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出会い

この作品は BL 所謂、ボーイズラブです。


興味がない方、ご理解いただけない方はご遠慮願います・・・。



緩めたネクタイを風に靡かせながら、屋上に佇む。

見上げた空が、何故だかぼやけて見えて苦笑をこぼした。

まさか自分が、ここまであの人の事を好きになるとは思わずにいたから驚いてしまう。

あの人が誰を想っているかなんて解りきっていたはずだったのに・・・。

身代りになんか、ならなければ良かったのか・・・。

沈む夕日に、全てを諦めろと言われているような気がして、滲んだ涙を拭えずにいた――。




自分が吹き出した紫煙が、赤紫に染まる空に消えて行く。

1年前に憶えた煙草の味が、妙に舌を刺激し眉間に皺を寄せる。

あいつの事が死ぬ程好きだったはずなのに、今自分の胸を占めるのはあの子だ。

何時の間にか横に居るのが当たり前になっていたから、想いを伝える事を躊躇った。

そんな臆病な自分に嫌気がさして、そして1年前の、同じ過ちを繰り返すのか?と自問自答していた――。




少し長めの真っ赤な髪が、他生徒に脅威を感じさせる。

入学そうそうなのに、制服は当たり前のように着崩し、ネクタイは勿論緩められている。ワイシャツのボタンは3つ程外されており、ちらりと見える鎖骨が、妙に色気を発していた。

耳には当然の様にイヤホンが嵌められており、周りの騒音をシャットダウンさせている。

周囲の視線をものともしないで、かっぽしながら屋上を見上げるその姿は、今年の4月に入学式を終えたばかりの1年生とは思えない程、堂々としていた。

色素の薄い肌に、赤みがかった瞳は綺麗な二重。日本人離れした顔は、まるでビスクドールの様に美しい。成長期はこれからなのか、身長は160をようやく超えた程度だろう。

1学年上に、やっぱり人形のような綺麗な先輩がいるけれど、彼はその先輩にもひけをとらない容姿をしていた。

色々な意味で周囲から注目を浴びる彼は、しかしどうでも良い、と思っていた。

この学校に入学したのも、ただ実家から逃げ出したい一心だったからだ。

もともと自分は養子で、養父母には一応感謝しているけれど、必要なまでの干渉に嫌気を指していたのだ。

もともと勉学が得意だったのをいい事に、養父母のいる千葉から離れ、一部寮があるこの男子校を受験。見事に合格し、今現在この学校の寮で生活をしていた。

寮を使用している生徒はごく僅かな為、与えられる部屋は勿論個室。

その生活に一応満足している彼は、成績優秀な事もあって、ある程度の校則違反は注意されずにすんでいた。

そんな彼の肩をたたく者がいた。

自分の世界を邪魔された事に苛立ちを感じながら振り向いた彼は、そこに綺麗なそうして清楚ななりをしている人間を目の当たりにした。ネクタイの色を確認し、1学年上の先輩である事を察知する。急いでイヤホンを取り、彼に対峙した。

「これ、君の?」

綺麗な手の上にあったのは、見慣れた携帯電話。

「あ・・・」

急いで自分のズボンのポケットを確認し、それがまぎれもない自分の物だと解ると、おずおずとそれを受け取る。

「ありがとうございます・・・」

ぼそり、と告げられた言葉に笑顔を浮かべ、その先輩は息を吐いた。

「あぁ、良かった。違ったらどうしようかと思ったよ」

笑顔のままのその人の言葉に、彼は何も言えないでいた。

そんな2人に声がかかる。

はるか!」

自分達より少し前からの声に、“遙”と呼ばれたその先輩は、今まで以上に綺麗な笑顔を浮かべ、声の主に応えた。

「それじゃ」

“遙”と呼ばれた先輩は短くそう言うと、声の主の側へ掛けるように行ってしまった。

「・・ごめん、はやと・・」

風に乗り、楽しそうな会話が聞こえた気がした。

そんな2人を眺めながら、はぁ~、すげぇ~綺麗な人だったな、等と思っていると、彼こと、壱尹いちい 瀬那せなは物凄い視線を感じた。ぞくりと思わず身震いしてしまう程の強い視線は、上の方から浴びせられていて瀬那は視線を上げる。

屋上に、人の影を見つけ目を細めた。しかし、明らかな距離があり、又日差しが邪魔をし顔まで確認できない。

なんだろう、と思いながらも瀬那は気にする事をやめ校舎の中に入っていった。



鋭い視線を送っていた当の本人、相良さがら 朝霧あさきは4時限目をサボタージュする為屋上に上り、藍色のネクタイを弛めながら空を仰いだ。ゆっくりと柵まで歩いて行こうとした朝霧の耳に、聞き慣れない音が聞こえる。遠くの方で、シャカシャカと小さな音が聞こえ、朝霧は頭を仰いだ。

屋上入口のコンクリートの上にネクタイが揺れているのが見える。よく目を凝らすと柔かそうな赤い髪が見えた。目を閉じたその顔は、色素が薄く、まるでビスクドールのように美しい。

一瞬だけれど、“あいつ”を思いだした。そうして胸が苦しさを訴える。脳裏に1年前の出来事が浮かび朝霧は目をギュッと閉じた。

「・・・目にゴミでも入ったのか?」

急に声が降って来て、朝霧は急いで目を開ける。コンクリの上で寝そべっていた少年が、いつの間にかその瞳を開け、二重の大きな瞳が朝霧を捉えていた。その瞳も赤みがかっていて、ますます人形のように見える。

「あぁ・・・いや、別に・・・」

歯切れの悪い朝霧の言葉に、少年はふん、と鼻で笑い身体を起こした。

「まぁ、別にいいけど」

そう言うと、上から飛び降り、朝霧を横目で見ながらその場を後にしたのだった。

1人屋上に取り残された朝霧は、制服のポケットから煙草を出し、紫煙を燻らせ溜息を吐いた―――――。




それが、瀬那と朝霧の出会いだった―――。





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