Ⅶ あと少し
「おー、階段すごっ」
と、僕は言った。
二人で教会から出た先には、長い、大きな、白い階段が地上へと続いていた。下では何人かのスタッフが、結婚式の準備らしきものをしている。長いロープのようなものと、大きなクッションがあった。
空は相変わらず快晴で、鳥のさえずりが辺りから聞こえる。大体の鳥の鳴き声が、縄張り争いという、ロマンのかけらもない理由は、彼女には言わない事にした。
ドアの横にはずらりと、妖精を象った小さな銅像が、ここから出て行く人たちを見送るよう設置されていた。
「これキューピッドって言うんだっけ」
銅像を見る僕を無視して、階段を先に降りていく。彼女の左手に持つ杖の音が響く。
「結婚は人生の墓場って言うのに」
皮肉げに彼女は呟いた。
「またそういう事言う。相変わらず、夢もロマンもないな。一体誰が育てたと思っているんだ」
「いやあんたじゃないし」
それもそうか。彼女に追いつくために、二段飛ばしで階段を急いで降りる。転ばないように、慎重に足元に注意を配った。
「こういうのは、二人足並みをそろえるべきじゃ?」
「なんか私らが結婚するみたいで、嫌」
「じゃあ結婚しようよ」
人生初のプロポーズをしてみた。彼女は立ち止りプルプル震えだす。その間に彼女の横に立つ事に成功した。
「しねえよ死ね」
彼女は横に立つ僕の背中を思い切り叩いた。バランスが崩れ、ぐらりと階段から落ちそうになった。
「うわっ」
「あ」
体性を崩す僕に、彼女は杖を持たない方の、右手を差し伸べた。慌ててつかんで、なんとか体を安定させた。
「……」
手をつないだまま、気まずそうに彼女は顔を背けた。
「ごめん、やりすぎた」
「別にいいよ」
いつものことだと開き直る僕。とりあえず彼女の頭を撫でておいた。
「触んな、きもい」
彼女の蹴りが僕の膝に飛び出してきた。今度は落ちないように上手く体制を整えた。
さっきは撫でても何も言わなかったくせに。相変わらず、天邪鬼が服を着て歩いているようだ。
「はいはい、ごめんなさいごめんなさい」
適当に謝罪を繰り返して彼女の手を引く。さっき落ちそうになった時から僕の左手は彼女の右手と繋がれたままだった。彼女は拒否しないので、そのままでいることにした。
別に下心はない。真心だ。愛だから。
二人で手を繋いだまま、階段を降りていく。階段の下のスタッフは、今日の式の演出の準備で、僕と彼女に気づく事はなかった。
「結婚式、時間あったら見ようか」
階段を降りきる数歩手前で、彼女に言ってみた。
「……暇だったら」
彼女はぶっきらぼうにそう言った。それからゆっくりと、僕等は階段を降り切った。何人かのスタッフの人と目があったため軽く会釈をした。彼女は恥ずかしそうに俯いた。
「もうすぐ着くね」
俯く彼女に僕はそう言う。教会の門を出た先には、信号のない横断歩道があった。その向こうに、目的地の公園が見える。
「結構人いる?」
心配そうに彼女は言った。
「休みの日だしね、多分」
「人込み嫌い」
「人込みってほどじゃないよ」
「ガラガラの方が良い」
「わがままを言わない」
僕は彼女の頭をこつんと小突いた。その直後、彼女の右足が僕の向こう脛に直撃した。
「痛いです」
うずくまりそうな衝撃を、笑顔でなんとか堪えた。立っているのもやっとだ。どこであんな技術を習得したんだ。
「女の子に暴力振らない」
「君は良いのか」
「正当防衛です」
なんと彼女は、自分の事をきちんと女の子だと自覚していた。少し安心した。
もう少し、暴言と暴力を控えてくれたら、凄く助かるのだが。僕等は手を繋いだまま、短い横断歩道を渡った。




