教会にて
実在のとこです
Ⅴ 教会にて
時計を見ると、針は三時を示していた。
ゴーン、ゴーンと教会の鐘が鳴る。僕らが歩いている道のすぐ横には、城のような大きな教会があった。
「でかいねえ」
と彼女は言った。
「そうだな」
確かに、その辺りにある小さな教会とは、一線を画して大きい。ゲームの世界にでも出てきそうだ。僕らの目的地の公園の入り口の向かい側に、その教会の入り口があった。
「それより、さっき何言おうとしたんだ?」
鐘の音に気を取られている彼女に僕はきいた。十中八九さっきの風船の事だろうけど。
「あ、そうそう」
彼女は振り返ってさっきの木に手を伸ばし、引っ掛かっている風船を取ろうとした。案の定手は届かず、ぐっとつま先を伸ばし背伸びをした。結局手は風船に届かなかった。
「何、欲しいの?」
諦めずに、低い背を伸ばそうとし続ける彼女に、僕は言う。彼女はむっとして目を細め、背伸びを中断した。
「別にそういうわけじゃないけど」
「じゃあなに?」
恥ずかしそうに彼女は、もごもごと言い淀んだ。
「なんというか、引っ掛かったままってのは……かわいそう?というか」
歯切れ悪く彼女は言う。彼女らしいと言えば彼女らしい。あまり表に出さない、優しさをこんなところで発揮していた、僕にも使ってほしいものだ。
僕は彼女の横に立ち、風船へと手を伸ばし、引っ掛かっている木の枝から、紐をうまく外した。木から外れた風船はふわりと上空へ浮かんだ。慌てて右手をのばし、両足を曲げてから風船めがけて飛びあがった。
「ほい」
無事に手に入れた僕は、右手の風船を彼女にさし出した。彼女は別によかったのにとぶつぶつ言いながらも風船を受け取った。
「あの」
後ろから女性の声が聞こえた。振り向くと、そこには黒いスーツを着たキャリアウーマンの風貌をした二十代程の女性が立っていた。整った顔全体に薄化粧が決まっていた。
「その風船、今日やる式の時に浮かべる風船だったんですよ」
隣の彼女は手元の風船を見た。途端に決まりの悪そうな顔をする。
「あ、ごめんなさい、木に引っ掛かってて」
とりあえず僕が変わりに謝罪する。
「いえいえ、私がうっかり飛ばしてしまって。でもよかったです。見つかって」
女性は笑顔で対応した。彼女は無言で風船をおどおどと返却した。手が少し震え、表情は強張っていた。相変わらず初対面の人には弱いらしい。
「式って、結婚式ですか?」
笑顔で風船を持つ女性に、僕はきいた。
「はい、なんでも高校時代からのカップルなんですよ。素敵ですよね」
うっとりと女性は説明した。バラバラと上空から、ヘリコプターの音が聞こえる。
「それと、なんでも変わった企画をしていらっしゃるんですよね、私も初めて聞いた時はびっくりして」
女性はまだ説明を続けている。初対面の割に随分ペラペラと喋るところから、そこまで悪い人ではなさそうだ。内容は結構とんでもないものだった。普通の人なら、そんなことをしないだろうし、どちらかのご両親が、もしくは両方が止めてきそうだ。
「式は今日のいつ頃に?」
僕は言った。彼女は相変わらずむすっとした顔で緊張している。
「はい、夕方の五時過ぎくらいのご予定です。よかったらご覧になってください」
あと二時間くらいか。
「はい、できたら見に行きます」
彼女は何も言わなかったが、どうせ断る理由もないだろう。
「お二人は、お付き合いをなさって?」
女性が僕等にきく。何も反応を示さない彼女の代わりに、僕が残念そうに首を振った。
「だったらどれだけいいことか」
やれやれと言わんばかりに手を広げていると、思い切り彼女に足を踏まれた。
「いてえ!」
声を上げて彼女の方を見る。何事もなかったようにそっぽを向いていた。恐らく表情は、ほくそ笑む邪悪なものだ。女性はくすくすと笑った。
「お似合いだと思いますけどね」
「でしょう?」
今度は背中を蹴られた。ぐらりと体が揺れるが、なんとか倒れないように踏ん張った。背骨が痛い。
「あの」
痛がる僕を労わるように女性は言う。
「よろしければ、式場の見学でもいたしますか?」
ものすごく大きいです。




