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方向性が見えてきた。

「……キャラクター表?」

「そう、先にストーリー云々を語るから破綻するんだ。まずはざっと、大まかな登場人物設定と相関関係を作ってしまおうじゃないか」


 数日間、少年がきまぐれに、思いつきでねだるあれやこれやを律儀にメモし続けて、私は理解した。

 コイツ、まじでダメだ。


 多分、生きている間もあまり将来のことなど考えずに、「とりあえず起きて、食事の時間になったら空腹でなくても食べて、適当に時間潰して、夜中になった頃に寝る」というタイプだったのだろう。計画性というものが全く感じられない。


 そういうガキんちょなので、とうぜん注文内容も適当なのである。「子供の頃から才能があるって有名な傭兵で~」と言った同じ口から二時間後、「貴族で、すごいお屋敷に住んでてお金持ち」なんて注文が出てくるのだ。どうしろと?


 暇と金をもてあました貴族のお坊ちゃんが屋敷を抜け出して傭兵ごっこしてる設定がいいのかと思えばそんなこともなく、今度はテレビを見ながらふと、「幼馴染の美少女と冒険に出てドラゴンを従えて国を作るってのは?」とかなんとか呟いたり……。

 もう、何がしたいんだか。


 そこで、これ以上彼の希望が二転三転する前に、まずベースを決めてしまおうと考えるに至ったわけである。


「なにも、細かくきっちり全部決めてしまおうってんじゃないんだ。ただ、今のままだとキミの設定が定まらないから書き始める事もできない。最低限、どういう生まれで、どういう才能があって、何がしたいのか。……まぁ、最後のはあとからなんとでもなるけどさ。とにかく、まずはキミのキャラクターを決めよう。ほれ、名前は? 苗字はあるのか?」

「え、えー? イキナリそれかよ!」

「何を言う。ゲームでも、まずは名前の入力からだろう。性別は、男でいいんだな?」

 女主人公しか書いたことがないのだが、仕方あるまい。彼の話は3人称で書くことにしよう。


「あー、うん。それは。……えー、名前かぁ」

 少年は宙に浮かびながら器用にも胡坐をかき、うんうん唸り始めた。

「それこそ、今の名前でもいいんだけど。ゲームで使ってた名前とか、何かあるだろう?」

「えー、今のままじゃつまんねーじゃん。おねーさんつけてよ」

「じゃ、お約束どおり『ぽち』で」

「ひねれよっ!」


 ひねれったってなぁ。

 自慢じゃないが私は「名前をつける」という行為が苦手だ。でなきゃ主人公4人の名前が、漢字違いで全員「ゆい」なんて設定にするものか。ましてや男の名前なんぞ知るか。


 何かヒントになるものを、と思って、私は少年が読み飽きてソファーの横に放りっぱなしにしていた漫画雑誌をぱらぱらとめくってみた。

 漫画は読まなくなって久しいが、少年漫画という割にいかにも女の子受けしそうなカッコイイ男の子がたくさん出ているのが不思議だ。まぁ、私が学生の頃も「少女漫画買うのは恥ずかしい」なんて言いながらこの手の雑誌を買っている友人がいたからな。今どき少年漫画だの少女漫画だのの垣根は曖昧になってきているって事か。


 私は、最初の数ページがカラーになっている漫画に目をとめた。なになに、人気投票? なんだこの白いスーツのにーちゃんは。ガラ悪そう。これが1位か。主人公ではないようだが。……っと。

「あぁ、ほら、こういうのはどうかね? 主人公がなんとなくキミに似てるよ」


 その漫画のタイトルは『Reincarnation of the last edge』というらしい。

 ぱらぱらと流し読みしてみると、どうやら戦いが主題のようだった。舞台は現代日本か? ブレザー姿の男の子がなぜか片手に日本刀、もう一方に銃を持って、傷だらけの姿でさっきのにーちゃんと対峙している。

 あぁ、なんとまぁ物騒な。二人とも満身創痍じゃないか。


 それにしても、使い古された突っ込みだが、これだけ顔に傷がついているのに歯がかけたり鼻が潰れたり頬骨が折れたりはしないのだなぁ。でも最近は鼻血は出すようになったのだな。

 私が若いころはせいぜい、口の端から血が出る程度だったが。時代は変わったのだな。


 少年は、「え~、似てるかぁ?」なんて言いながらもまんざらでもなさそうにしている。

「うんうん、似てる似てる」

 体の線がまだ細くてできあがってなさそうなところとか、髪型とか、ブレザー着てるところとかがな。あとは……いや、そんなもんか。やっぱりあまり似てないな。乗り気っぽいから黙っておくけど。

 そうそう、タイトルからして「転生」だなんて、ぴったりではないか? もうこれからとれば良いよ、適当に。


「でもさー、こいつの名前『誠一郎』っていうんだぜー? ファンタジーっぽくないじゃん」

 ええい、めんどくさい!

「いいじゃないか、『セイイチロウ』。生まれ変わっても日本文化を忘れなそうな名前で。そうだ、ちょっと和風テイストのファンタジーとか、ファンタジー世界に日本風のコミュニティがあるとかいう設定にすれば?」

 それで他の国からはすごくエキゾチックで神秘的と思われてるとかいうのはどうだろう。そういう事にしておけば特に秀でた容姿設定にしなくてもお望みのモテモテにしやすいし、良いアイデアだと思うんだが。


 少年は首をひねって、うーん、と考えた。

「でもさー、そのまんまじゃ、なんかさぁ……」

 イライラ。

 優柔不断な彼は、ふよふよ浮きながら仰向けになったり胡坐をかいたりと体勢を変えつつ10分ほど悩んでいた。生意気に、私の手が届かないよう天井の方へ避難しているのが憎らしい。

 このガキ、ここ数日でこういう事だけ学習したな。


 そろそろ埃取りの柄か何かでつついてやろうかな、と思ったところで、彼は「決めた!」と言ってやっと降りてきた。

「こいつさ、生まれ変わる前は『ラストエッジ』って名前の殺し屋だったんだよね。俺、それでいいや」

「ラストエッジ?」

「うん。かっこよくね?」

 かっこいいかどうかは判断つきかねるが、『ラスト』は不要な気がする。名前っぽくない。そういうのはコードネームとか二つ名とかに付く単語だろう?


「……『エッジ』にしとこうな。ラスト抜きで。で、苗字は?」

 二つ名でまたカッコイイの考えるから、となだめ、私は先を促した。

「ん~~」

 彼はまた、ぱらぱらとページをめくり、手を止めると真剣な顔で言った。

「『三日月』って、英語でなんてゆーんだっけ?」

「英語の授業さぼり過ぎだろう」


 ……というわけで、彼の新たな名前は『エッジ=クレセント』君に決定した。

 いかにもな名前だと思う。本人が満足しているようでなによりだ。


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