『私』8 残酷な現実
布団の温かさが心地よかった。
そのまま全てが溶けてしまえばいいのにと思った。
悲しいとか、苦しいとか、感じる事がもう面倒だった。
ある日、叔父の部屋の家具が一つ残らず捨てられた。
空き部屋ができて、私はそこを貰う事になった。
何も無い部屋に、ただ布団だけが置かれた。
それだけが私の居場所で、砦だった。
時間は早く過ぎて行った。
叔母さんとは、同じ家に住んでいても、別々に暮らしているみたいだった。
勉強だけは、何故か人並みに出来ていたので、高校受験に苦しむ事はなかった。
風が通り抜けるように、中学校生活が終わった。
何も感じずに、静かに。
もうすぐ高校生活が始まると実感できなかった。
また、中学校の頃のような、何も無く、何も感じない憂鬱な毎日が始まるのだ。
ある日、気晴らしに貯めていたお年玉を使う事にした。
かなりの額だから、当分はお小遣いをもらわなくても困らないだろう。
スケッチブックを買ってもいいな。
あとカラーボックスを買っておこう。
学校のものをしまうのにも便利なはずだ。
そんなウキウキした気分で、久々に外出した。
久々の外はとても寒くて、全身が思わず縮こまった。
三月の太陽は、気休め程度の温もりを、私に運んできた。
四月にはしっかりと働いてもらう事にしよう。
最近増えてきた口内炎や、陰部のできものの痛みは、堪える事にした。
自転車で少しの距離の文房具屋とホームセンターに寄ってから、まっすぐ家へと向かう。
カラーボックスは紐で自転車の後ろに縛っておいた。
部屋に一人で運ぶのは少々骨が折れそうだ。
玄関には、久々に叔母さんの靴があった。
叔父さんが死んでからというもの、互いに殆ど口を聞いていなかった。
久々に何か話してみようか。
何か変わるかもしれない。
勇気を出そうと、お腹に力を込めて、リビングのドアノブに手をかけた。
カラーボックスが落ちそうになった。
「あの子?あんな厄病神、さっさと死んでしまえばいいのに」
ドア越しに、はっきりとそう聞えた。
今まで聞いた事のない、憎しみのこもった声だった。
言葉のナイフが全身を突き刺し、手から力が抜けて、カラーボックスが床へと落下した。
ドアが奥へと開いた。
叔母さんが、冷たい目で私を見つめていた。
それ以降、私と叔母が会話することはなくなった。
私は誰にも愛されてなどいないことを改めて自覚した。
そして、もう誰も愛したくないと、そう思うようになっていた。




