2nd wind -breeze.2-
その翌日、僕は大事な話があるからと言って、ナツを自分の家に誘った。彼女は、いつになく真剣な僕の眼差しが気になったのか、部活が終わった後に寄ることを約束してくれた。
「ここに来るの、かなり久しぶりかも」
その言葉とともにナツが僕の部屋に入ってきたのは、午後六時を少し過ぎた頃だった。
「まあ、その辺に座れよ。今飲み物でも持ってくるから」
「ああ、そんなこといいから、大事な話って一体何よ?」
「ああ……。何か音楽でも聴くか?」
居たたまれなくなった僕は慌しく立ち上がると、CDラジカセのスイッチを入れた。そうしないことには、どうにも話を切り出せなかったからだ。
「相変わらず、ZARD聴いてるのね」
「好きな音楽って、そうは変わらないからな」
「それで?」
先を促すように尋ねてくるナツを目の当たりにして、僕の頭の中は一瞬真っ白になったが、それでも何とか自分を取り戻すと、一呼吸も置かずに一気に告げた。
「俺、お前のことが好きだ」
それだけを言ってしまえば、後は楽だった。喉元を塞いでいた栓は取り払われ、奇妙な高揚感と虚脱感が体中を包み込んだ。
「えっ……本当に?」
「五年前に初めて会った時からずっと好きだった」
「そんな……。でも私」
「わかってる。好きな男、いるんだよな? 兄さんのこと、好きなんだろ?」
「……知ってたんだ。でも、だったらどうして」
「自分に正直になりたかったんだ。真正面から向き合って、ナツに自分の気持ちを伝えて、それからお前の力になりたかったんだ」
僕は、想いの全てを吐き出してナツに訴えかけた。たとえその真意が伝わらなくてもよかった。僕はただ、彼女の置かれている非常識な状況を何とかしたかったのだ。
「嘘でしょ?」
「えっ?」
「力になりたいなんて嘘でしょ? 本当は、私のことを軽蔑してるのよ。兄妹でそんな関係になっている私を」
ナツはそう言うと立ち上がり、そのまま駆け足で部屋を出ていった。取り残された僕は、ただ彼女の言葉を真正面から受け入れるしかなかった。ナツの言ったことは、まぎれもなく僕の本音だった。僕は、表面では理解ある人間を演じながら、心の奥底では彼女を非常識だと軽蔑していたのだ。ZARDが切ないメロディーで歌い続ける中で、僕は二面性を持つ自分にうんざりしながらも、どうしていいかわからずにベッドで蹲るしかなかった。
それから一週間、僕はナツに声をかけることができなかった。あの夜から二人の間に心の隙間ができたことは明らかで、僕は彼女と正面から向き合えない自分と、常識の壁を乗り越えられない自分の中で二重の苦悩に苛まれた。ナツと浩樹との関係を肯定すべきだと考える一方で、それを即座に否定してもいた。そして、そんな二律背反する自分に嫌気がさした僕は、思い切って和泉に相談する決心をした。