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最終編 ① 終わりの始まり

 ユニグラムの正体を探る魔術塔での会議後、直ちに竜母レイアはスペンサ王国を発立つと、直ぐさまレグルスは自身の執務室に腹心達を呼び寄せていた。

「さて、あのババアは真っ直ぐ竜王国へ向かった。竜王が殺せていなければ、あの二人はとって返すぞ。」

レグルスはそう言うと茶請けの赤い木の実を一粒つまみ、二指で潰した。赤い汁が鮮血のようにレグルスの真っ白な袖口を濡らす。

「先程余の耳に漁獲量の低下や輸送船の遅れが入った。そこで余はこれから3つの結末を同時に考え、今後の方針を伝える。1つは、父の軍が竜王に皆殺しにされた、どこかにユニグラムはいて漁船や輸送船を襲っている。2つは、父は竜王を始末した、こちらも同様にどこかにユニグラムはいて漁船や輸送船を襲っている。3つは父、エルターニンの両方が何かの原因で死んで、ユニグラムは腹一杯に騎士や兵士を平らげた。」

レグルスは一気に実を頬張る。

「陛下、策とは何ですか?」

ヒュプリムで戦を共にしたアルファードが問う。

「アルファードよ、死んでくれ。」

レグルスの頼みにアルファードは「承知」と、竜が息吹を吐くよりも何気なく答えた。その言葉へ感銘を受けたレグルスは話を続ける、

「二年掛けて整備した北へ延びる線路を使い列車でユニグラムを誘導する。その後、結界まで明かり等で使いユニグラムを結界へ押し付ける。そして、大盆地に在るエルフの王城プラキドゥスを奪い、厚い地上攻撃と上空からの【魔力誘導爆弾】で竜王の不意を討つ。竜母を殺す。」

レグルスの言に宰相は考え込み、アルファードはニヤリとする。

レグルスは「結界への水先案内人だ」と言うと机のベルを鳴らす。ドアが開き、堂々と入ってきたのはラディウスの高弟の魔術師だった。

「竜母も耄碌した、魔術で操り結界の場所まで移動させようとは。これで結界への道は解決したな。更には、結界内に竜母の結界を備えた飛行船があるとの報告だ。送り出した者はラディウス率いる魔術師10人と190人の武装した騎士と兵士達だ、技術者など端から送っていない。結界内はエルフとドワーフの血で湖が出来、飛行船は空の彼方へ奪取する。」

満面の笑みでそう言うとレグルスは背もたれへ身体を預け、汚れていない手で顎を摘まむ。宰相の喉が鳴る。

「そういう事だと思いました。しかしながら、陛下、残り1発しか無い爆弾で奴を倒すつもりですか?」

と宰相はレグルスへ問う。レグルスは「無論」と答える。

「あれが当たりさえすれば、拠点に乗り込むような馬鹿な事はしないからな。それでも来るのであれば、欠けた四肢ごと一撃で抹殺して見せよう。勇者諸君、ここが正念場!時を稼げ!ユニグラムをこの世界に置き去りにするぞ!」

立ち上がったレグルスは拳を岩のように硬め、勇敢に答え、更に詳細を会議する。


 スペンサ王国西に位置するエルフ国は何百年にも及ぶ軍事的侵略に遭っていた。国家間を隔てるコルキスの森が長年侵略を押しとどめていた。しかしながら、スペンサ王国軍のコルキスの森における伐採が続き、遂にヒトの切っ先がエルフの喉元へ向けられた。エルフ達はヒトの壊滅を狙い、日夜魔術等にて伝説の儀式魔術を行っていた。

大きな盆地に在る木造の魔術塔から、きらびやかな宝石を身に着けた若いエルフが額から玉汗を流し急ぎ足で出て来る。エルフ達はおどおどと彼へ近づき恐る恐る口を開くが「まて」と若いエルフは彼らを制する。

「我、カウスによる儀式魔術は完了した、守護神獣ヌミキは目を覚まし、神獣の敵つまり我らの仇敵やユニグラムとやらも討ち滅ぼすであろう。」

カウスは堂々と両手を抱えるように広げ言葉を彼等の耳へ響かせた。彼等は感嘆の声を上げサンダルを今朝降った雨によってぬかるんだ土に汚して、神殿へ向かうカウスへ付き従った。神殿への道すがら、先頭を歩くカウスへ追従するエルフの一人が早足にカウスへ近づいた。

「守護長マリス殿、何か用か?」

「副王、竜母レイアの事で今一度確認をさせてください。」

彼らは顔を動かさず工業機械のように話す。

「竜母レイアの元へ王アルゴを送った真意についてです。」

マリスの言葉をカウスはうんざりして返答する。

「マリスよ、竜母レイアは信用ならないが、過去に我々はその結界へ到達したことがある。あの結界は本物だ。どんな強弓であろうと、神獣の一撃出在ろうと突破は不可能だ。王は此度の戦が終結するまで安全な場所にいていただくべきだと、そのように判断した。」

「他には、何かより明確な考えが聡明な貴方にはあるはずです。」

「王には北の同胞達の捜索をお願いしたのだ。王のお言葉であれば耳を傾けるであろう。神獣で攻めながら南下し奴らの伏魔殿を灰燼に帰す。」

カウスの返答に煮え切らない様子でマリスは納得の意を示した。

 神殿の見上げるほど大きな木門は開け放たれ中には巨大な肉食獣の指が見える。カウスは恐れずその獰猛な指へ近づくとその麓を覗く。金色の目玉が暗黒へ浮かび、目玉は戸口からわずかに差し込んだ光を受けギラギラと光る。踵を返したカウスは何倍もの美酒を飲み干したように悠々と神殿から出ると門を閉じさせた。カウスはその場に立ち止まり、エルフ達を見渡した。戦装束を着た者ばかりである。マリスがカウスへ問を投げる。

「副王マリス、知恵のある貴方へお聞きしたい。守護神獣が木偶であったら?我々はどうなります!」

マリスは大股で彼へよるカウスへ顔を強ばらせる。カウスはマリスの胸をどついた。どつかれたマリスは泥の上に尻餅を突くと、彼へよるカウスが手を差し伸べ彼は助け起こされた。

「ありがとうは?」

カウスは目の端に皺を作り笑いかける。「ありがとうございます。」とマリスは答える。カウスの目は憤怒に燃えている。

「お前は、一体何をしていた?ガキのようにケツに泥付け、立派な鎧を着て、狩るのは鹿か?兎か?どうなっている?」

カウスは歯を剥き出しに、顔を赤鬼のように染めまくし立てる。

「おまえ達の鏃には。誇りの歌が掘られている。その鏃には、その掘られた文字には、敵の血が流れ込むのだ!畜生を狩り自尊心を満たしている場合ではない!」

そう言ったカウスはマリスの頬を握り締め、

「その時は、お前の庭にある木で棺桶でもこさえておけ。」

カウスはあっけらかんと答えると下唇の皮を噛み、

「守護神獣は目を開けた。間もなくヌミキの行進が始まる。さあ、戦道を空けよ!馬を引け、戦の時だ、ヌミキへ続け!!この世界に蔓延るサルを、トカゲを、害獣共を狩り殺せ!」

先程の冷徹な声をひっくり返したかのようなダミ声で激しい言葉を烈火の如く発し、武装した従者が引く馬へヒラリと飛び乗ると、エルフ達を引き連れて西にそびえるエルフ王国の王城プラキドゥスへ泥を蹴飛ばし軽やかに駆けた。

 その夜マリスは同士と共に王城プラキドゥス食堂に集っていた。燭台は消え、顔はよく見えないが灯火のように瞳は月明かりに揺れ、人魂のようであった。漂う8対の瞳は殺意に塗れ一点を目指し突撃する。死に神の手が副王カウスの寝室を開き、魔術行使で疲れ切った彼を人魂が取り囲むとその凶刃を振り下ろす。凶刃は暗闇に半月を描き柔らかな喉を切り分けた。カウスは息絶えた。その凶刃を批難するように鳥が一斉に飛び立ち野にすむ鹿や兎も半狂乱に走り回る。大地が揺れる。カウスの火が消えた燭台が床へ落ち、ロウソクが折れる音が鳴る。更に何か大きな物が落下する轟音が鳴り響き、静かになった。何気ない顔でマリス達は部屋を後にした。

 館を出た彼らは聳え立つ獣を見る。城の明かりと月に照らされた巨獣はうなり声もあげず直立している。吐き出される息は湿っているのか、ぶ厚い息は地へ影を落とす。金色の目の瞳が黒からが虹色へ鳥が羽を広げるように変わると、獣は姿を消した。エルフ達は逃げ出した。ゆっくりと轍が沈む。泥が踏み固められ水分がしみ出す。伺うように地面が沈む。そして、舌打ちのような音がエルフ達の耳へ入り込むと一帯の明かりが消え失せた。吠えない神獣ヌミキの静かな狩りが始まった。

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