13話 疑問
―――壮大。
今花鶏がいる場所を一言で言い表すならこの言葉だった。
雲より高い山の上。パールヴァティーが神格で呼び寄せた山と同じ雰囲気の山。
「四天式?」
僕は首をかしげる。
通常の神域結界と何が違うのだろう?
隣を見ると、なんだろうね? と、パールヴァティーも首をかしげていた。
「なんでパールヴァティーまで首をかしげてるのよ。」
ラクシュミーがジト目でパールヴァティーを睨む。
「私、普通の神域結界しか知らないもの。」
はぁ。とラクシュミーが短い溜息。
「【四天式】の神域結界っていうのはね、“特定の範囲内”に“同陣営の神”が“4人以上”いることで発生する特殊な神域結界よ。特徴としては他の陣営の神々にはいっさい干渉できないということ。」
「つまり、ここでならどんなに重要な話し合いをしてもほかの神には気づかれないってこと?」
「そうよ。いい着眼点ね、花鶏。」
でも、普通は同じ場所に同陣営の神が4人以上そろうなんてことはまずありえないはずだ。
特に今回のルールを聞いた限り、始まる場所は完全にランダム。身内同士で集まれるなんてことはまずありえない。
「ねえ、ラクシュミー? どうして私のいる場所が分かったの?」
パールヴァティーの問いにラクシュミーは薄く微笑んで言った。
「ほら、私運いいじゃない?」
「………はい?」
ラクシュミーの言葉に僕とパールヴァティーはきょとんとする。
「やはり最初のはラクシュミーが仕組んだことだったのか。」
いつの間にかインドラとシヴァと呼ばれていた人たちがこちらに来ていた。
「…仕組んだ?」
どういうこと?
「ねえ、パールヴァティー。神格闘争の開始って厳密にはどこから始まりだか知ってる?」
「始まり? えーと…、始まりの鐘が鳴ってから?」
「…ああ、そういうことか!」
シヴァが仕組みが分かったように声をあげる。
花鶏には全く分からない。
「そう、始まりの鐘が鳴ってから。それじゃ、その時私たちは“どこにいた”?」
「…ヒマラヤの山の上? …………あ、まさか。」
「そう。始まりの鐘が鳴った時はまだ、私たちは同じ場所にいたの。だから私は【幸運】の神格をみんなに使った。『どうかみんなの望む形で神格闘争が始まりますように…。』ってね。」
みんなの、望む形…。
「インドラ様は最初に何を望みましたか?」
「ふむ、そうだな…。お前たち問題児を見守れる位置で始まるのが理想、と思っていたな。」
「シヴァは?」
「俺は、あそこのじゃじゃ馬娘を監視できる位置で始まってほしいと願っていたな。」
(…向こうの世界のパールヴァティーの扱いって…。)
ふと花鶏は普段のパールヴァティーがどんな感じなのか知りたくなった。
「パールヴァティーは?」
その問いにパールヴァティーはチラッと花鶏の方を見て、
「『素敵なパートナーと出会えますように。』だわ。」
と、そう言った。
「パールヴァティー…。」
その素敵なパートナーが自分だということが、今はとても誇らしい。
そして、全ての願いを満たすようにつなげると…。
“花鶏とパールヴァティーを中心にみんなが集まることになる。”
「ラクシュミーは最初からこれを計算してたってこと!?」
パールヴァティーが驚く。
すごいな。と、花鶏は思った。
先を見通して、そのうえで自分の作戦を実行する。僕には到底出来そうにない。
「これ、先代様からお墨付きをもらった作戦なの。」
誇らしげなラクシュミー。
「…で、だ。わざわざ“私たちを叱る振り”をしてまで、“私たちの指示でパールヴァティーを襲った”ことを装ってまで、我らをこの結界の中に連れ込んだ本当の理由をそろそろ話してもらおうか。」
シヴァがいい、インドラ様もうなずく。
「え?」
本当の、目的?
「ええ。パールヴァティーにシヴァとインドラ様。それに雪と花鶏。みんなに聞いてほしいことがあるの。」
そう言うとラクシュミーは真剣な表情で、言葉を紡ぎ始めた。
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みんなに聞いてほしいことがある。そう言ったラクシュミーの声は真剣そのものだった。
この表情を見ただけで、これからの話がどれくらい大事なのかわかる。
「聞かせて。」
私も、同じくらい真剣にラクシュミーと向き合う。私だけじゃない。隣に立つシヴァやインドラも同じだった。
「まず最初に、みんなはこの【神格闘争】についておかしいとは思わないかしら?」
…おかしい?
「そうか? どこもおかしなところはないと思うが。」
「あえて言うなら、ルールがちょっと変わったくらいじゃない?」
おかしいと言われればこのくらいしか私にはわからない。
「インドラ様はどう思いますか? おかしなところは全くないと思いますか?」
「…なぜ、今の時期に神格闘争を行うのか、と思ったことはある。」
時期?
「神格闘争に開催する時期なんてあるのですか?」
花鶏が質問する。
「逆に質問するわね、花鶏。なぜ、神格闘争は開催されると思う?」
「それは…、天空神の位をふさわしいものに与えるため?」
うんうんと、満足げにラクシュミーはうなずく。
「正解よ。それではもう1つ。なぜ、天空神の位を与えるのかしら?」
「新たに天空神の位が必要になったか、天空神の位にいた神がいなくなったから?」
「それも正解。」
今、ラクシュミーが言った中に、おかしなところがあるのだろうか?
「あ…。」
そう思った瞬間、1つ大事なことに気づいた。
「今って、“天空神の位の空席”ってないんじゃない?」
「あ!」「…ああ。」
何で今まで気づかなかったのだろう。
「私が最初に疑問に思ったのはそこよ。今、天空神の位に空席は無いわ。さらに、新たに天空神の位を設ける話なんてどこにもなかったわ。」
それだけで一気に雲行きが怪しくなってきた。
「これってどういうこと?」
「この天空神の位は、俺たちを釣るための囮ということか…。」
「いや、それは考えにくい。【主神】オーディンは、そんな無駄なことをするやつではない。」
それぞれの反応。
「ラクシュミー、お前はどう思うんだ?」
ラクシュミーは静かに息を整え、こう言った。
「これから言うのはすべて推測よ。何の確証もないわ。」
「うん、聞かせて。」
「私たちはもしかすると、“神界から避難させられた”のではないかしら?」
「え?」「なに!?」「なんと…。」
神界から…避難? 私たちが?
「まてまてまて、そんなことがあり得るのか?」
「そう考えればつじつまが合うのはわかる。だが…。」
「私もこの間までそんなの考えもつかなかったわ。でも、現界(こっち側)には、それがあり得るかもしれない伝承があったわ。」
「伝承ですって?」
そうか、こっちの世界には私たちの世界に起きたこと、もしくはこれからおきることが伝承という形で残っている場合がある。
ラクシュミーは何かを見つけたんだ。
「いったい、何が起きようとしているというのだ。」
真剣なシヴァの声。
インドラ様は深く考え込んでいる。
静かに澄んだ空気の中、ラクシュミーはゆっくりとその言葉を発した。
「神々の世界の終焉―――【黄昏】。」




