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最終編 ② 結界へ 前編

 時はレグルスの不可解な会議のわずか前に遡る。ラディウス達が結界へ足を踏み入れた時にはエルフの王、コルキスの森を統べるアルゴは部下達と共に結界内を散策していた。結界は広大で古代に置かれたと思われる見事な石が建ち並び、それは小さな村のような遺跡群だった。遺跡群の中央には巨大な船が置かれ場違いな竜骨が飾りのように船体へ立てかけられている。歩むラディウスの前へ騎士アラストルが小銃を担ぎ、道を塞ぐと、

「エルフ王アルゴよ、何故僅かな供回りのみで此処を屯する!」

なまりのあるエルフ語でエルフ王へ呼びかけた。アルゴはくたびれた様子で答える。

「ユニグラム、まさかあれのことだったとは。パンゲアよ、我を許せ。」

「何をした。何が起こった。」

尋常ではないエルフ王へアラストルを先頭に、ラディウス達は辺りを警戒しながら歩み寄る。

「不意打ちをして、おまえらの骸を得た所でどうにもならない事だ。我々はユニグラムに一年前、転移の符を使ってしまった。おぞましいことが起きた。一撃で殺せると思った。だが、結果は違った。あれはぶくぶくと膨れ上がり沖を流れていった。この話を知る者は全て此処へ連れてきた、我の罪とともに。そして、竜母の話しによるとあれが正にユニグラムだと言う。」

蠅を払う仕草で発せられたアルゴ王の言は衝撃だった。ラディウス達がスペンサ王国を発つ前にレグルスが立てた作戦、ユニグラムへの止めとして設定されていた。アラストルは同胞達へ振り返り、

「急ぎこの地を調べよ、あの飛行船の事は念入りに。その後魔術一名を本国へ転移する。」

アラストルは叫び、スペンサの騎士、兵士、魔術師は記録紙を持って野を駆けていった。その様子を地蔵のようにアルゴは見送り、祈る。

「北の英雄達も森も全てユニグラムの腹に収まったのであれば。ああ、我が狩人達よ、早まるな。弓を引け、そして矢を鋼の鎧へ降らせるのだ。」

彼が祈っていると、間もなく竜母レイアがドワーフを連れて結界内へ入った。レイアはアルゴの様子を鼻で笑い、忌々しそうにあちこちを走り回るヒト達を目玉をひくつかせて睨んだ。ドワーフ達は訳もわからずアルゴへお辞儀を取り、結界中央に鎮座する船へ進み始めた。

 船には縄梯子がかかり、ラディウス達は真っ先に船へ登った。船は細かい緑色の鱗を貼り付けた物のようで、船底に張り付いた鱗はフジツボのようだった。ラディウスは船の甲板へ立つとその広さと大きさに驚く。船の甲板の中央にはらせん階段がこしらえてあり、彼はゆっくりと階段を降る。下広間になっており、アリの巣の様な通路があちこちに走る。船内は増築の後が絶えず、そのため迷路のように入り組み、部屋は簡素な物であった。ラディウスはこの船の正体と立ち回りに思考を巡らす。ふと真っ黒な通路からほのかな明かりを持ったドワーフがゾロゾロとやって来る。ラディウスは階段へ足を掛けてドワーフへ警戒する。彼らはラディウスを一瞥もせず離れていった。「竜母レイアが来たか。」とラディウスは呟き、アラストルを探しに甲板へ戻った。

 甲板にはアラストルやその他、同胞達が揃っていた。

「隠すことでも無い今ここで情報を整理して事に掛かる。それだけだ。」

開口一番にアラストルが腰の宝剣を撫で、静かに重く言った。ラディウスは片眉をあげて頷くと皆、それぞれ知り得たことを話し始める。

「結界の元はこの船か、それに強力な魔術機動力があればこの船は空をかける術があると。面白い。」

ラディウスはそう言うと腰に手を当て機動方法を手に入れる策を巡らせる。「提案がある」アラストルが一団から離れてクルリと振り返る。

「どれも精強で我々には欠かせない顔ぶれ、王に感謝を。王はこれを狙い竜母に転移符を作らせたのかも知れない。だが、先ずはエルフ、或いはドワーフを焚き付けてみないか?あれは竜だ、簡単には勝てん。ラディウスよ、船の動力には心当たりがあるのだろう?」

アラストルの問にラディウスはただ己の心臓を指差す。アラストルは深く頷き、「承知」と返す。彼らが行動を始めようとするその時、竜母レイアの声が響く。

「私のから皆さんへ結界の維持についてお話しがあります。」

平坦で表情の無い声が結界内を響く。ラディウスは腰に身に着けた、スペンサ王国国内からかき集めた袋いっぱいの転移符をばらまくと、

「急いで貼れ。何よりも急いで。おまえらも手伝え!」

高弟の一人を取り囲み転移符を貼り付け、ラディウスは高弟を直ぐさまレグルスの元へ送り出した。高弟はフワリと消えた。

「竜母め、通訳の必要ない魔術の声それに結界の維持など、お前の心臓があれば起動するというのに。」

ラディウスは冷や汗をたらし、腰の短銃を触る。彼の様子を横目にアラストルが言う、

「ラディウス。いや、賢者ラディウスよ、その予想は当たりだろう。エルフ王の側で声をあげるとは。向かうか?」

ラディウスはしばし沈黙した後、「向かおう」と言い縄梯子を下った。


 竜母レイアは岸壁に背を預け、腕組みをしていた。彼女の周りにはエルフ、ヒト、ドワーフが並ぶ。レイアは最も遅く集まったヒトへ笑みを向け、アラストルの腰の宝剣に驚愕する。

「よし、集まったな。結界内での生活を皆さんへお話する前に言わなければならないことがある。」

無礼な物言いをしたレイアは言葉を切り、腕を解く。そして今までの声とはうって変わる重く鋭い刃の声色で話し始めた。

「竜王国の惨状を知っているか?ユニグラム死体に濡れた腐乱死体の数々を、ドワーフの背にはエルフの矢が刺さり城門は大砲で打ち壊され、ドワーフはのうのうと生きている。」

レイアの声は怒りに震え、目は激しく痙攣するように彼女の周りを見渡す。彼女は小刻みに頭を縦に揺らし、

「おまえ達は何のために生きる。奪い合い、殺し合い、このパンゲアを血で塗らす理由は何だ!おまえ達は」

「此処は貴様らの箱庭ではない!心臓をよこせ!」

竜母の言葉を遮りアラストルが小銃を彼女へ向けヒトの武器が火を吹く。エルフ達も矢をつがえ竜狩りの矢を放つ。レイアは目を鱗で覆われた片腕で守りエルフへ跳びかかる。矢玉はレイアの羽衣を打ち抜いたが頑強な鱗にはじかれ粉々になる。ドワーフ達はスリングをレイアの首筋へ投じ、船へ走る。エルフを襲い始めたレイアを見たラディウスは一目散に船へ走る。アラストルも宝剣を抜き払いラディウスへ続く。

「船に、船の中で殺せ!」

遺跡群を走るラディウスは力一杯にエルフ語で叫んだ。レイアは流暢な言葉を話す口をエルターニンのように鋭い歯が並んだ竜口へ変化させエルフ達の筋肉質な肩を食い千切る。華奢な腕はどんな大男よりも太く、腕に薙がれた胴は皮が破れ断絶した腸がまき散らされる。エルフ王アルゴもレイアの猛攻にたまらず矢を射ながら船へ走る。

船へ逃げるエルフを執拗に追い回すレイアを観察していたアラストルは、宝剣を両手で握りしめ来た道を引き返しレイアへ対峙する。

「埃にまみれた化け物、騎士アラストルが息の根を止めてくれる。」

アラストルは宝剣を正眼に構えた。宝剣に飾られる赤い宝珠が輝く。風がアラストルの剣に切られ両者の間で渦を巻く。アラストルの左足が地を蹴り、宝剣は輝きを放ちレイアのへ向かう。レイアは飛び上がり剣を回避しようとするも、切っ先が彼女の腹皮へ引っかかり、腹部から左膝にかけて大きな裂傷を作る。レイアから鼻をつく匂いと破れた腹から真っ赤な血と黄色い脂肪が、水が溢れた湯槽のようにたれ流れる。アラストルは直ぐさま振り返り宝剣を構え直しレイアへにじり寄る。レイアは宝剣を警戒しアラストルから目を離さず船を見ようとするも、アラストルはレイアへ近寄り彼女はゆっくり後ろへ下がる。レイアはおもむろに手をアラストルへ翳すが何も起きず、アラストルの振り抜いた剣がレイアのかざした手の3指を切り落とした。指を失ったレイアはもう一方の腕でアラストルの胴を薙ぐ。アラストルは迫る腕へ宝剣を立て、レイアの手首を切断したが、手首を失った腕はアラストルの胸を打ち、彼は地面へもんどり打った。騎士の甲冑は胸が陥没し、アラストルは咳き込み血が混じる。アラストルは直ぐに胴の甲冑を外し、レイアへ再び対峙する。

 レイアは愕然としていた。己の鱗が剣ごときに切られ、魔術も効かず、腹から異臭が漂う。立ち向かってきた騎士アラストルが今のヒトなのである。アラストルが咳き込んだ、咄嗟にレイアは突撃する。アラストルの意識は朦朧としており、彼は宝剣を構えることしかできなかったが、レイアは逡巡し、立ち止まるとアラストルを伺う。その様子は宝剣の輝きが消えるまで続いた。宝剣の輝きが消えるやいなレイアはアラストルへ突撃した。アラストルは宝剣を構え、右の利き足方へ跳び突撃するレイアの目を突く。突き出された宝剣はレイアの鱗にはじかれ突撃はアラストルの左半身を引き千切った。息も絶え絶えに脂汗をにじませたレイアは、背後で咳き込みもがくアラストルの頭部を蹴り潰す、騎士アラストルは息絶えた。だが、息を切らせたレイアが辺りを見渡すも遺跡群には誰一人居らず、皆乗船していた。

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