18話 本当の神格
少女は地面に倒れ伏したパールヴァティーをつまらなそうな目で見降ろした。
出血の量は大したことはない。ただ、ほぼ全身の骨を砕き、内臓もズタズタにした。
もう、彼女はまともな生活を送ることはおろか、息を吹き返すことさえ不可能だろう。
“普通ならば”だ。
砂の牢獄にとらえてある神々をチラッとみる。
3人とも面白いくらいの殺気をぶつけてきている。
『さて、と。』
視線をパールヴァティーに戻す。
『早く帰ってこないと、ほんとに死んじゃうよ?』
意識の無い彼女に向かって、私はそっと声をかけた。
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私は、このまま死ぬのだろうか?
意識が深い闇に飲まれていく。
このまま、何もすることなく? なにも、成し遂げることができずに?
―――ドクン。
そんなのダメだ。
私の夢を、応援してくれる人がいる。手伝ってくれる人がいる。一緒の夢を持ってくれたパートナーがいる。
みんなの期待を裏切るの?
―――ドクン。
嫌だ。そんなの嫌だ。
意識ははっきりしてるんだ。体さえ動けば、私はまだ戦える! まだやれる!
必死に体を動かそうとする。でも、なんの感覚もない。
少しずつ、体が沈んで行っているような感覚。
これが…、死?
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!
まだ、死にたくない! 死にたくないよ!!!
闇の中で必死にもがく。もがいてももがいても、闇を振り払うことなんてできない。
すでに体の半分が闇に飲まれてしまっている。
つまり、この意識があるのも、あと少し…。
なにか、なんでもいい。この闇を振り払えるもの。なにか…お願い!
そんな願いさえ、闇には通じなかった。
―――次第に意識がまどろんでいく。目を閉じてはいけない。それがわかっていても、もう、どうしようもなかった。
「あとり…。」
最後に、彼の名前を呼びたかった。
死を目の前にしてわかったことがある。私は、彼に恋をしていたんだ。本当に、好き、だったんだ。
「…なさい。」
涙があふれてくる。
「ごめん、なさい…。約束、…守れなかった。一緒に、戦い抜くって言ったのに、私が花鶏の大事な日常を、奪ってまで、パートナー、お願いしたのに…。」
自分勝手だ、私。
「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい。こんなに…自分勝手なことしてるのに、最後に、もう一度だけ花鶏に会いたいって思っちゃってる…。そんな資格なんて、もうないのに…。」
ごめん…なさい。
あ、とり…。最後に、名前を呼ぶくらい、許して…ね。
『ダメだああああああああああ!!!!!!』
ズン! っと強く揺すぶられるような感覚。
「…え。」
『最後だなんて絶対にダメだ! 僕は許さないぞ!!』
花鶏…?
なら、私はもう、死んだの、かな?
「あとりが、いるのなら…死後の世界も、悪くはないかな…。」
『ああああーーーー!! もう!! 時間もないし、寝ぼけているなら無理やりでも起こしてやる!!!』
「んんんんーーーーーっ!!!!????」
え、キス? でも、感覚が? あれ?
『おはようございますお姫様! あれだけ人の心をつかんでおいて、勝手に死ぬなんて絶対に許さないからな!』
「花鶏!? 何でここに!?」
え? なに? どうなってるの?
『パールヴァティー、時間がないから言いたいことだけ一方的に言うから、寝ぼけてる頭フル回転させてよっく聞いてね!』
花鶏はスーッとお気を思いっきり吸った。
『僕は、パールヴァティーが好きだ!!! その夢も、誇りも、見た目も、性格も全部だ!!
まだパールヴァティーに出会ってほんの少ししか経ってない。でも、そのわずかな間で、僕はいろんな君を見た。真剣な君を、泣いてる君を、戦っている君を、笑っている君を。僕はそのすべてが好きだ! そして、これからも見ていきたい。君の隣にありたい。
僕はそのために、強くなる。君よりもだ! 約束、覚えてる? 僕の倍強くなるって言ったよね? 僕はこの世界のだれよりも強くなるよ。だから…
だからパールヴァティーも、こんなところで諦めるな!!!!!
僕は、か………ず、き…が…むか…に―――。』
…僕はかならず君が迎えに来るって信じてる…か。
気づいたら、周囲の闇が消し飛んでいた。
「まったく、好き放題言って消えちゃって…。」
こんなの、返事言うまで死ねないじゃない…。
涙をふく。
不思議と、心が温かい。
確かに感じる、花鶏との“絆”。
―――ドクンドクン。
心臓の音がうるさい。
でも、今は何かを伝えようとしてくれている。そう、自分を信じられる。
このまま意識をふき返しても、待っているのはさっきの二の舞だ。
でも、諦めない。
自分の心を…神格を見つめ直す。
信じるんだ。私を、みんなを。
『あなたの神格は、特別なものよ』
親友が教えてくれた。つまり私の神格には、まだ、使えていないものある。
絆を信じ、前へと進む。
―――パリン。
鎖がはじけるような音。
目の前に、道が開いた。
―――ああ、そうだったんだ。
特別の意味が、分かった。
【絆と境界の神格】その本当の力、それは――――
“仲間との絆を結び、境界を取り払って1つにつなげる力!!”
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―――バチッ。
強力な神格の気配を、少女は感じた。
『どうやら、ぎりぎり間に合ったみたいなのかな? ま、向こうの創世の女神さまが少しだけ手を貸したみたいだけど、その結果がこれなら、十分じゃないかな。』
瀕死のパールヴァティーを見つめる。
すると、瞬く間にパールヴァティーの傷が癒えていっているように“見える”。
超速再生? そんな能力パールヴァティーにあったかな?
「さすがに…まだ痛いわね。」
『痛いで済む方がおかしいんだけどなー。とりあえず、おかえり。』
パールヴァティーは純粋な笑顔で、
「ええ、ただいま。」
そう答えた。
(あー、こいつはやばいわ。今の私で相手にできるのか?この化けもん。)
『ふーん。まるで別人だね。向こうで何かあったのかい?』
「ええ、ちょっと死にかけてきたわ。」
『そのまま逝っちゃえばよかったのにー。』
「残念だけど、約束を破るわけにはいけないから。」
パールヴァティーが槍を構える。
…相変わらず、隙だらけだね。
『砲龍楽戦―旋風。』
あえて先ほどと同じ技。
私の特別な神格を活用した、神速の一撃。これをとらえられるやつはいない、よ。
ほぼ一瞬で、パールヴァティーの右後ろに回り込む。
さあ、どうでる?
この視覚外からの神速の回し蹴りを。
―――ギィン。
攻撃がはじかれた。
「………は?」
見えない、防御結界? いつの間に?
そもそもこいつは、結界なんてつかえな―――っと。
次の瞬間、槍の薙ぎ払いが来た。
大きく後ろに飛んで避ける―――――あ?
ドゴオオオオオ!!!!!
自分のいた地面が消し飛んだ。
『あのー火力あがりすぎじゃね?』
素の自分で話しちゃってる気がするが、ぶっちゃけそんな余裕ない。
「日輪槍――――」
あ、これ火力乗ったら一番やばいやつじゃ…。
全力で回避する!!
「―――インドラ!!!」
神速で動ける神を相手に、そんなのあたるわけがない。
余裕で回避。
―――カン!
後ろで物音。後ろに落ちているのは、シヴァの剣?
なんでそんなものが“都合よく”?
いや、今そんなことどうでもいい。剣に反射して一部が跳ね返ってきてる。
「くっそが!!!!」
次の瞬間、私の体が爆風に包まれた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「よっし!」
パールヴァティーはグッとガッツポーズをする。
概ね狙い通りに行けた。
これが、私の本当の神格の力…。
『あー死ぬかと思ったじゃないのまったく。』
爆風から現れたのは、片腕を失ったあの少女だ。
すこし、冷や汗が出てくる。
あれだけ計算して、これだけ能力をフル活用してなお、あいつを倒せないのか。
でも、負けるわけには―――あれ?
ふいに、私に向けられている殺気が消えた。
『んー、やめにしよう。パールヴァティー。』
「…なぜ?」
『あなたが“限界だから”。じゃだめかな?』
ばれてた、か。
『あなたまだ、全身の骨砕けたままでしょ。骨一つ一つを防御結界で囲んでどうにか動けてるって感じかな? 超速再生を偽装したのはなんかの魔法かな?』
「よく、見てるのね。」
冷や汗が止まらない。
『こういう観察眼には自信あるんだ。』
「そっか、なら、隠してもしょうがないわね。」
私はそのまま地面に倒れこむ。
不思議とこの少女とはもう、戦う必要がないと信じられた。
『まったくー、無茶しすぎだっての。ちょっと待ってて、“今くっつけるから”。』
「え?くっつけって―――いったいいいいい!!!!!」
バキバキっと物凄く嫌な音がする。
『あなたの本当の神格、見つかられてよかったね。』
私に触れながら、少女は小声で話しかけてきた。
「いたたたたた。もしかして、最初から狙ってた?」
『まさか、本当に殺すつもりで叩きのめしたんだよ。』
「ふふ、そういうことにしといてあげる。」
痛みに耐えること5分。
「ほんとに、直った…。」
『お礼はいらないよ。だって私がへし折ったんだもの。』
少女はおどける。
「あはっ。それもそうね。」
「それで、あなたは何ものかしら?」
牢獄から解放された、ラクシュミー達が私のそばに駆け寄る。
『あ…名乗るの忘れてた。ごめんねー。』
そして私たちは、彼女の名前に再び驚愕することになる。
『私はラン。創世の神々の一角にして、【始まりの錬金術師】と呼ばれているわ。』




