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8話 家族


 薄暗い広い空間の中に、数人の人影が現れた。


 「報告を聞こうか。」


 この空間の中で、一際おおきな影がそう言った。


 「…はい。パールヴァティーの神格が判明いたしました。彼女の神格は“絆”と“境界”の2つです。」


 話しているのは小柄な女性の影。


 「ふむ…、絆と境界とな。それはまた、非戦闘向きな神格じゃのぉ。」


 影の1人が言う。


 「とはいえ、強大な神格であることには変わりない、か。」

 「もし、この神格を戦闘に使えるというのなら、厄介極まりないのぉ。」

 「はっ! その程度、この私がいくらでもねじ伏せてやんよ!」


 影たちの会話が盛り上がっていく。


 「アスタロト。」


 最初の大きな影がさっきの女性の名を呼んだ。


 「…はい。」

 「報告は以上か?」


 大きな影が話している間は、他の影たちも一切話はしない。


 「いいえ、もう一つ報告があります。パールヴァティーの保有武装について、です。」

 「聞こう。」

 「パールヴァティーは“神格武装”【日輪槍】インドラを保有しています。」

 「…ほう。」


 影たちがどよめき始める。


 「日輪槍といったら、前インドラの保有武装だぞ。」

 「神格譲渡…かのぉ?」

 「だとしたら厄介な話だ。」

 「日輪槍? 神格譲渡? なんだそれ。」


 そう言った影に、大きな本のようなものが落とされる。


 「いってぇ!」

 「バカ。日輪槍とは、前天空神インドラが保有していた武器の事だ。神格譲渡は、自分の持つ神格を他の神に譲る事。」

 「補足を入れようかのぉ。前天空神インドラの保有神格は【天の火】と呼ばれていての、これは全神格中最強クラスの攻撃力を持つ神格なんじゃ。それがパールヴァティーに譲渡されたということは…?」

 「めっちゃ厄介じゃないか!」


 影たちはやれやれといった感じで肩を落とした。


 「ともあれ、要注意人物を1人確認できただけでも大きな収穫かのぉ。」

 「…これでちょうど各々の狩りの目標もできたしな。」


 スッと大きな影がほかの影たちの先頭に出るように移動した。


 「ゆくぞ。」

 『はっ。』


 影たちは声をそろえる。


 「べリアル、ルシファー。お前達は北欧、西洋の神々を屠れ。

 アモン、バアル。お前達は東洋の神々を抑えよ。

 アスタロト。俺と共にインドの神々を潰すぞ。」


 「お任せを。」「仰せのままに。」「任せな!」「御意。」「…。」


 各々が返事をする。


 「さあ、自慢の4神将よ。未来予知する参謀よ。下らぬ神々の遊び(神格闘争)に破滅と混沌を。」


 その言葉を最後に、影たちは闇の中へと消えて行った。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「すっかり遅くなっちゃったわね。」

 「そうだね。」


 花鶏とパールヴァティーが家に着いたのは、夜の8時過ぎだった。


 「もうご飯残ってないんだろうなー。」


 花鶏の家では門限というものは存在しない。代わりに夕飯に遅れるとご飯は基本残っていない。


 「その時は私が花鶏にご飯を作ってあげるわ!」

 「ほんと!? やった!!」


 この瞬間花鶏はむしろご飯無くていいと思った。


 「ただいまー。」

 「ただいま帰りました!」


 玄関をくぐった花鶏は、ふと違和感に気づいた。


 (あれ? リビングに人が残ってる?)


 普通この時間はみんな自分の部屋に戻っているころだ。もしくは別の部屋でテレビを見ているかのどっちかだ。


 「花鶏帰って来るのおそーい!」

 「げ、姉さんだ。」


 何でいるのだろう…。


 家族内での花鶏の位置は実はものすごく低い。というより底辺だ。

 厄介そうな予感がしているため、一瞬リビングに行くのを花鶏はためらった。


 「あ、私ご家族に挨拶したいわ!」


 そんなことを知らないパールヴァティーは花鶏の手を取ってリビングへと連れて行く。


 リビングに入るとそこには、意外なことに家族全員がそろっていた。


 「え?なんでみんないるの?」


 この時間に家族がリビングに揃うということはかなり珍しいことだ。


 「父さんがね、花鶏が彼女作ったっていうからどんなもんかとみんなで待ってたの。」


 そう言ったのは母親の椎名しいな文枝ふみえだ。


 「私はそもそも花鶏に彼女なんて幻想だって思ってたんだけどね。」


 と、酷いことを言っているのが長女の舞花まいか


 「てか、花鶏に彼女なんてできたら槍降るでしょ。」


 この酷いこと言ってる人間パート2が次女の里穂りほ


 「大丈夫だよ、花鶏兄。みんな花鶏兄じゃなくて彼女さんの心配してるだけだから!」


 親指を立てながら鬼のようなことを言うひどい人間パート3が三女で末っ子の杏樹あんじゅ


 …さすがにこれはひどくね?


 「みなさん初めまして!千春って言います。しばらくこの家に厄介になります。どうかよろしくお願いします。」


 とても礼儀正しくパールヴァティーが挨拶をする。


 家族全員(父親除く)がぽかんとあっけにとられている。


 はっ!っと意識を取り戻したかと思うと4人で部屋の隅に移動した。


 『お母さんどういうことよ! めっちゃいい子じゃない!』

 『あの子がバカ鶏の彼女!? ありえないありえない!!』

 『どうしようお母さん、あの子騙されてるよ!』

 『みみみんなちょっと落ち着きましょう。もう少しあの子と話してみましょう。』

 『そ、そうね。』


 ここからは聞き取れないけど4人でなにか話し込んでいる。


 (なんかバカ鶏とか言われた?)


 スススっと戻ってきたかと思うと、パールヴァティーを4人で取り囲んだ。


 「千春ちゃん。花鶏とはどこで合ったの?」

 「花鶏とは塾と公立図書館の間の交差点で合ったんです。私の両親が行方不明で迷っているところに花鶏が声をかけてくれました。」


 とても丁寧な口調でパールヴァティーは答える。


 ―――ポン。


 肩の上に手が置かれる。


 「花鶏。アウト。」


 ゴスッ。


 思いっきり腹パンされた。


 「ぐふっ。」


 「どう見ても誘拐じゃないの!」

 「そんなわけないでしょう!? …って、お母さん!? なんで受話器持ってるの!? 1〇9って、その番号ダメーーーー!!!」


 全力でお母さんの背中に飛びついた。


 「―――ぷっ。あっははははは。」


 後ろの方でパールヴァティーが思いっきり笑っている。


 「花鶏必死すぎ。あはっ! 面白い。」

 「…パールヴァティー。」


 笑ってないで助けてください。お願いします。なんでもしますから。

 


 ――――30分後。



 「そうだったのねー。」


 そこにはパールヴァティーの説明でようやく納得した4人と、力尽きて倒れている花鶏の姿があった。


 「そういうことなら歓迎するわね、千春ちゃん。私は文枝っていうの。好きに呼んでいいわよ。」

 「それじゃあ、お母様って呼んでいいですか!?」

 「お、お母様…!」


 お母さんがガシッっとパールヴァティーの手をつかむ。


 「それで行きましょう!」


 (こんな喜んでるお母さん初めて見たよ。)


 床に這いつくばりながら花鶏は思った。


 「私は長女の舞花。よろしくね、千春。」

 「こちらこそよろしくお願いします。舞花お姉様。」

 「様とかつけなくていいわよ。」

 「それじゃあ舞花姉さんで。」


 2人は仲良さそうに握手する。


 (あの姉さんが一発で心を開いた…だと…。)


 花鶏が知っている中で、姉さんが心を開いている人間はごく少数だ。


 パールヴァティーはやっぱりすごいな、とそう思った。…床に這いつくばったまま。


 「私は里穂。私とは年も近いみたいだし、気軽に里穂って呼んでよ。」

 「うん、そうする。よろしくね、里穂。」


 姉さんの時と同じように握手をする。


 「私は杏樹! よろしくね、千春姉!」

 「うん。よろしく、杏樹ちゃん!」


 ギュッと二人でハグしている。


 (うらやましいなぁ…。)


 やはり、床に這いつくばったまま花鶏は思った。


 「さて、挨拶は終わったか?」


 お父さんが台所から出てきた。

 気づくとテーブルには、たくさんの料理が並んでいる。


 「幸いなことに明日は休日だから、少しくらい夜更かししてもいいだろう。」

 「やった! お父さん大好き! 愛してる!」


 杏樹がお父さんに飛びついた。


 「そういえば千春。あなたってお酒飲める?」

 「はい。大丈夫ですよ。」

 「そっかそっか。いいお酒あるんだ。一緒に飲みましょう。」

 「ぜひぜひ!」


 パールヴァティーと舞花姉さんが並んでテーブルに着く。


 「花鶏。千春ちゃん泣かせたら、殺すわよ。」

 「うん。わかってる。」

 「それならいいんだ。」


 それだけ言って里穂姉もテーブルに着く。


 「花鶏ー! 早く早く!」


 パールヴァティーが呼んでいる。


 パールヴァティーが来ただけで、家族がより仲良くなった。そんな気がする。

 こういう家庭って、とってもいいな。そう思った。




 「早くみんなの分のコップに飲み物配りなさい。」

 「………はい。」


 でも家庭内の位置に変化はないんですね…。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 パーティーのようににぎわう花鶏の家を遠くから眺める1人の人がいた。


 「…花鶏君。」

 『あなたも“そっち側”に行けばいいじゃない。』


 どこからか声がする。しかし、人影は1つだ。


 「ううん。今の私に、あそこに行く資格は無いもの。」

 『…そう。』


 そう言ってその人は花鶏の家と反対方向に歩いていく。


 「…でも、私はあきらめる気はないからね。」


 ―――人影がいた場所には、1輪の花が咲いていた。


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