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6話【外伝】 過去


 

 「それ、本気で言っているのかしら?パールヴァティー。」

 「ええ、私はいつでも本気よ。ラクシュミー。」


 これはまだ、私たちが正式な神格を得る前の会話。


 「あなたのそれは神々(私たち)への反逆と同じよ?」

 「知ってるわ。」


 はぁーっとラクシュミーがあからさまにため息を吐く。


 「あなたの夢は幼稚園児が抱く夢以下よ。可能性が残されている分、幼稚園児の夢の方がいくらかましだわ。」

 「…うん。」

 「はっきり言うわ。諦めなさい。あなたの夢は、かなわないわよ。」


 ラクシュミーの忠告。でも、私は首を横に振った。


 「それでも、私は自分の夢を追いたい。」

 「この反逆者!」


 突然のラクシュミーの声にビクッと体を震わせる。


 「…あなたが自分の夢を私以外の神に明かした瞬間、あなたはそう呼ばれるのよ。」

 「か、覚悟してるわ。」


 言葉とは裏腹に、『反逆者』という言葉は、私の心にグサッと突き刺さっていた。


 そんな私をラクシュミーはじっと見つめている。


 「パールヴァティー。」


 静かな声で私を呼んだ。


 「…なにかしら?」


 答えた瞬間に服の胸元をぐっとつかまれた。

 そのまま強い力でラクシュミーの方へ引き寄せられる。


 「ラクシュミー!?」

 「いいから聞きなさい。」


 耳元でささやかれた。


 「あなたはこれから、シヴァ様とインドラ様、そして先代様の3人に会いに行きなさい。」

 「どうして?」


 小声で聞き返す。


 するとラクシュミーは、軽く周囲を見回したのち、言葉をつづけた。


 「あなたが“今持っている神格”はとても特別なものよ。だからこそ、あなたの夢はかなわない。特別だからこそ、注目される。危険視される。」

 「それじゃあどうしたら…。」

 「隠しなさい。あなたの神格を。夢を。運命の花が開く、その時まで…ね。」


 その後、ラクシュミーはいくつか私に助言してくれた。

 いうだけ言うとスッとラクシュミーは離れていく。


 「ねえ、ラクシュミー。」

 「何かしら?」

 「なんで、私に助言してくれたの?」

 「……さあね。きまぐれよ。」


 歩き去るラクシュミーを見ながら、私はくすっと微笑んだ。


 「ありがと、親友。」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――



 「シヴァ、いるかしら?」


 私はラクシュミーの助言に従って、最初にシヴァに会いに来た。


 「パールヴァティーか。珍しいな。」

 「あなたにお話があってきたの。」

 「…聞こうか。」


 私は大きく息を吸った。


『最初はシヴァに会いに行きなさい。そうしてこう言うのよ。』


 「シヴァ、私と結婚してくれないかしら?」

 「・・・は?」


 少し呆然としていたシヴァだったがすぐに何かを思いついたような顔をした。


 「ラクシュミーか。」

 「正解。」


 シヴァはこう見えてもとても聡明だ。きっと私の目的も理解しているのだろう。


 「結婚の条件は、お互いに手出ししないこと。それでいいのか?」

 「十分よ。」


 ここまですんなり話が通ったということは、ラクシュミーが話を通してくれたのだろう。


 『いい?シヴァは今ちょっとした問題を抱えているの。それが結婚の問題よ。彼はまだ独り身でいたい。でも、彼ほどの神格持ちだとそういう話題が絶えないわ。だからあなたが結婚を申し出なさい。名目上の結婚をするの。そうすることで、あなたはシヴァの庇護下におかれ、シヴァはうっとうしい話題から逃れられる。』


 これが1つ目のラクシュミーの助言だった。


 「んじゃ決まりな。まったく、お前の夢が何なのかは知らんが、よくもまぁあのラクシュミーの協力を得たものだ。」


 気付くとさっきまでの若干険しい雰囲気は消え、今は普通の青年のような雰囲気に変わっていた。きっとこれが普段の気を張っていないシヴァなのだろう。


 「だって親友だもの!」


 自信満々で言う。


 「それ、ラクシュミーに言うなよ?」

 「言わないわ。私も命は惜しいもの。」


 2人で笑いあう。


 「そうなると、お前はあの山に籠るのか?」


 ふと、真面目な声でシヴァが言う。


 「そのつもりよ。」

 「あーその、なんだ。」


 めずらしく言葉に詰まったようなシヴァの声。


 「たまには、お前の山に遊びに行ってもいいか?」


 その言葉がシヴァの言葉とは思わなくて、つい笑ってしまった。


 「あははははっ。いつでも来ていいわよ、仮にも結婚してるんだし。むしろたまには来ないと不審がられるわ。」

 「ふむ、それもそうか。」

 「とびっきりのごちそうを用意してあげる。」

 「いや、遠慮しておく。」


 即答だった。


 「えーなんでー?」

 「ラクシュミーがお前のメシだけは絶対に食うなと念を押してきた。」


 ちょっとラクシュミー?それはひどくない?


 「私よりラクシュミーの方が信用できるってどういうことよ!」

 「普段のお前の行動見てれば誰だってそうなるさ。」

 「ひっどーい。」


 そんな他愛もない話を、私たちは遅くまで続けていた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



 「インドラ様、いらっしゃいますか?」


 次に私が訪れたのはこの辺で最高位の神、インドラの元だった。


 「おおー、パールの小娘か。」 

 「覚えていただき光栄です。インドラ様。」


 前置きはこの辺にして、さっそく話題に取り掛かろうとした時だった。


 「要件を話す必要はないぞ。」

 「え?」


 突然そんなことを言われた。


 「もう聞いている。それも2人からな。」


 シヴァとラクシュミーのことだろう。

 インドラ様はじっと私を見つめている。


 ここが、正念場だろう。


 「いくつか、質問をしてもよいか?」

 「…はい。」

 「まず一つ。お前の夢と、友人の命。選ぶならどっちだ。」

 「友人の命です。」


 即答。


 「訳を。」

 「今、ここに私がいるのは友人たちのおかげです。大切な仲間を捨ててまでなしえる夢に、価値などありません。」


 沈黙。


 「もし…。もしもお前の夢の前に、私が立ち塞がったらどうする?」

 「戦います。」


 これも即答。


 「負けるぞ。」

 「だからと言って、戦わずに逃げるつもりもありません。諦めて安穏として過ごすのなら、夢の為に死にます。」


 再び沈黙。


 長い沈黙の後、インドラ様は口を開いた。


 「希望は?」

 「今持っている神格に追加して、あと1つ神格が欲しいです。」

 「高価な神格ならお断りだぞ?」


 私は首を横に振る。


 「いいえ、私が欲しい神格は――――です。」

 「…正気か。」


 今の一言で、インドラ様には私の夢が何なのかわかってしまったのだろう。


 「はい。諦めるつもりもありません。」


 またしばしの沈黙。


 「―――くっくく。」


 インドラ様の口から笑いが漏れた。


 「くはははははっ。面白いな!」

 「…え?」


 とても予想外の反応だった。


 「いいな!個人的に大好きだぞ、そういうのは!応援したくなる。」

 「え?え!?あの…。」

 「持っていけ。お前の望みのものだ。」


 あっけなく神格が授与される。


 「それも隠しておきたいのだろう?いいぞ、許可しよう。」

 「えーっと、ありがとうございます。」


 あまりにも急展開すぎてついていけない。


 「次は先代様に会いに行くのだろう?」

 「あ、はい。」

 「話は通しておいてやろう。行ってくるがいいさ。」


 ドン!っとかなり強い力で背中を押される。


 「え、えーっと、行ってきます!」

 「おう、行って来い!」


 そう、流されるままに、私はインドラ様の元を離れるのだった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



 『いい?あなたの夢に実現するためには、神格の秘匿が絶対条件よ。だからインドラ様の協力を得なさい。インドラ様にはあなたの気持ちを正面からぶつけるの。きっとわかってくれるから。』


 ラクシュミーの2つ目の助言を思い出す。


 「本当にその通りになったわね。」 


 昔からラクシュミーは頭がよかった。私なんか到底及ばない。


 「いらっしゃい、パール。」


 穏やかな声が私を迎える。


 「お久しぶりです。先代様。」 


 この人は先代のインドラ…つまり天空神の位を持っていた御方だ。

 この人にはとてもお世話になった。


 「少し前に、ラクが来ていたわね。」

 「…ラクシュミーが?」

 「ええ、どうかあなたの夢を応援してあげてほしい。そう言っていたわ。」


 …ラクシュミー…。

 ふと、涙がこみ上げてきた。


 「あなたは、本気でその夢をかなえたいの。」 

 「はい。」


 丁寧に、そして力強く答える。


 「そのためには、仮初の神格が必要ね。」

 「はい。そのために、先代様の協力を仰ぎたく…。」


 静かに、先代様はこっちに向かって歩いてくる。


 「険しい道のりよ。」


 静かに頭を撫でてくれた。


 「覚悟はできています。」

 「そう…。」


 頭を撫でていた手が離れていく。


 「あなたに正式な神格を授けましょう。ただし、条件があります。」


 条件?


 「なんでしょう?」

 「あなたの夢は、きっと一人ではなしえません。ですから、あなたの本当の神格を開放するときは、“心から信頼できるパートナー”を見つけた時とします。」

 「それは…。」

 「いいですね?パートナーは、ラクでも、シヴァでも、インドラでもいけません。自分で探し、見つけ、そして選びなさい。」


 そんなパートナー、私に見つけられるのだろうか?


 「返事は?」

 「は、はい!」

 「いいでしょう。あなたはこれから【金色の女神】を名乗りなさい。」

 「金色の…女神…。」


 先代様は、私にどんな神格を授けてくれるのだろう?

 二つ名からは、何も推測できない。


 「パール、これをあなたに。」

 「…え…インドラ様、これって…。」


 渡されたのは1本の槍。


 ただし、この槍自体が強力な神格を得ている特別な…そう、この武器を持っているがゆえにこの人は最強とまで謳われた。それほどの武器だ。


 「【金色の女神】パールヴァティー、あなたに神格を譲渡します。これからはその神格も、あなたの夢の共に加えなさい。」

 「あ、ありがとうございますっ!」


 ただただ、私はお礼しかいうことができなかった。


 「たまには、みんなで食卓を囲みましょう。」


 そう優しく先代様は優しく微笑みかけてくれた。

 


―――――――――――――――――――――――――――――――――



 「行ったかしら?」

 「ええ、行ったわよ。ラク。」


 はぁ、とラクシュミーはため息をついた。


 「なんだ、やっぱり心配だったのか?」

 「シヴァ様、少し黙ってください。」


 生意気な口をきいてきたシヴァ様を黙らせる。


 「いまどき珍しいくらい真っ直ぐな小娘だな。」

 「だから目を離せないんですよ。」


 ぶっきらぼうにラクシュミーは言う。これが彼女の素の話し方だ。


 「それにしても先代様、ずいぶんとパールヴァティーに肩入れしましたね。」

 「ええ。昔ね、私もあの子と同じ夢を持っていたのよ。」

 「それは初耳ですな。」

 「結果的に諦めてしまったのだけどね。でも、だからこそ、あの子には私の分も頑張ってほしい。そう思ってしまったのね。」

 「ずいぶんな押し付けですね。」

 「失礼だぞ、ラクシュミー。」


 そう言ったシヴァを先代様は制した。


 「構わないわ。本当のことだもの。でもね、あの子は私にはなかったものを持っているわ。」

 「それは?」


 先代様は静かに私たちを指さした。


 「仲間、よ。きっとそれはパールにとって大きな力になるわ。」

 ラクシュミーはそっと目を閉じる。

 



 「そうであると、いいですね。」


 そう、静かに微笑んだ。


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