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16話 それぞれの決意




 パールヴァティーが花鶏のところへ向かい始めた時、ちょうど花鶏もこっちに向かって歩き始めていた。


 「奇遇ね。ちょうど花鶏と話したいと思っていたの。」

 「僕も、パールヴァティーと話したいことがあるんだ。」


 2人で見つめあう。


 「ね、少し散歩に行かないかしら?」


 そう言ってパールヴァティーは花鶏の返事も聞かずに玄関へと歩いて行った。


 私はこれから、花鶏に向かってひどいことを言わなければいけないのだ。

 花鶏は黙って私について来てくれた。


 月明かりと街灯が照らす道を、私たちは言葉もなく歩いていく。

 私が足を止めたのは、近くの公園についてからだ。


 最初からここに行こうとしたわけではない。ただ何となく歩いていたらついてしまった。


 「ねえ、花鶏。疑似神格の試練、受けるの?」


 花鶏の目を見ていれば、答えなんてわかる。でも、それでも彼の言葉で聞きたかった。


 「うん、受けるよ。少しでも、パールヴァティーの力になれるのなら。」


 とっても真っ直ぐな答えだった。

 だから、私も真っ直ぐに答えられる。


 「それじゃ、花鶏。―――――“私の為に死んで”。」


 はたから見たらとても残酷な言葉。でも花鶏は…、


 「うん、わかった。」


 そう、笑顔で答えてくれた。

 私も花鶏に笑顔を返す。


 そして、彼の唇にそっと自分の唇を重ねた。


 「強くなってね、花鶏。私の隣に立てるくらいに。」

 「うん。なるよ。君の隣に立てるくらいに。」


 私と花鶏の誓い。


 「私はあなたの100倍強くなるわ。」

 「それなら僕はそのパールヴァティーの隣に立つよ。」


 もう一度だけキスをする。

 お酒が入っているせいか、いつもより大胆になっている気がする。


 「しばらく、会えなくなるわ。」


 だから、これはその間の花鶏分の補充と言い訳する。

 顔を真っ赤にしている花鶏がとてもかわいく見える。


 深く深呼吸して、そっと花鶏から離れる。


 「また、1週間後に会いましょう。」


 そう言って私は少しずつ花鶏から離れていく。


 帰る先は同じなのに一緒に帰らなかったのは、私なりのけじめのつもりだった。

 そして多分、1週間花鶏に会うことはない。


 彼が疑似神格の試験を受けている間に、私にできることは…。


 花鶏の家にいるであろう“彼女”を思い浮かべる。


 ―――私は“本気の彼女”と戦ってみたい。


 そのためには…。

 


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 雪は台所で食器洗いをしていた。


 「お疲れ様。」


 スッとお茶が差し出される。

 お茶の香りで、それが誰だかわかった。


 「ありがとうございます。ラクシュミー。」


 できるだけ上品に、お茶を口に運ぶ。


 「里穂ちゃんのお相手はよろしいのですか?」

 「ええ、向こうは今頃家族で団欒しているわ。それより、気づいてる?」


 ラクシュミーが言ったのは、たぶん私に向けられているこの“気”のことだろう。


 「パールヴァティー…ですね。」

 「正解よ。あなたが…いいえ、“本気”のあなたに用があるみたいね。」

 「…私の剣舞。そんなに加減しているように見えたのでしょうか?」


 少なくとも、今日パールヴァティーと手合せした時は、これっぽっちも手加減はしていなかった。


 「あなたが悪いんじゃないわ。あの子が鋭いのよ。」

 「やっぱり、あの人はすごいですね。」

 「…なにを言ってるの。」


 そう、ラクシュミーは私の頭を撫でてくれた。


 「あなたも負けてないわよ。」

 「………今は…ですけどね。」


 力なく笑う。


 「雪。予定通り、私は明日ここを去るわ。」

 「…はい。お気をつけて…とは言いません。せめて、生きて帰ってきてください。」


 ラクシュミーの手を握る。


 「ええ、必ず帰って来るわ。だから雪、パールヴァティーのこと、お願いしてもいい?」


 ゆっくりと、手を握り返される。


 「あの子の本当の力を目覚めさせるには、あなたの手が必要だわ。」


 そう言うと、ラクシュミーはフッと微笑んだ。


 「任せたわよ。私の“パートナー”。」

 「…ラクシュミーはずるいです。そんなこと言われたら断れないじゃないですか。」

 「当然よ。断れないように言ったのだもの。」


 2人で微笑みあう。

 そして、自分の中のスイッチを切り替えるかのように目を閉じた。


 「…わかりました。パールヴァティーは私が―――“殺します”。」


 私は今きっと、とても冷たい目をしているのでしょう。


 それでも、ラクシュミーは優しいまなざしで私のことを見てくれていた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 花鶏は公園のベンチでしばらく黄昏ていた。


 主にパールヴァティーのせいだ。不意打ちのキスのせいで顔が真っ赤でしばらく家に帰れそうにもなかった。


 それともう1つ。自分の覚悟を、もう一度固めるためだ。

 パールヴァティーの隣に立つ。それが僕の目標。

 そのために、疑似神格の試練を受ける。

 表向きはそれだけだ。


 「でも…それだけじゃ足りない。」


 神格だけではなく、戦闘技術もシヴァやインドラから花鶏は教えてもらうつもりでいた。

 パールヴァティーを、守れるように。


 彼女の矛となり、盾となる。隣に立つとはそういうことだと思っている。

 シヴァもそれをわかってくれた。


 ただの人間でも、神々と戦える。雪ちゃんを見て、花鶏はそう思った。

 それが並の努力で身に付くものではないことも十分理解しているつもりだ。


 だからこそ、追いつくために命を懸ける。


 そして、“パールヴァティーを追い抜く”。


 たとえ成功率1%だったとしても、僕はそれを成し遂げて見せる。

 背中はもう十分押してもらった。


 これから何があっても、僕はもう、前を向いて進んで行ける。


 「先に行ってて、パールヴァティー。必ず僕も、追いつくから。」


 そのために僕ができること、するべきことも見えた。


 あとは――――、


 『な に を す る の か な ?』


 ―――ゾクゾクゾクッ。


 急に背後からの声。背筋が凍った。


 「誰だ!?」


 返事の代わりは爆風だった。

 なすすべもなく、花鶏の体は宙に浮く。


 「うわぁ!!」


 そのまま地面に叩きつけ…


 「…え?」


 …られることなく、花鶏の体は宙に浮いたままだった。


 『こんばんわ、花鶏さん。』


 目の前には、純白の衣装に、銀色の長髪の少女。


 「…お前は…だれだ?」


 『私はミミ。これからあなたを―――“誘拐します”。』



 

 その夜、花鶏は町から姿を消した。



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