私2 九月の事
またあまり気持ちのいい話ではありません。
『私』2 九月の事
お父さんとお母さんのお葬式が終わる。
二人は、列車の事故で死んでしまった。
二人以外にもたくさん死んだ人はいたけれど、そんなことはどうでもよかった。
今まで傍にあった当たり前が、一日で二つも消えた。
その事実が、受け入れられなかった。
ただ引き取ってくれたおじいちゃんの家で、だらだらと暮らした。
励ましてくれる人はいっぱいいた。
言葉は何一つ私の心には届かなった。
夏休みも何もせずに、家で寝て起きるだけを繰り返した。
夏のうんざりするような蒸し暑さも、空の鮮やかさも何も、感じられなかった。
九月の新学期が来るのが怖かった。
失ってしまった今までの自分が、どうやって生きてきたかを思い出せなかった。
おじいちゃんとおばあちゃんに、心配をかけないよう、新しい学校に行くと言った。
二人はほっとしたのか、ため息を吐いた。
おばあちゃんに至っては泣いていた気がする。
私の事がそれほど大事なんだなと、私も嬉しくて泣いた気がする。
ただ、二人から私はどこか距離の様なものを感じていた。
だから、心のどこかで、二人から距離を置く事を選んだ。
新しい学校に転校生としてデビューした。
自己紹介もそこそこに、地味に学校生活を送ろうとした。
親切に話しかけてくれる子には、嫌われないように、丁寧に対応した。
雰囲気も穏やかだから、やっていけそうだ。そう思っていた。
数日後、学校で調理実習があった。
カレーを作るらしい。
クラスメイトとの交流を深められるチャンスだと思った。
積極的に手伝おうと思っていた。
まな板の前に立ち、ニンジンを切ろうと包丁を握ったその時だった。
押し寄せてきたのは、嘔吐感だった。
頭の中に一緒にばんごはんを作ったお母さんの顔が浮かぶ。
そして次に病院で見たお母さんだったものも浮かぶ。
あたまが痛い。
おなかが痛い。
朝食べたご飯がおなかの中でぐちゃぐちゃとかきまわされている気がした。
そして口の中に強烈な酸味が広がり、やがてそれは口から放たれた。
目の前が暗転する。
体が重力に逆らう事を拒否し私の体は床へと倒れた。
その時のクラスメイトの悲鳴と、調理室の煤けた天井だけはよく覚えている。
いかがでしたか?
時間はまた進み、お見舞いの話しに戻ります。




