部署という病
わたしは大手企業の苦情促進課に勤めるごく普通のサラリーマンである。残念ながらつい先ほど、我が社の商品が異様に壊れやすいとのクレームが入った。わたしはその報告をすべく、ただちに該当商品を手がけた部署に電話を入れた。
すると電話に出た企画暴発部の雑山は、うちはとにかく無闇に商品を開発してはリリースしているだけなので、そのような意見に聴く耳を持つつもりはいっさいないという。そう言われても困るのだが、しかしそこがあくまで企画暴発部を名乗っている以上、彼らを責めることはできない。
わたしは次に、その商品を技術的に支えているであろう部署へと直接足を運んで苦情を伝えた。しかしそれを聴いた技術盗用部の真似田は、なにもかも単に他社から盗んだ技術でしかないので、詳細についてはその他社に訊いてくれの一点張りで埒があかない。
だとすればそんな商品を販売して本当に大丈夫だったのだろうか? にわかに不安に襲われたわたしは、こんなときのために用意されている専門部署に相談を持ちかけた。すると法務部脱法課に常駐している担当弁護士の網島によれば、すべてきっちり法の編み目はくぐり抜けているので、まったく問題はないとの話であった。
それにしてもこのように怪しげな商品を店頭に並べている販売店のほうにも、あるいは苦情が殺到しているのではないか? そう思って日々店舗まわりにいそしんでいるはずの部署を訪れると、そのフロアに出社している社員はひとりしかいなかった。やはりこの商品に関する苦情が店舗に殺到しているせいで、その対応に追われてみな外に出払っているのだろうか。
そこで内気営業部にただひとり残っていた小山内という社員に声をかけてみる。すると彼は、別にみな外まわりに出ているわけではない、ここには内気な人間しか配属されていないので、先週から基本的にリモート勤務に切り替えたのですと、いっさい目を合わせぬまま足もとに向けて小声で説明してきた。
だが店舗にそれほど苦情が来ていないのだとすれば、特に問題はないのかもしれない。そもそもこの商品は、どれくらい売れているものなのだろうか。気になったわたしは売り上げデータを見せてもらうために、また別の部署へと赴いた。しかし感覚経理部の勘地谷いわく、そのようなものはひとつもないと言う。彼らはあくまでも独自の感覚のみに頼って経理をする部署であるため、データなどという味のしない数字はまったく不要であるらしいのだ。
わたしは改めて状況を確認するために、いったん自分のデスクへと戻ることにした。そしてPCのほうを確認してみると、ユーザーからホームページを通じて同様の苦情メールが続々と届いているのだった。だがこんなに同じような文面のメールが、一斉に届くものだろうか? これはもしかするとライバル会社か何かによるいたずらではないかと思いはじめたわたしは、ネットまわりに詳しい社員を求めて専門の部署に相談を持ちかけた。
すると誤情報システム部の目果村はそれをすぐさま誤情報であると断定してくれたが、彼が所属しているのが誤情報システム部である以上、彼自身が伝えてくるその情報もまた誤情報である可能性は拭いきれない。
わたしはあちこちの部署を訪ねまわってすっかり疲れ切ってしまった。ここはいったん人事占星部にでも寄って、気分転換に今日の運勢を占ってもらうことにしよう。この会社ではすべての人事異動が星占いによって決定されており、社員は好きなときに占いを受けることができる。だがその代わりに、その情報は次の人事異動に反映されることになる。主任の易森に占ってもらったところ、わたしにとって今日は変革の一日であり、なにかしらひと皮剥けることになるはずだという。
それから再び自らのデスクへと戻ったわたしは、苦情メールに対し以上のような経緯をすべて書き記して返信し、新たに来た苦情電話に対しても同様の説明を繰り返し、またSNSにもその経緯をすべて晒すことによって、苦情促進課としての義務を立派に果たすことに成功した。そしてやり切ったという満足感を胸に、すぐやる課の隣にあるすぐやめる課に退職願を提出すると、この日をまぎれもない変革の一日としたのであった。




