすめ! はやくすすめ!」
兵士の急かす大声が、ここまで聞こえてくる。既に避難者たちは全力疾走だけど、彼らには不十分らしい。
避難者と兵士たちは、公園のグラウンドがあるほうへ去っていった。スコープ内には、人もカラスも映らない。おまけに、銃声がまだ時々鳴り響いてくるせいで、飛び去ったカラスは戻ってこない。
これは残念だけど、1発も撃てずに、今回の練習は中止だね。私以上に、坂本君は残念がるはず。
……そう思ったけど、坂本君の目は輝いていた。残念で悔し涙を流しているわけじゃなくて、幸運が舞い降りた的な表情を浮かべている。これは悪い予感がしてきた……。
「アイツらの銃を貰おう! 税金で買った物なんだから、ボクらが使ってもいいに決まってる!」
ほらほら、予感は的中だ……。悪い予感はホント当たりやすい。
「今はこれもあるから十分だよ!?」
「不十分! 自動小銃も欲しい!」
子供みたいな声を上げる坂本君。彼の酷い物欲に付き合わされるのは、これで何度目だろう。まあ私は私で、強い好奇心に突き動かされ、彼を巻き込んでるけどね……。
そして、早くも彼は、グラウンドがある方向へ歩き出す。つい今まで私に、このライフルの練習に集中させていたのにね。なんだか、このライフルが可哀想な存在に思えてきた……。
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坂本君1人だけで行かせるのは心配だったから、私も早足で追いかける。持ち慣れていないライフルはとても重い。これを手に走るだけで、ダイエットにもなっちゃうね。
先に着いた彼は、グラウンドを眺められる木々の間に身を隠し、双眼鏡で様子を伺っている。普段行わわている草野球でいうと、私たちは外野側にいた。地べたへの抵抗感はまだ拭えないけど、私は再び伏せ撃ちの姿勢を取る。
「ホントに盗む気?」
「盗むんじゃないよ。アイツらには棍棒ぐらいで十分さ」
彼は双眼鏡を覗き、グラウンドにいる兵士たちを目で追っていた。兵士たちのそばには、避難者の集団がいる。先ほど通りかかった人も見つけられた。
「なんか変……」
スコープを覗く前から、その場が異様な空気で満ちていると感じていた。その原因は、スコープで見回した途端に、すぐ判明する。
公園のグラウンドは、確かに避難所にはなっていた。だけどそれは、広い意味や好意的に見てというレベルの話だ……。
兵士たちは、避難者たちに度々銃口を向けて、命令および威嚇している……。「だまれ!」とか「すわってろ!」という大声を発しながらだ。さっきの威嚇射撃もそうだけど、民間人を保護している雰囲気じゃない。トゲトゲが鋭い鉄条網が、避難者たちをぐるり包囲し、虐殺すら始まりそうだ……。きっと、昼間の住宅街で見かけたトラックも、ここへ向けて走っていたに違いない。
とはいえ、自衛隊の兵士たちが、なぜここまでするのかは、さっぱりわからなかった。リセット前も、身柄を拘束される出来事は、社会で起きていたけど、これについては理由がわからないのだ。そのこともあり、不気味かつ不穏な空気が濃く漂っている……。
「なあ、森村? アイツらを殺して、みんなを助ければ、感謝までゲットできるんじゃない?」
坂本君は、ニヤニヤ笑いを浮かべながら、私とライフルに目をやる。物欲だけじゃなくて、名誉欲まで強烈になってきたようだね……。
「それに、銃の練習もできるしさ?」
考えは合理的だけど、彼の欲望に付き合わされる感じは拭えない。
「とまれ!! おいとまれ!!」
「こっちにくるな!!」
グラウンドの兵士たちが、口々に叫び始める。これは、私たちでも避難者たちにも向けられた声でもなかった。
なんと公園内に、ハシゴ付きの消防車が入ってきたのだ……。赤く大きな車体が、緑色な木々の中から飛び出してくる形で、ここから見ても迫力がある登場だった。一塁側から現れたそれは、ベンチをバリバリと破壊しながら、そのまま走り続ける。
ウ~~~というお馴染みのサイレンが鳴り始め、赤色灯も光り始めた。だけど、消防車が向かう先は、火事は起きていない。しかし、兵士や鉄条網に包囲された避難者たちはいる。これはきっと、避難者たちを助けに来たんだ! 銃の鹵獲が第一目標の、坂本君とは違う人間だと願いたい……。
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「とまれよ!! とまれったらもう!!」
兵士たちは叫びつつ、自動小銃を次々に撃ち始めた。消防車に何発か命中し、フロントガラスにヒビが走っていく。しかし、消防車は走行を止めず、危険を感じた避難者たちが、囲い内の反対側へ逃げていった。
鉄条網に消防車が衝突し、耳障りな金属音がキンキンと鳴る。針金の束を強く握りしめるような高い音だ。大人の腰の高さまであった鉄条網は、地面に押し潰されていく。
その際、一緒に跳ね飛ばされた兵士が2人いた。どちらもきっと、迫り来る大きな車体に、足がすくんでいたのかもね。1人は痛がりながらも起き上がれたけど、もう1人は地面に倒れたまま動かない。こういう場合は、名誉の戦死扱いになるのかな?
そして、勢いよく衝突した消防車は、その場で停車している。大きなタイヤには、壊れた鉄条網がバサバサと絡みついていた。これではもう走れない。だけどこれで、避難者たちの脱出路ができたわけだ! 潰れて地を這う鉄条網を、さっさと踏み越えればいい。
「出よう出よう!!」
「早く逃げろ~!!」
1人、また1人と、避難者が逃げていく。数人が逃げたところで、ようやく他の人々も逃げ始めてくれた。
「ああ、もう! ヒーローになるチャンスを奪いやがったよ!」
坂本君が悔しそうに言う。欲張ったせいかもね。
「このやろ~!!」
「にげるな~!!」
兵士たちは無論、避難者たちを黙って見送らない。ヤツらは、自動小銃を必死に撃ちまくった。しかし、頭がすっかりパニックらしく、銃弾はさまざまな方向へ飛んでいく……。私たちのそばの木にも着弾し、細かい木片が舞った。
そんな乱射でも、避難者が次々に撃たれていく。地味に苦しい具合の弾幕を張られている。このままだと、大半の避難者が、体のどこかを撃たれてしまいそうだ。昨夜の酷い救急体制を考えれば、たとえ急所じゃなくても、致命傷になりえる……。
「撃つな!! おとなしくしろ!!」
消防車から、屈強な男が4人降りてきた。うち1人はドライバーらしく、腕から血を流している。そして、全員が、消防や警察の制服を着ていた。名古屋自治政府の生き残りかもしれないね。
彼らは、近くで乱射を続ける兵士を取り押さえようとした。
「じゃまするな~!!」
だが、その兵士はやられまいと発砲し、ドライバーの男が蜂の巣にされてしまう……。今度は致命傷だった。
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流れ弾が消防車に穴を空けていき、サイレンが鳴り止んだ。壊れて鳴り止む際の断末魔は、酷く無気味な音色に感じた……。
「やりやがったな!!」
消防士らしい仲間の男が、消防車の付属品である消火器を、兵士に力強く投げつける。砲丸投げのような、ワイルドなフォームだった。
消火器は、兵士の顔に見事命中し、彼は顔を押さえる。かなりの激痛らしく、自動小銃を落とし、その場にうずくまった。
「いいドロップアイテムじゃないか」
坂本君は双眼鏡を覗きつつ、羨ましそうな表情を浮かべている。残念ながら、彼はきっと、重い消火器をあんなフォームで投げつけることはできないと思う。
もちろん、自動小銃という強力な武器を、その消防士は見逃さなかった。消防の活動服に自動小銃というのは、あまり合わない姿だけど、贅沢は言えない。
しかし、その合わない姿ではなく、せっかくゲットした武器を使いこなせないほうが問題だった。彼は、自動小銃を構えつつも、発砲することができずにまごついている……。
「おいおい、使えないなら拾うなよ。ボクによこせ」
坂本君が呟く。じれったい気持ちなのは、私も同じだ。
そばにいた仲間2人(警官姿)は、ピストルで他の兵士たちに発砲しつつ、消防士にアドバイスを飛ばしている。しかし、それでもなかなか解決しないらしい……。確かに、坂本君に渡したほうがマシだろうね。
そんな公務員3人組に、兵士たちは反撃の一斉射撃を喰らわせた……。警官からの銃撃で負傷している兵士まで、血を流しながら発砲している。よっぽど忠誠心が強いんだね。
しかし、今の彼らは一体、何に忠誠を誓っているんだろう? 蜂の巣にされた4人の死を見届けながら、ふと考えた。
「ちょっと行ってくるから、援護よろしく!」
しかし、考える時間的余裕は貰えなかった。坂本君が、あの自動小銃をゲットすべく、グラウンドへ駆け出したのだ……。
兵士たちは、避難者への銃撃を再開させている。死んだ4人が時間を稼いでくれたおかげで、多くの避難者が逃げられたものの、まだ残っている人々は大勢いた。危険極まりない行動だけど、坂本君の無謀さは、今に始まったことじゃない。私が、スコープを覗き、彼の姿を追う。
必死に逃げる避難者や、飛んでくる銃弾の狭い隙間をかいくぐる形で、坂本君は走り抜けていく。カッコいいけど、目的は火事場泥棒同然だ……。
消火器をぶつけられた兵士のほうを見る。なんと彼は、顔を押さえながら、わんわんと泣いていた……。かなりの痛みらしいけど、情けない兵士だね。まあ、自動小銃を取り戻して、それをゲットし損なった坂本君を、蜂の巣にしてしまう展開よりかは、確実にマシだけど。
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よっぽどの奇跡が起きたらしく、坂本君は無事に、避難者や銃弾の中の移動に成功した。彼は、元々自分の物であったかの如く、地面から自動小銃を拾い上げると、しっかりと構えた。銃口は、泣き続ける兵士の頭へ向いている……。
ところが、坂本君の表情がすぐに歪む。スコープ越しに見た仕草から、弾切れだとわかった。あの消防士がちっとも撃てなかった理由が、これで把握できた。
どうするのかを、私が考え始めるよりも前に、彼は行動を移してみせた。眼前の兵士を、銃の台尻で思い切り殴ったのだ……。いつもの事ながら、衝動的な行動を披露してくれる。後先は何も考えていないはずだけどね……。
殴打された兵士は、仰向けに倒れる。どうやら気絶したらしい。たかが高校生に気絶させられる兵士とはね……。
坂本君は、気絶した兵士の装備を漁り始める。予備の弾を探しているようだ。
ところが、他の兵士に気づかれたらしく、兵士たちは避難者への攻撃を止めて、坂本君のほうへ近寄っていく。気絶した兵士の装備を、坂本君が漁っている現場を見れば、誰でも彼が厄介な敵だと判断するはずだ……。しかし、彼自身は漁りに夢中で、迫りくる危機にまだ気づけていない。こんな状況で過集中かな?
私は、接近する兵士の1人に照準の先を合わせる。小さい頭部に合わせている余裕は無い。今は大きい胴体だ。
引き金を引く私。自分でも驚くぐらい、躊躇せずに発砲できた。これもきっと、衝動性による行動だろうね。
勇ましく放った銃弾は、目標の兵士に命中することなく、地面を跳ねていく。いきなり命中させられるとは思っていなかったけど、ガッカリ感はあった。
しかし、坂本君に近づいていた兵士たちを狼狽えさせ、彼自身には危機を知らせる事ができたようだ。彼は漁りを止め、ゲットしたばかりのマガジンを、自動小銃にセットし始めた。
危機が身近に迫る中、さっそく銃を使う気だ。アクション映画の主人公気取りで、兵士たちを一網打尽するつもりなのかな? 無謀極まりない……。
彼の卑しい行動を助けるわけじゃないけど、援護しないわけにはいかなかった。幸い、私の居場所は発見されていない。
ライフルのボルトをスライドさせ、次の弾を装填する。スライドの動作は重く感じたけど、その感覚が私に、銃弾の重みを教えてくれる。私は次々にこれからも、金属の小さな塊を勢いよく放つのだと……。
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発砲と装填を繰り返し、残り4発を撃ち切る。自分でも驚くほどスムーズに、最後まで発砲できた。スライドの動作も、段々軽くなっていると感じている。
とはいえ、凄腕スナイパーのようにはいかなかった。4発中1発が、兵士1人の横っ腹に命中しただけだ。
……いや、1発当てられただけでも上出来だといえる。けど、激痛に苦しむ兵士を見ていると、あまり素直には喜べない。
坂本君はというと、私の援護に浮かれた調子で、自動小銃による発砲を始めていた。気分はきっと、アクション映画の主人公だろうね。
とはいえ、彼も銃の扱いは素人で、ほとんどの銃弾が命中することなく、敵の横を通り過ぎていく。
しかし、思わぬ反撃だったらしく、兵士たちはさらに狼狽え、地面に伏せる者もいる。そんな兵士たちを尻目に、最後の避難者が公園の外へ消えていった。私と坂本君が掲げた目的は、これで達成できたわけだ。ここからさっさとおさらばだね。
ところが坂本君は、漁りに戻ってしまっている。少しでも多くの弾を確保してくれるのは有難いけど、ライフルは弾切れだ。予備の弾はあるけど、それをライフルに入れるやり方、つまりリロードは、ぼんやりとしか覚えられていない。
私の援護射撃が中断してから、既に1分が経った。兵士たちがじきに、警戒態勢を解くだろう。そうなれば間違いなく、現在進行形で漁りを満喫中の坂本君は、兵士たちの一斉射撃をお見舞いされる……。
私は記憶を頼りに、ライフルをリロードしてみる。弾を1発ずつ入れていくやり方だった事ぐらいは覚えていた。確か、スコープの下に入れる穴が……。あった!
ポケットから弾1発を取り出し、説明書を思い出しながら、穴に差し込んでみる。
カチャリという軽い音が耳に響く。やった! 私の記憶力万歳! ……いやいや、喜ぶのは早い。1発だけでは心もとない。一杯まで入れて、撃ちまくろう!
私はポケットから取り出した弾を、次々にライフルに入れていく。と思ったら、思わず急いだせいで、弾を入れ損なってしまった。銃内部のバネに弾き飛ばされていく弾……。いけない、いけない。
私のライフルから、再び銃弾が放たれる。発砲があと数秒遅ければ、落ち着きを取り戻した兵士たちによって、坂本君は穴だらけにされていたはずだ。ちなみに、坂本君は私の苦労など素知らぬ様子で、漁り続けていた……。
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再びの発砲で、スコープ内の兵士たちは、またその場で警戒しなければならなくなった。うんざりした表情まで浮かべている。思うように行動できなくて、イライラしてるらしい。
やがて兵士たちは、その場で警戒し続けることがバカらしく感じたのか、グラウンドの片隅にある軍用トラック数台のほうへ移動していく。うまく狙い、運が良ければ、兵士の背中に命中させられたかもしれない。だけど、引き金を引く直前で、私の指は止まった。卑怯な撃ち方だからね。
元々自軍とはいえ、敵兵を逃げるまで追い込めたわけだ。私の中で、達成感が沸いてくる。この調子でいけば、アニメや映画で見かける、凄腕スナイパーになれるかな?
私がつい呑気な展開を考えているうちに、兵士たちはトラックの陰へぞろぞろと消えていく。しかし、トラックを運転して逃げるわけじゃないようだ。運転できないのかもしれないけど。
坂本君のほうへ目を向ける。ちょうど彼は、一通り漁り終えたところだった。彼は、戦利品を高々と持ち上げながら、私のほうへ戻ってくる。ズボンのポケットなんてパンパンだ。
スコープから目を外し、腕時計をふと見ると、グラウンド到着から1時間近くも経っていた。そういえば、日光がいつの間にか、白色から黄色に変わっている。
10分間ぐらいだと思っていた私は、時間の早過ぎる流れに、静かに驚く。時間の流れ方というのは、不思議な仕組みが組み込まれているんだろうね。
時間についての連想が始まったところで、タタタタタタッという銃声が鳴り響いてきた。考察に耽る時間的余裕は、まだお預けらしいね。銃声は、まだ何度も連続して聞こえてくる。
スコープに目を戻し、様子を探る私。もはや、自然な流れでスコープを覗くようになっていた。
大急ぎで戻ってくる坂本君の姿が、スコープの中でどんどん大きくなる。彼じゃなかったら、小さな悲鳴を上げているところだ……。
「面倒くさいヤツが来たぞ!」
目の前に戻ってきた彼が叫んだ。その声には、焦りが隠れずに浮かんでいる。彼に尋ねるまでもなく、すぐに理由が判明した。
トラックのそばに、軽機関銃を構えた兵士が立っている。さっきまでいなかった大柄な兵士で、あちらこちらに乱射し続けていた。私の頭上にも流れ弾が飛来し、木の横枝を叩き割る。千切れた枝や葉っぱが、地面にバラバラと落ちてきた。
とはいえ、軽機関銃の乱射には、つい昨日経験したばかりなので、あまり怖さを感じない。だけど、その大柄な兵士が身を包んでいるアーマーは、威圧的な恐怖感を与えてくれた……。
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その大柄な兵士は、強烈な重厚感のあるアーマーで、身をすっぽり包み込んでいた。鋼鉄や強化ガラスなどの強固な素材が、贅沢に使われていることは、一目見ただけで把握できてしまう。あれは確か、爆弾処理で使われる特別なアーマーのはず。
つまり、すぐ近くで爆発が起きても耐えられるわけだ。それを着こんだ上で、軽機関銃を乱射しまくるとは……。ズルい組み合わせだね。
しかし、ここで降伏するわけにはいかない。私と坂本くんは、諦めずに撃ちまくる。たった2人分とはいえ、放った銃弾の一団が、重厚なアーマーに次々と衝突していく。的が大きいことは救いだった。
「フン! フン!」
虚しくも、銃弾はすべて跳ね返されてしまった。あのダークグレーのアーマーは、見た目通りの高い防御力を誇るらしい。小さな凹みすら見つけられない。頭部前面を覆う強化ガラスの向こう側に、兵士の得意気な笑顔が見えた……。ニタニタと笑う肉付きの良い顔は、ブルドックにだいぶ似ている。
リロードを終えた坂本君が、再び銃撃を喰らわせる中、その兵士はドシドシと歩き始めた。堂々と進み続ける姿は、力強いブルドーザーも連想させる。
ブルドーザーとブルドックか。あの兵士は幸運にも、ピッタリの役回りを任されたわけだね。愛着は湧かないけど、「ブル」という簡単なニックネームをつけてあげる。
とはいえ、今は自分のネーミングセンスに酔いしれる状況じゃない。私たちの居場所がバレてしまい、そのブルが接近してきているのだ。お返しとばかりに、軽機関銃からの銃弾もパラパラ飛んでくる。しかも、そのおまけとして、他の兵士たちも再登場を果たしていきた。切り札頼みというわけだね。
完全に一転して、私たちは不利な状況に陥る。ブルに対処できる切り札は、手持ちには存在しなかった。
「ブルには効いてないし、一旦下がろ?」
「……ブル? ああ、ここは転進しないといけないね」
思わず口ずさんだニックネームだけど、坂本君は理解してくれたらしい。危機的状況とはいえ、少しだけ嬉しくなった。
しゃがみながらの早歩きで、私と坂本君はその場から離れる。軍隊式の匍匐前進のほうが安全だけど、コンマ1秒でも早く逃げ出したい気持ちが優先した。案の定、すぐ頭上を銃弾がヒュンヒュンと通過していく。柵すら無い小さな駅のホームで、新幹線の通過を間近で感じるかのようだ。
銃弾が頭部を貫通した瞬間に死が訪れるという現実を、考えずにはいられない。幸いなことに、その強烈な恐怖心は、私の足を止めるのではなく、急がせるほうに作用してくれている。
恐怖で足が震え、動けなくなるよりは断然マシだけど、この分の疲労が後でドカッと来る気配は感じた……。




