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最終編 ⑥ 死闘

 アイアスは騎士の鎧を纏い横たわる。見事な鎧は土に塗れ、土の間からは日を浴びた鎧が光を照り返す。馬の尾を飾った兜は地面へこすりつけられ、アイアスは目を閉じ、耳を澄ます。兵士達の軍足、吹き荒ぶ風、己の呼吸それらが耳へ入り込む。軍足は力なく地を踏みしめその数は少ない。アイアス達は空腹に悩まされ、幻術に騙され半数以上の同胞達が腐肉を食べた。彼らは吹きさらしの床へ伏せり隔離され、痩せた身体は火のように熱くなっていた。

 ラーテス達も遂にレグルスの死を悟り絶望と失望が暗澹たる風呂敷として天幕を覆う。そのため、残された魔術師ラーテスは天幕から離れ、幾人かの騎士達と共に魔術塔で皆殺しにされていた魔術師達の荷物を回収し、彼は逃げるように転移魔術の研究に励んでいた。彼の研究風景を呆けて眺める葉の入った籠を抱えた兵士達、そして騎士達は手持ち無沙汰に廃城プラキドゥスを、故郷を見つめるように眺めた。研究風景は同じ事をずっと繰り返すようで、廃城はただ赤茶け荒廃し、これらの風景は彼らの火であぶるように心を焦らせ苛立たせた。実験を続けるラーテスは紙へ記録を取っていたが顔を次第に紙へ近づく。彼の額が紙へ当たる頃には日が落ち、皆はダラダラと灯りを灯し始めた。騎士達は何も言わず魔術実験道具を持ち上げ天幕へ向かう。ラーテスと兵士達も騎士へ続き、怪物の巨大な乾いた葉っぱまみれの地面をパリパリと歩く。彼らが天幕へ戻る頃には他の兵士達も戻ってきており、山ほどある色とりどりの砂糖菓子を背もたれの無いイスへ並べていた。ラーテス達も近場へ腰掛け菓子を頬張る。アイアスは未だ地べたに五体を横たえ静かに呼吸をしていた。皆はアイアスへ石のように感情の無い目を向け、彼の分の菓子を袋へ入れた。すると、アイアスは地面から片腕を上げ、握りこぶしから親指と人差し指を針のように伸ばす。騎士達は大きな足跡へ飛び込み宝剣を引き抜く。兵士達は肩に掛けた小銃を構え地面に耳をつけ、溢れ出す汗が土へ吸い込まれ彼らの頬を汚す。アイアスは腰の宝剣のガードを逆手に握りしめ、探る目つきで中腰になりゆっくり天幕から離れ、ラーテスは彼とすれ違うように慎重に天幕へ入っていった。彼らは灯りを消し、呼吸を忘れ暗夜を睨む。やがて、体調を崩した兵士達が寝転がる隔離地から絶叫が上がる。アイアス達はしゃがみ込み息を殺し、耳を澄ませる。隔離地から生臭い臭いが漂い、悲鳴もささやくような喘鳴に変わり次第に池に沈んだ石のように静かになる。アイアスは効き右腕で宝剣の握りを万力の様な力で掴み飛び出すように構える。

 微かに乾いた音が鳴り、次第に音は大きくなる。怪物を待ち受けた一団は思わぬ攻撃を受けた。隔離地から飛来するエルフの鏃襲いかかったのだ。必殺の矢は次々に生身の兵士を打ち砕き、力を失った肉体は地を転げる。アイアスと騎士達は鎧を固め指と関節を護り耐える。息も絶え絶えな一団へまた1歩見えない巨軀が進むと、天幕の巨大な魔術道具に隠れていたラーテスが飛び出し、彼は足音の主へ魔術を使った。闇が溶けるように消え月下に二足で立つ金毛の獣が聳え立つ。エルフの神獣ヌミキが遂にラーテスの魔術によって姿を現した。金の目を持つヌミキは禍々しい黒角を左側頭部から生やし、針金のような金毛の上からでも隆起した筋肉が伺え、その筋肉は綱のように全身に走りその凄まじい筋力は想像に難くない。生き残った6人の騎士達は駆け出し一斉に抜刀する。ヌミキは回り込まれまいと先頭の騎士へ筋肉の塊から岩石のような拳を叩きつけた。先頭の騎士は宝剣を後方へ放り投げ爆散し、続く騎士が砕ける同胞の肉塊へ光る宝剣を突き出しヌミキの拳を切り裂いた。アイアスはヌミキの背後へ死力を尽くして走る。ヌミキはアイアスから離れるが、もう一方から騎士が斬りかかる。ヌミキはたまらず後ろへ下がり体制を崩す、騎士の剣は空を切る。追いすがる4騎士達の鎧は闇に残光を残しヌミキへ殺到する。ヌミキは転がる端材を騎士達へ投げつけたが、騎士達は光る宝剣で打ち払い一斉に殺意の突きを放つ。その鋭い一撃は立ち上がりかけたヌミキの腹を突き鮮血を飛ばす。ヌミキの瞳が虹色に光りその姿は霞に消えるが、騎士達は血に濡れる体毛を手探りで掴み更に剣を押しこむ。白銀の鎧が深紅に染まり、ヌミキの絶叫が響く。怒れるヌミキは自傷もいとわず腕を唸らせ腹部の4人の騎士達を叩き潰した。追いついたアイアスはその腕へ宝剣を振り下ろす。アイアスの一撃はヌミキの右腕を切り落とし更に腹皮を裂く。ヌミキは腸をこぼし森へ逃げ込みアイアスの剣は輝きを失った。アイアスは叫ぶ。

「ラーテス!追うぞ!」

ラーテスは放り投げられた宝剣を拾いアイアスを追いかけた。


 アイアスは宝剣を取り替えるとラーテスと共に廃城へ続く血痕を追い始めた。走る2人は最早当初の任務など知ったことでは無かった。アイアスは腰に宝剣を下げ騎士として、ラーテスは小銃を担ぎヒトとして、2人はひたすらに仲間のため走る。巨大な足跡が散らばる凄惨な盆地、レグルスの死んだ野営地、エルフの骨に溢れた汚物のような家。どれ1つとして彼らがヌミキを活かす理由は無く、それは怪物にまみれたパンゲアで繰り返されてきた歴史と大差ないことであった。怒りに膨れ上がった2人は遂に廃城プラキドゥスへたどり着いた。アイアスは静かに宝剣を引き抜き正眼に構え崩れた城門を跨ぎ、ラーテスが小銃のレバーを引き後に続く。暗い城内を二人の足音が響く。血痕は上階へ続き、苦痛を堪える机を引きずるような吐息が館をこだまする。ラーテスは血痕へしゃがみ込み魔術を掛けると上階へ続く血痕が消え、同階の大きな廊下へ血痕は続いていた。アイアスは神経をとがらせすり足で廊下へ進み、ラーテスは彼から少し離れ後ろに着く。血痕はさらに続き、2人は遂にエルフ王の謁見の間に辿り着く。ラーテスは扉の前に立ち勢いよく蹴破った。ラーテスの蹴りは扉を跳ね開けアイアスが突撃すると、美しかった間にはエルフの死骸が隅で山積みになり、食い切れない肉は腐り蠅がたかっていた。間の中心には手負いのヌミキが座り込み宝剣で縫い物をするように腹皮を止め、腸を腹に納めていた。

「おぞましい化け物が。」

アイアスはゆっくりヌミキへ近づき、ラーテスは銃でヌミキの目玉を狙う。猛然とヌミキが走る。ラーテスが発砲するが弾は外れ、腐ったエルフの手首を吹き飛ばす。アイアスはヌミキの右腕側に飛び込む。ヌミキは飛び込んできた騎士をつかもうとするが、アイアスは上体を捻り宝剣の切っ先で延びる指の1本を切り落とした。ひるんだヌミキはつかみ損ね更にラーテスの第2射を受ける。飛来する金属の礫はヌミキの鼻へ命中し、鼻腔を吹き飛ばした。アイアスの宝剣は光り血に汚れた間を青く染める。アイアスは全身の力を振り絞りヌミキの背骨を断ち切る一撃を放つ。光は部屋を走りヌミキの脇腹をバッサリと切り、ヌミキはよろめく。縄のような筋肉がアイアスの感覚を狂わせた。光の一撃はヌミキの腸を断ち、再び開かれた腹からは骨や髪の毛がこぼれ落ち悪臭が漂う。ヌミキは膝を突き倒れ行く身体を支えるため、指の欠けた手を地に着いた。手負いの獣は逆転のため金色の目を虹に変えたが、ヌミキの眼前にはラーテスが迫っていた。ラーテスは硬質な銃口を目玉に押し当て引き金を引く。巨大な目玉が見る見るうちに赤く染まり光彩を失う。ヌミキは破れかぶれに腕を振り回しラーテスを跳ね飛ばすと腸をこぼしながら立ちあがる。倒れ伏すラーテスの首はへし折れ明後日を向く。アイアスの持つ宝剣は既に光を失っていた。アイアスは兜の飾りを宝剣で切り落とし血の池へ放ると駆け出す。ヌミキは跳ねる血の音を頼りに拳を叩きつけるが、アイアスは速くちぎれた右腕側へ回りヌミキの腹傷へ宝剣を叩きつける。ヌミキはあまりの痛みにたたらを踏み左足を自分の血に滑らせ片膝を着く。アイアスは突撃した。再び暗黒の間が青く染まる。アイアスは光る宝剣をヌミキの心臓へ突き立てた。青い光がヌミキの口、鼻、腹から溢れ出しヌミキの巨体はアイアスの突撃に押され仰向けに轟沈する。強大な心臓が痙攣して宝剣が揺れ、剣に嵌まる宝珠へヒビが走り砕け散った。辺りは朝焼きに包まれ、死んだヌミキを踏みつけるアイアス宝石のように赤く照らした。

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