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鬨の声

 時はアイアスがヌミキを殺したところに巻き戻る。アイアスは毛むくじゃらの肉塊から滑るように降りると倒れ伏すラーテスへ歩み寄る。アイアスは床に転がるラーテスの銃を気怠げに拾い上げ、赤い足跡を残して王城プラキドゥスの崩落した門から外へ出た。朝焼けが走るエルフの故郷はめくられた大地に光が差しクリーム色を呈していた。アイアスは覚束ない足取りで遠方に見える拠点へ向かう。アイアスの瞼は緩んだ縄のようにゆらゆらと垂れ、瞼が擦る目元も黒く影が塗られていた。彼は限界だった、しかし彼の足は早まる。彼方の拠点に火を照り返す何かがうろうろしていたためだ。全力で具足が土を蹴り、兜は疲労に揺れ、片手に握られていた銃は両手に掴まれる。更に拠点が大きくなると、一人の騎士が忙しく走り回っているのが見えた。アイアスが転がり込むように拠点へ駆け込むと、天幕は骨組みになり中の魔術道具の箱は解体され最期の【魔力誘導爆弾】が荒野に転がっていた。

「おい!これは、何をしている!」

アイアスはラーテスの銃を杖代わりに、魔術師の研究資料を読み漁る騎士の背へ呼びかけた。騎士は資料を持ったままアイアスへ振り返ると胴鎧に穴が空いていた。

「おお、アイアス殿でしたかご無事で何より、オイウスです。私はあの化け物が尻餅をついたときに投げられた物で先程まで倒れておりました。」

「何を、している。言え。」

アイアスはオイウスの言葉を遮り繰り返す。オイウスは書類を持つ手の親指を遊ばせゆっくりと爆弾へ歩を進めた。

「待て。戻ってこい!」

アイアスのわめきを聞き流しオイウスは崩れた天幕へ片手を伸ばす。アイアスは陸で跳ねあがる魚のように銃を構えた。

「何もするな。炎がお前の壊れた鎧を貫くぞ。」

オイウスは動きを止め、

「私は王レグルスの意志を継ぎ、護国のために尽くす。アイアス殿も同じでは?その豆鉄砲で本当に騎士の鎧を貫けると?」

とアイアスへ背を向けたまま言った。アイアスは銃口をオイウスへ向けたまま宝剣を探す。彼の目はせわしなく動き頭部が潰れた騎士の腰に目がとまる。オイウスは研究資料を放り出し、天幕から抜き身の宝剣を引き抜いた。

「私は生きる。それがヒトだ。あの爆弾で異世界へ逃げおおせてみせる。」

アイアスは引き金を引き、炎から金属の礫がオイウスへ飛来するも魔術で作られた騎士の鎧を凹ませるにとどまる。オイウスは後退り弾丸の衝撃を逃がし、アイアスはその隙に這いつくばるように地を駆け横たわる騎士の宝剣を引き抜き、両者は向かい合う。

「その爆弾は転移の仕組みが転移符とは違う。お前は異世界で死んで転移する。出力が違うんだ!」

アイアスはオイウスを怒鳴りつけた。オイウスは天幕から離れ開けた荒れ地へ構えを崩さず移動した

「それは問題ではない。愚か者のお前は解らんから教えてやる。あの港で私はユニグラムと戦った。あんな化け物に食われるくらいなら食われずに死ぬ方を選ぶ。」

オイウスの言にアイアスは銃を捨て、剣を天に構え、継ぎ足にオイウスへ進み出た。

「では、ユニグラムではなく、魔術でも無く、剣で斬り殺してやろう。」

アイアスは馬の駆けのように飛び出し、輝く必殺の一撃をオイウスへ振り下ろした。オイウスは立てた光る剣で一撃を受ける。頭をかち割らんとするしのぎと弾き飛ばそうとするしのぎが激突し剣は滑り合い、はばきが激突し火花が散る。アイアスが強引に突き出したガードがオイウスの小手を打ち、アイアスは素早い送り足でオイウスから離れる。オイウスは指の痛みを放り投げ、荒々しい鉄色の突きを放つが空を切る。アイアスはすかさず剣の腹で突き出た切っ先を跳ねのけ、光の一閃をオイウスの逆袈裟に振り下ろすが、オイウスは足を開き、地を踏みしめると、強引に流された剣を引き戻して死を退けた。勇むオイウスは剣が組み合ったままアイアスへ火花を散らし詰めより、アイアスの剣を跳ね上げんと剣のガードをぶつけ合う。アイアスの抵抗は激しく、光る剣はガッチリと組み合うと微動だしない。吹き荒ぶ風は地にまき散らされた木の葉を運び、舞う葉は剣へ止まると水かしたたるように裂け落ちる。オイウスは力負けを感じアイアスの股を蹴り上げた。オイウスの蹴りは咄嗟に離れたアイアスの腹を蹴り飛ばし、よろけたアイアスの攻め足が宙に浮く。オイウスはその足を切断するため、満身の力を込め空に半月を描く。振り下ろされる切っ先は土を切り裂き、空を抜けた。しかしながらオイウスは蹴りの踏ん張りのため呼吸が遅れ、アイアスの足を切断する事ができなかった。アイアスはここぞとばかりに空振りしたオイウスの首へ宝剣を振り下ろした。鉄色の剣は光りオイウスの肩鎧を切断し首を切り飛ばした。兜に入ったオイウスの頭部は地面ガラリと転がり落ちた。頭部を失ったオイウスの身体は死神に引きずられるように膝が崩れ、うつ伏せに伏す。首の切株から流れる血液は土を緩め、泥にした。アイアスは息荒く宝剣の血払い空っぽの鞘へ収め、ボロの天幕へ向かった。息を切らせたアイアスが天幕へ着くと、中には未だに食糧は残っており、アイアスは兜を外し細々と菓子を齧る。そして、火起こし機で火をつけ、水を探すが水はどこにも無くやむなく火へ土をかけた。荒れ地に座り込んだアイアスはくつろぎ、のんびりと空を眺めた。

「おーい!」

アイアスは何気なく叫んだ。アイアスの声は空へ溶け、神獣殺しの騎士は横になり眠った。来る竜王との戦いのために。


 滴るオイウスの血液のように真っ赤な血は、天空の船にも散っていた。飛行船の心臓部、大部屋は血で血を洗うパンゲア最後の戦いが始まっていた。戦いはおもむろに兵士達が銃を構えたことから始まった。黒い引き金が引かれ、エルフの戦士達の胸を抉る。素早く反応したエルフは矢を放つも一人の兵士の命と引き換えに死の眠りについた。銃声を聞いたアケルは風のように大部屋へ走る。そのエルフの一団の後ろには21人のドワーフがついて走る。大部屋の扉は閉じられ、その前の部屋には騎士と兵士が銃剣を槍のように構え異種族を待ち受ける。

「結界を守れ!エルフの誇りと勇敢さはパンゲアで最も尊いモノである!」

アケルは王の弓を掲げ突撃を命令した。兵士達は銃口を戸口から出し発砲する。エルフはバタリと倒れるが、その骸を踏み台に達人の矢を放つ。矢は蛇のように空を切り隠れる兵士の喉を次々に貫いた。騎士達は意を決し兵を率いてエルフへ突撃する。弓を捨てたエルフは山刀を抜き放ち迎え撃つ。銃剣はエルフの柔らかな喉を貫き、山刀は頭をかち割る。降り注ぐ矢は兵士の肩を刺し、騎士の目玉を貫き絶命させた。2勢力がぶつかる細く短い通路はちぎれた肉やほとばしる鮮血で満たされた。ドワーフ達は己の持つ戦槌をエルフの背へ振り下ろし骨を砕いた。瞠目したエルフ達はドワーフへ躍りかかる。血にまみれた魔境を騎士達は駆け抜けるとその前に戦士アケルが立ちはだかるが、その時絵描きのドワーフが戦槌を持ってエルフ達を突破してきた。

「此処に立つ資格はおまえには、お前らドワーフには無い。」

アケルは怒鳴るが騎士達から目を離せない。彼の周囲の戦士達も加勢に駆けつけ両者はぶつかる。騎士はアケルの山刀を鎧で弾き銃剣を突き出すがアケルは雑兵を剣に突き刺し避ける。騎士の鎧には山刀は効かず、騎士の攻撃は雑兵に逸らされ拮抗するが事態が動く。絵描きのドワーフがアケルの足首を戦槌でたたき折り、彼に膝を突かせた。対峙していた騎士はその下がった頭を銃で撃ち抜き、ついでにドワーフを銃剣で刺殺した。追い詰められたエルフ達は仲間の生死を問わず矢を放つ。空を駆ける矢は次々にヒトとエルフを貫き殺していく。騎士達も飛来する矢に射貫かれ次々に絶命し膝を突き、エルフ達は歓声を上げた。ヒトも撃ちかえし矢をつがえたエルフが血に踊り人形のように倒れるが、それは両者の戦意を高めただけに過ぎない。


 血液のような朝焼けはエルフ国だけで無くスペンサ王国も包んでいた。獣人の死骸の山に立つ王都には戦車が走り、兵士達は砦にへばりついている。更には演劇場は満席で大型商業施設には親子連れが満面の笑みで買い物へ興じる。豪華絢爛な主の居ない王城は今日も素晴らしい風が回廊を流れ、宰相は王の帰りを待ち忙しく政務に走る。空っぽの魔術塔は最早、知への探求や躍進への欲望は無く、ただ佇むのみである。作られた楽園は泡のようにユニグラムに溶け初める。舗装された道路は盛り上がるように透明になり、地を失った戦車は真っ逆さまに溶け落ちた。要所に設けられた強固な砦は崩れ、兵士が降る。劇場は万雷の拍手のままあかね色に染まった。降る透明な木の葉は王城を覆い、レグルスのように王城はひっそりと立ち消え崩壊の波は東、南、西へと走る。


 アイアスは目を覚ます崩壊は迫っていた。盛り上がる透明な大地に、空を舞う何か。彼は急ぎ爆弾を起動し自身は宝剣を引き抜き雄叫びをあげ、ユニグラムへひた走る。始めてあげた雄叫びにアイアスは少し恥ずかしくなり前を見据える。宝剣は既に力を使い果たし既に光らないが、光を浴びたアイアスは宝剣のように赫いていた。残された僅かなパンゲアを踏みしめて最後の騎士は走り、流れ、そして溶けていった。

 

 永劫の時を刻んだ竜王国も立ち所に森から溢れるユニグラムへ包まれ、竜王の両翼で育まれた大地にはユニグラムの身体があらゆる戦傷を隠すように覆い被さり溶け合う。


 一方ラディウス達は術を完成させつつあった。宝剣は並べられその中にはリングに突きたっていたラディウスの父の宝剣もある。レイアの心臓は拍動を弱めていた。次々に魔術を使い、魔術師達は疲労に顔を青くしていた。その中、ラディウスは落ち着きを払い、

「よし、ウリクセスよお前は心臓を掴め。我々は宝剣で術の制御をする。」

と言うとウリクセスを腐りかけた心臓へ追いやり、宝剣の宝珠へ魔術をかけ始めた。ウリクセスは疲労で頭が回らず心臓へしがみつく。まどろむ彼は肩を叩かれ、寝ていないと言うために慌てて振り返ると誰も居なかった。


 ウリクセスは気がつくと細い道で這いつくばっていた。空は暗く細く、灰と赤茶色の壁が彼を挟む。前方からは王都のような喧噪と地を布が滑るような音が、ひっきりなしに行ったり来たりしていた。血のにおいがしない空気は彼を落ち着かせ、彼は空腹を覚え這う。飛行船の上では徐々に食事が減り、最後に食べたのは鶏の干し肉を少しとチーズだったか。重い身体は思うように動かない。だが、何とか手を繰り出し前へ進む。空腹を満たすため。


お疲れさまでした。

読了、誠にありがとうございます。

皆様の気に入られたシーンはありましたか?もしあれば、とてもうれしいです。

コンセプトは、全ての登場人物が得られた情報から考察し行動するというものです。

彼らは当然ウソを吐きますし間違った推論をします。それは当たり前のことなのです。

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