俺、ただの露天商なんですけど? 〜中身22歳の若造がSSランクドワーフに転生してチート武具を量産していたら、いつの間にか異世界の『武器屋王』に成り上がっていた件〜
はじめまして、またはこんにちは!
本作を開いていただき、ありがとうございます。
中身は若造、見た目は激渋イケオジドワーフな主人公が、ゲーム感覚のチートスキルで異世界の経済を無双していくお話です。
「サクッと読めて、スカッと爽快!」をテーマに、全5話の短編として一気に駆け抜けます。
難しい設定は抜きにして、チートなモノづくりと勘違いによる成り上がり劇を楽しんでいただければ幸いです!
それでは、ジュンドの異世界露天商ライフ、開幕です!
気がつくと、俺は鬱蒼とした森の中に立っていた。
「……マジで異世界転生しちゃったのかよ」
思わず口から漏れた自分の声に、ビクッと肩を揺らす。腹の底から響くような、やたらと渋くて重厚な声だったからだ。
22歳、しがないゲーマーだった俺こと『俊』は、不運な事故であっけなく死んだ。
その後、真っ白な空間で自称・女神から「お詫びにチート能力あげるわ。めんどくさいし、王都から離れた商業都市の近くに落としておくわねー」と、やけに軽いノリでガチャを引かされ、この森に放り出されたのだ。
その結果が、これである。
【種族】ドワーフロード(SSランク)
【スキル】武具生成(S)、量産(A)、アイテムボックス
近くの水溜まりを覗き込むと、身長180センチほどの、鋼のように引き締まった肉体を持つ男が映っていた。短く整えられた顎鬚に、鋭い眼光。どこからどう見ても、酸いも甘いも噛み分けた『超絶渋い歴戦のイケオジドワーフ』である。中身は22歳の若造だというのに。
「グルルルル……ッ!」
外見の観察をしていると、不意に地響きのような唸り声が聞こえ、茂みから身の丈2メートルを超えるオークが現れた。丸太のような棍棒を握り、明確な殺意を向けてくる。
いきなりの死地だが、俺は不思議と冷静だった。
空中に浮かぶ【アイテムボックス】のウィンドウを開く。中には、女神から初期特典としてもらった『鉄鉱石』や『樫の木材』『粗革』などの基礎素材が入っている。
俺の視線がボックス内の素材を認識した瞬間、脳内に現在の素材で作れる武具のリストが、完成形のイメージと共に浮かび上がった。リストの中から『鉄のロングソード』と『ラウンドシールド』を選択し、Sランクスキル【武具生成】を発動する。
淡い光が収束し、俺の両手には新品の剣と盾が握られていた。
「ゴァァァッ!」
オークが全力で棍棒を振り下ろしてくる。俺は冷静に盾を斜めに構え、衝撃を受け流した。
ギィィンッ! という音が響くが、ドワーフロードの規格外の筋力と完璧なバランスの盾により、俺は一歩も下がらない。逆に体勢を崩したオークの胴体へ、ロングソードを薙ぎ払う。
刃は一切の抵抗を感じさせず、オークの肉と骨をあっさりと両断した。
倒れたオークは光の粒子となって霧散し、後には『オークの魔石』と『オークの分厚い皮』がドロップアイテムとして転がっていた。
俺はそれをアイテムボックスに回収し、剣と盾を持ったまま、女神が言っていた『商業都市』を目指して歩き出した。
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森を抜けると、石造りの巨大な城壁が見えてきた。
門には衛兵が立っており、商人や旅人が列を作っている。俺も列に並び、特に怪しまれることもなく(むしろドワーフの貫禄のせいか衛兵に少し緊張されながら)街の中へ足を踏み入れた。
「おお……!」
思わず感嘆の声が出た。
石畳のメインストリートに、レンガ造りの建物。馬車が行き交い、様々な種族の人々が活気ある声を上げている。まさにファンタジー世界の商業都市だ。ゲーマーとしての血が静かに騒ぐ。
感動したものの、地理が全く分からない。とりあえず装備を換金する場所と、今日の宿を探さなければ。
キョロキョロしていると、いかにもファンタジーな軽武装の若手冒険者三人組が歩いてきた。俺は思い切って声をかけた。
「あー、すまない。少し道を教えてくれないか?」
「ん? うおっ、すげえ貫禄のあるドワーフのおっさんだな! どうしたんだ?」
気さくな若者たちで助かった。俺は田舎から出てきた体を装い、武器の買取をしてくれる店と、安くて飯の美味い宿の場所を尋ねた。
「なら、路地裏にある小さな武具店がいいぜ。親父は無愛想だけど、確かな目で適正価格で買ってくれる。宿はその近くの『踊る豚亭』がおすすめだ」
「助かる。礼を言うよ」
「気にするな! 俺は戦士のガリク。おっさんの名前は?」
名前か。転生前の『俊』のままでは、この見た目に合わない。ドワーフっぽく少し捩るか。
「……ジュンド。ジュンドだ」
「ジュンドの旦那だな! 街で会ったらまたな!」
爽やかに去っていく冒険者たちを見送り、俺はジュンドとして、教えてもらった路地裏へ向かった。
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路地裏にある買取屋の古びた木の扉を開けると、油と鉄の匂いが鼻を突いた。
カウンター越しに、先ほど生成した剣と盾をそっと置く。眼帯をした店主の親父は無言でそれを手に取った。
「…………」
親父の動きが、ピタリと止まる。刃の表面を撫で、盾の裏側を食い入るように見つめ始め、やがてその額にじわりと冷や汗が浮かんだ。
「……これは」
親父は震える息を吐き出し、俺の顔を射抜くように見た。
「刃の反り、重心の狂いのなさ……それにこの盾の、衝撃を逃がすための絶妙なカーブ。一体どこの工房で打たれたものだ?」
「いや、俺がさっきその辺で作ったやつだが」
「……そうか。詮索は無用ということだな」
親父は深くため息をつき、ワケありの伝説の職人がお忍びで持ち込んだと勝手に納得したらしい。カウンターの奥から、ずっしりと重そうな革袋を持ってきた。
「銀貨30枚だ。……正直なところ、もっと出したいが、うちの店の規模だと即金で払えるのはこれが限界だ」
ジャラリと置かれた銀貨を見て、俺は表情を崩さずに親父に尋ねた。
「ちなみに、この街でまともな飯を食って一晩泊まると、いくらくらいかかる?」
「ん? ああ……安い宿なら銅貨30枚もあれば十分だ。ちなみに銀貨1枚は銅貨100枚の価値だな」
「なるほど。参考までに聞きたいんだが、一般的な新米冒険者が使う鉄の剣ってのは、だいたいいくらぐらいで買えるもんなんだ?」
「鉄の剣か? まあ、ピンキリだが大体銀貨1枚ってところだ」
(なるほど。鉄の剣1本が銀貨1枚=だいたい1万円くらいの感覚か……? ってことは、適当に作ったこの剣と盾のセットで、およそ30万円ってところか……!)
初期素材で作った品が、いきなり初任給レベルの額面になったことに内心驚きつつ、俺は小さく頷いた。
「助かる。それで手を打とう」
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教えてもらった通り宿屋に部屋を取り、一階の食堂でエールと山盛りの肉料理を腹に詰め込む。一人で黙々と飲み食いする渋いドワーフの姿は、酒場の風景にすっかり溶け込んでいるようだ。
「……明日のバザー、また場所取りが激戦になりそうだな」
「ああ。商業ギルドの奴ら、最近場所代を銅貨5枚に上げやがって。まあ、毎日あれだけ人が集まる露天商の広場だ、文句は言えねえが」
隣の客たちの会話が耳に飛び込んでくる。
どうやらこの街の広場では毎日『バザー』が開かれており、商業ギルドで少額の場所代を払えば、誰でも露天商として手軽に自分の店を出せるという。
「露天商、か……」
俺はエールの入ったジョッキを傾けながら、小さく息を吐いた。
さっき買取屋に出した剣と盾の完成イメージは、俺の頭の中にハッキリと残っている。
(もし、手に入れたこの資金で鉄鉱石や木材の素材を買い集めれば……【量産】スキルを使って、さっきのレベルの武器を複数作り出すことができる。それを露天商として並べたらどうなる……?)
翌朝。俺ことジュンドは、『踊る豚亭』の硬いベッドで目を覚ました。
「さて、いっちょ稼ぎに行きますか」
朝食を軽く済ませた俺は、街の素材屋へ足を運んだ。
昨日の買取屋で得た資金(銀貨29枚と銅貨70枚)のうち、銀貨5枚ほどを使って『鉄鉱石』『樫の木材』『魔物用のなめし革』などを大量に買い込む。
素材屋の親父は、ドワーフの俺が大量の鉄を買い込んだのを見て「おお、あんたみたいな立派な職人が街に来てくれるとは!」と勝手に感動してオマケまでしてくれた。外見の恩恵がすごい。
宿の自室に戻った俺は、空中に【アイテムボックス】のウィンドウを展開した。
「まずはベースとなる一本を作る」
ウィンドウ内の買い込んできた大量の素材に視線を向ける。
素材群を認識した瞬間――ポンッ、と小気味良い音が脳内に響き、現在クラフト可能な武具のリストが、ホログラムの完成イメージと共にズラリと浮かび上がった。
(おっ、昨日より素材の種類と量が増えたから、作れるラインナップもかなり増えてるな。『鉄のバスタードソード』とか『スパイクシールド』もあるぞ)
ゲーマーとしての血が騒ぎ、色々作ってみたい衝動に駆られるが、ここはグッと堪える。最初の露店に並べるなら、奇をてらわないオーソドックスなものが一番売れやすいはずだ。
俺はリストの中から、昨日と同じく極限まで実戦に特化した『鉄のロングソード』と、取り回しの良い『鉄のダガー』を選択し、Sランクスキル【武具生成】を発動した。
淡い光と共に生み出されたのは、重心や刃の反りがミリ単位で計算され尽くした完璧な剣と短剣だ。
「よし、ここからが本番だ。……【量産】!」
Aランクスキルを発動し、対象にこのロングソードとダガーを指定する。
すると、アイテムボックス内の鉄鉱石や木材がシュルシュルと光の粒子になって消え――ベッドの上に、全く同じ品質の武具がポンッ、ポンッ、と連続で複製されていった。
「うお、マジか。一瞬じゃん」
あっという間に、10本の『極上・鉄のロングソード』と、10本の『極上・鉄のダガー』が完成した。これだけの量を手作業で打てば、どんなベテラン鍛冶師でも数週間はかかるだろう。チートここに極まれり、である。
俺はそれらをアイテムボックスに放り込み、商業ギルドへと向かった。
「つ、次の方、どうぞ……ひっ」
商業ギルドの受付窓口。
俺がカウンターの前に立つと、うさぎ耳の獣人の受付嬢が、ビクッと肩を震わせて耳を伏せた。
無理もない。180センチの巨躯に、歴戦のオーラを纏った顔面凶器のようなドワーフが、無表情で自分を見下ろしているのだ。中身は緊張している22歳の若造なのだが、彼女からすれば「裏社会のドンが借金の取り立てに来た」ように見えているに違いない。
「あ、あのっ! 本日はどのようなご用件で……!?」
「……バザーの、場所代を払いたい。露店を出したいんだが」
なるべく優しく言ったつもりだったが、低く響く重低音ボイスのせいで凄みが増してしまった。
「ろ、露店、ですか!? こ、こんな立派な親方様が!?」
「ああ。ダメか?」
「だ、だだだ、ダメではありません! 場所代は銅貨5枚になりますっ! こちらが許可証の木札です!」
受付嬢は震える手で猛烈なスピードで手続きを済ませ、俺に木札を差し出した。
心の中で「怖がらせてごめんな」と平謝りしながら、俺はギルドを後にした。
商業都市の中央広場は、凄まじい熱気に包まれていた。
野菜や果物を売る農家、怪しげな壺を並べる商人、魔物の素材を売りさばく冒険者。何百という露店がひしめき合い、客の呼び込みの声が飛び交っている。
俺は広場の端っこ、噴水の近くの空きスペースに陣取った。
インベントリから厚手の布を取り出して地面に敷き、その上に、先ほど【量産】したロングソードとダガーを等間隔に並べていく。
特に看板は出さない。パイプ椅子代わりの木箱に腰を下ろし、腕を組んで目を閉じる。
(よし、あとは客を待つだけだ。……って、誰も来ねえな)
周りの店は「安いよ安いよ!」と声を張り上げているが、俺の見た目でそれをやると完全に『ヤバいクスリの密売』にしか見えないので、ひたすら無言を貫いていた。
並べているのは、見た目こそ地味な鉄の剣だ。
しかし、その刀身が放つ静かな冷気のような輝きは、見る者が見れば一目で異常だと分かる代物である。
「ん……?」
一時間ほど経った頃。
一人の男が、俺の露店の前でピタリと足を止めた。
全身に無数の傷跡があり、使い込まれた革鎧を着た中年の剣士だ。その鋭い目つきは、明らかにその辺のチンピラや新米冒険者とは違う『本物の修羅場』をくぐり抜けてきた者のそれだった。
男は、布の上に並べられたロングソードを食い入るように見つめ、やがてゴクリと喉を鳴らした。
「……おい、ドワーフの旦那。こいつを見てもいいか?」
「ああ、好きにしろ」
短く答えると、男は震える手でロングソードを一本持ち上げた。
軽く構え、刃の重さを確かめるように手首を返す。その瞬間、男の目がカッと見開かれた。
「なっ……なんだこの剣は! 鉄の重さなのに、まるで羽のように腕に吸い付く……! 刃の鍛え方も異常だ。ミスリルでも混ざってんのか!?」
「いや、ただの鉄と樫の木だ」
「嘘をつけ! 俺は20年剣を振ってるが、こんな恐ろしい業物はお目にかかったことがねえぞ! い、いくらだ!? 白金貨か!? それとも金貨100枚か!?」
男が血走った目で身を乗り出してくる。
俺は心の中で激しく突っ込んだ。
(いやいやいや! プラチナって何!? どんだけインフレしてんの!?)
俺はあくまで平静を装い、昨日、買取屋の親父に聞いた『一般的な新米冒険者が使う鉄の剣の相場』を口にした。
「……銀貨1枚だ」
その瞬間、中年剣士は彫像のように固まった。
「は……?」
「聞いての通りだ。1本、銀貨1枚」
「正気かアンタ!? この国宝級の剣が、そこらのなまくらと同じ値段だと……!?」
男はワナワナと震えた後、財布の紐を乱暴に引きちぎる勢いで、銀貨を3枚、布の上に叩きつけた。
「さ、3本もらう!! いいな!? もう金は払ったぞ!!」
「あ、ああ。まいど」
中年剣士は、まるで宝物を手に入れた子供のように、3本の剣を抱きしめながら猛ダッシュで広場を去っていった。おそらく、仲間にも教えに行くか、あるいは誰にも教えずに独占する気だろう。
「……なんか、またやらかした気がするな」
俺は残された銀貨3枚を見つめながら、ポツリと呟いた。
だが、そんな俺の懸念をよそに、男の尋常ではないリアクションを見ていた周囲の冒険者たちが「なんだなんだ?」「あのドワーフの店、何が売ってるんだ?」と、一人、また一人と集まり始めていた。
中年剣士が猛ダッシュで広場を去ってから、わずか30分後。
「おい! さっきガリクの親父が自慢してた『銀貨1枚の神剣』ってのはここか!?」
「俺にも売ってくれ! 頼む、金なら銀貨2枚出す!」
「ズルいぞ抜け駆けは! 俺は3枚だ!」
俺の露店の前には、眼の血走った冒険者たちが黒山の人だかりを作っていた。
どうやらあのオッサン、ギルドか酒場に戻って盛大に自慢したらしい。口コミの拡散スピードがSNS並みでビビる。
「……並べ。順番に売る。1本銀貨1枚だ」
俺が渋い重低音ボイスでそう告げると、屈強な冒険者たちが「うすっ!」と綺麗に一列に並んだ。SSランクドワーフの威圧感、超便利である。
飛ぶように売れていく剣と短剣。俺の手元には、あっという間に大量の銀貨が積み上がっていった。
(チョロい。これ、アイテムボックスの素材が尽きるまで【量産】し続ければ、無限に稼げるんじゃね?)
俺がゲーマー特有のガバガバな経済観念でニヤニヤしていた(外見上は腕を組んで目を閉じているように見える)、その時だった。
「ええい、どけ底辺ども! 道を開けろ!」
下品な怒声と共に、冒険者たちの列が無理やり割られた。
現れたのは、ギラギラした成金趣味の服を着た太った男と、護衛らしき数人のゴロツキだ。
「おい、そこの薄汚いドワーフ! 貴様だな、無許可で粗悪品をばら撒いている詐欺師は!」
「……あんた、誰だ?」
「ふん! 私はこの商業都市で最大手の武具屋『黄金の猪亭』の店主、ゴルド様だ! 鉄の剣が銀貨1枚だと? そんな値段でまともな剣が売れるわけがない! どうせどこかから盗んできたか、数回振っただけで折れるナマクラに決まっている!」
典型的なテンプレ悪徳商人のお出ましである。
周囲の冒険者たちが「なんだと…!?」「俺たちの剣を馬鹿にする気か!」といきり立つが、ゴルドは鼻で笑った。
「うるさい! 私は商業ギルドの幹部と懇意にしているんだぞ! ええい、こいつの商品は全て没収だ! もちろん私の店で『処分』してやるから感謝しろ!」
なるほど。要するに、いちゃもんをつけて俺の商品をタダで巻き上げ、自分の店で高値で売りさばく気満々なのだろう。
(めんどくせえな……。適当に威圧して追い払うか?)
俺が腰を浮かせかけた、その瞬間。
「待たぬかァァァァァァァッッ!!!」
広場の空気を震わせるような絶叫と共に、一人の初老の男が猛烈な勢いで走ってきた。
身なりの良い服は乱れ、滝のように汗を流している。その後ろには、朝イチで手続きをしてくれたあのうさぎ耳の受付嬢が涙目でついてきていた。
「おお、これはギルドマスター! ちょうど良かった、今この詐欺師のドワーフを――」
ゴルドが揉み手をして近づいた瞬間。
バチィィィィンッッ!!!
広場に、凄まじい平手打ちの音が響き渡った。
ギルドマスターの渾身のビンタを食らったゴルドは、コマのように回転して地面にぶっ倒れた。
「な、何を……!? ギルドマスター!?」
「黙れこの大馬鹿者がァッ!!」
ギルドマスターはゴルドを一瞥もせず、俺の露店に並べられた最後の一本のロングソードを、震える両手でそっと持ち上げた。
「なんという……なんという恐ろしい業物だ。刃の波紋、極限まで計算された重心。そしてこの、魔力を微かに帯びたような澄んだ鉄の響き! ミスリルすら使わず、ただの鉄と木材でこれほどの芸術品を打ち上げるなど……! 国宝……いや、神話の領域だ!!」
うわあ。プロの鑑定眼ってすごい。
UIの【武具生成】で作った完璧なステータスを、そこまで正確に読み取るとは。
「それを……この神剣を、あろうことか『銀貨1枚』で売るなど……ヒィィッ!」
ギルドマスターはそのまま、俺の目の前で勢いよく土下座をした。
石畳に額を擦り付ける、完璧なスライディング土下座である。
「偉大なるドワーフの親方様ッ!! 事情は分かりませぬが、どうか、どうかその神剣を銀貨1枚でばら撒くのだけはおやめください! 街の経済が、他の武具屋が全て消し飛んでしまいます!!」
「……あー、相場崩壊ってやつか。なるほど」
俺は素で納得した。ゲームでも、業者がチートアイテムを安値で大量に出品したらサーバーの経済が死ぬ。それと同じだ。
「ですが、親方様ほどの腕前の方に『店を畳め』などと恐れ多いことは申せません! そこで提案がございます!」
ギルドマスターは、気絶している悪徳商人ゴルドを指差した。
「このゴルドは以前から不正な取引の噂が絶えませんでした。今回、親方様のような神の御手を持つ御方に難癖をつけた罪で、即刻ギルドから追放、全財産と店舗を没収します!」
「へえ」
「つきましては! 街のメインストリートにあるヤツの『超大型店舗』を、親方様に無償でお譲りいたします! ですからどうか、ご自身の店を構え、そこで『金貨数十枚』という適正価格で販売していただけないでしょうか!!」
周囲の冒険者たちが「すげえ…」「あのゴルドの店をタダで…」とどよめく。
俺は軽く顎鬚を撫でながら、少し考えるふりをした。
(タダで一番デカい店が手に入るのか。雨風しのげるし、アイテムボックスの素材で色んな武具を試作する工房としては最高だな)
「……いいだろう。その条件、飲んでやる」
俺が渋い声でそう答えると、ギルドマスターは「おおお! ありがとうございます!」と涙を流して喜んだ。
こうして、異世界に転生してわずか2日。
俺こと22歳のゲーマー青年ジュンドは、超一等地にある巨大武具店のオーナーになってしまったのだった。
悪徳商人ゴルドがギルド追放となり、俺ことジュンド(中身22歳)は、商業都市のメインストリートにある巨大な空き店舗を丸ごと譲り受けた。
「……いや、広すぎだろ」
三階建ての石造りの建物。一階は広々とした販売フロアで、奥には灼熱の炉が備え付けられた本格的なドワーフ仕様の工房まで完備されている。裏には巨大な倉庫もあり、アイテムボックスに入りきらない素材をストックするには完璧すぎる環境だった。
俺は店の看板をシンプルに『武具工房 ジュンド』と書き換え、さっそく営業を開始した。
ギルドマスターとの約束通り、商品の価格は適正(一般的な鉄剣なら金貨数枚レベル)に引き上げた。さらに、露店の時に思いついた新しいビジネスモデルを導入することにした。
それは『素材持ち込みによるオーダーメイド生成』だ。
「ジュンドの親方! 先日ダンジョンで『フレイムリザードの鱗』が手に入ったんです! これで俺の剣を打ってくれませんか!?」
「おお、親方! 俺はこの『ロックゴーレムの破片』で、絶対に壊れない大盾を頼みたい!」
噂を聞きつけた凄腕の冒険者たちが、こぞってレアな魔物素材を抱えて店に殺到した。
俺は工房のカウンター越しに、彼らが持ち込んだ素材をじっと見つめる。
俺の視線が素材を認識した瞬間――脳内に小気味良い音が連続で鳴り響き、【アイテムボックス】のクラフトUIに『NEW』の文字が次々とポップアップした。
(うおぉぉっ! レシピがめっちゃ増えてる! 『炎鱗の魔剣』に『巨岩の重盾』……どれもステータスがエグいな!)
ゲーマーとしての収集欲が激しく刺激されるが、ここはグッと堪える。俺は「ふむ、悪くない素材だ」と渋いドワーフの声で威厳たっぷりに頷いた。
「……よし、引き受けよう。三日後に取りに来い」
「さ、三日で!? ありがとうございます、親方!」
冒険者たちは深く頭を下げて帰っていった。
さて、三日後と言ったが――俺はUIのリストから『炎鱗の魔剣』と『巨岩の重盾』を選択し、Sランクスキル【武具生成】を発動する。
ポンッ、という軽い音と共に、一瞬で刀身から陽炎を放つ魔法剣と、重厚なシールドが完成した。
「よし、仕事終わり。あとは三日間、エールでも飲んで昼寝するか」
そう、数分で渡しては「魔法か何かだ」と怪しまれる。だからあえて三日間という『いかにも職人が徹夜で打ち続けた感』のある絶妙な日数を提示したのだ。
そして三日後。
たっぷり休んで英気を養った俺が、カウンターに完成品をドサリと置くと、冒険者たちはボロボロと男泣きし始めた。
「す、すげええぇぇ! 俺の魔力と完全に同調してる……! 親方、三日間も寝ずに打ってくれたんですね! 一生ついていきます!!」
「俺の盾もヤバい! これで金貨20枚なんて安すぎる! ギルドで借金してでも払います!」
勘違いがさらなる感動を生み出しているが、結果オーライである。
冒険者たちは俺の作ったチート武具を装備してダンジョンへ潜り、さらに強力な素材を持ち帰ってくるという、完璧なループが完成した。
「ははっ、商売って楽しいな」
エールを飲みながら売上金を眺め、俺は充実した異世界ライフを満喫していた。
しかし、そんな平和な日常は、突如として破られることになる。
「た、大変だァァァッ!! 防壁が破られた! 街に、巨大なモンスターが入り込んだぞォォッ!!」
店の外から響いた悲鳴が、商業都市最大の危機の始まりだった。
**【第5話(最終話)】俺の作った武器、強すぎない? 〜異世界の『武器屋王』伝説のはじまり〜**
ドドォォォォンッ!!
凄まじい地響きと共に、メインストリートの石畳が粉砕された。
もうもうと舞い上がる土煙の中から現れたのは、全身を鋼鉄のような硬い鱗で覆われた体長10メートルを超える巨獣――『アースドラゴン』の迷い個体だった。
「ひぃぃっ! ドラゴンだぁっ!!」
「逃げろ! 衛兵の槍じゃ鱗一枚傷つけられねえぞ!!」
街は一瞬にしてパニックに陥った。本来なら国が騎士団を派遣して討伐するレベルの災害級モンスターだ。防衛隊が放つ矢も魔法も、ドラゴンの分厚い鱗に弾かれて全く通用していない。
俺も店の二階の窓から顔を出し、「うわー、あんなの来ちゃったよ。逃げる準備しとくか?」と暢気に【アイテムボックス】を開きかけた、その時だった。
「どけえええぇぇぇッ!! 俺たちが相手だ!!」
野太い声と共に、ドラゴンの前に数人の冒険者が飛び出してきた。
それは三日前、俺の店でオーダーメイドの武具を買っていった凄腕の冒険者パーティーだった。
『ギャァァァァッ!!』
アースドラゴンが咆哮を上げ、巨岩のような太い尻尾を猛スピードで薙ぎ払う。直撃すれば人体など容易くミンチになる凶悪な一撃だ。
「させねえよ!!」
大男の冒険者が前に出て、俺が三日前に(一瞬で)作った『巨岩の重盾』を構えた。
ズドォォォォンッ!!!
凄まじい衝撃波が周囲の建物のガラスを粉砕したが――大男は、なんと一歩も後ろに下がっていなかった。
「なっ……! ドラゴンのフルスイングを、傷一つなく防いだと!?」
周囲の衛兵たちが驚愕の声を上げる。
「へへっ! ジュンドの親方が徹夜で(※昼寝していた)打ってくれたこの大盾、どんな衝撃も完全に吸収しやがる! 行け、リーダー!」
「おおおぉぉっ!!」
盾に弾かれて体勢を崩したドラゴンの懐へ、もう一人の冒険者が飛び込む。その手には、陽炎を放つ『炎鱗の魔剣』が握られていた。
「親方の魂の結晶、味わいやがれぇぇッ!」
冒険者が渾身の力で剣を振り抜いた瞬間。
まるで熱した包丁でバターを切るかのように、鋼鉄の鱗ごとドラゴンの太い首がスパンッ! と綺麗に切断された。
ドスゥゥゥン……ッ!
巨体が地面に倒れ伏し、やがて光の粒子となって大量のレア素材(ドラゴンの鱗や巨大な魔石)をドロップした。
しんと静まり返るメインストリート。
やがて、誰かがポツリと呟いた。
「一撃……アースドラゴンを、たった一撃で……?」
「す、すげえ……! なんだよあの剣と盾! どこのアーティファクトだ!?」
どよめきが広がる中、冒険者たちは誇らしげに胸を張り、俺の店『武具工房 ジュンド』をビシッと指差した。
「へっ、驚くのはまだ早いぜ! これは全部、あそこの『ジュンドの親方』が俺たちのために打ってくれた最高傑作だ!!」
その瞬間、広場にいた数百人の視線が一斉に、二階の窓から顔を出していた俺へと集まった。
その目には、畏敬、興奮、そして「俺にもあの最強の武器を作ってくれ!」という狂気じみた熱望が宿っている。
(……あ、これ明日から店がとんでもない大行列になるやつだ)
俺は心の中で盛大にツッコミを入れながらも、窓辺で渋いドワーフの顔を引き締め、フッと貫禄のある不敵な笑みを浮かべてみせた。
すると、広場から「うおぉぉぉっ! ジュンド親方ぁぁっ!!」という地鳴りのような大歓声が沸き起こった。
俺の視界の隅。空中に展開したままだったUI画面が、先ほどドロップしたアースドラゴンの素材を認識し、神話級の新たなレシピ『地竜の崩剣』をピコンッと音を立てて追加した。
「まあ、素材選びもクラフトも、これからもっと面白くなりそうだな」
22歳のゲーマー青年ジュンドによる、チートな武具生成と勘違いの数々。
彼が極上の素材を求めて異世界の経済を牛耳り、伝説の『武器屋王』として歴史に名を刻むまでの物語は――まだ、始まったばかりである。
【完】
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
ただの路地裏の露天商から始まり、あっという間にアースドラゴンすら一撃で倒せる武器を生み出す『武器屋王』の第一歩を踏み出したジュンド。
彼の神話級クラフトライフは、ここからさらにスケールアップしていく……かもしれません!
「面白かった!」「ドワーフのおっさん渋い!」「スカッとした!」など、少しでも楽しんでいただけましたら、ぜひ【ブックマーク】や、下部にある【☆☆☆☆☆】(評価・星)を押して応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
また別の作品でお会いできることを楽しみにしています。
ありがとうございました!




