表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくはハスキー、だけどミニチュア  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/5

2話

朝、キッチンからカリカリという音が聞こえる。

ぼくはすぐに飛び起きて、パパの足元に駆け寄る。

「おはようございます、って言ったら、ステーキでも出てくるのかと思ったらさ。今日もカリカリかよ」

パパは笑って「ユキトはこれが好きでしょ」と言うけど、あれは誤解だ。

「好きじゃない。慣れただけだ。選択肢がないから、仕方なく食ってるだけだって、いつ気づくんだよ」


ママが冷蔵庫を開ける音がすると、ぼくはすかさずそっちへ移動する。

「お、今日はチキンか? それともサーモン? いや、まさかの牛すじ煮込み?」

期待に胸を膨らませて見上げると、ママは言う。

「ユキトには塩分が強すぎるから、これはだめよ」

「……だったら、見せるなよ。目の前で焼くなよ。匂いだけで一日分の希望を使い果たすんだぞ?」


ユウタがパンをかじりながら、ぼくの頭をなでる。

「ユキト、パン食べる?」

「食べるに決まってんだろ。くれよ。今すぐ。今すぐだってば」

でもママがすかさず止めに入る。

「ユキトにはあげちゃだめよ。お腹こわすから」

「おい、ぼくの胃袋の管理者は誰だよ。自己決定権はどこいったんだよ」


仕方なく、ぼくは自分の皿に戻る。

そこには、いつものカリカリが整列している。

「この整然とした並び、逆に怖いわ。軍隊かよ。味も毎日同じ。チキン風味って書いてあるけど、あれ絶対“風”じゃなくて“幻”だろ」

一粒くわえて、口の中で転がす。

「うん、今日も安定の無感動。これを“好きでしょ”って言われるの、地味に傷つくんだよな」


でも、たまに奇跡が起きる。

ママが「今日は特別ね」と言って、鶏むね肉を茹でてくれる日がある。

「これだよ、これ。これが本物のチキンだよ。カリカリの“チキン風味”とは格が違う。これがあるなら、ぼく、なんでもする。お手もおかわりも、伏せも、逆立ちだってやってやる」


ただし、問題は量だ。

「ひとくちだけって、なんだよ。ぼくの体重に対する割合で言えば、あれは人間でいうところの米粒一個だぞ。せめて、せめてもう一切れ…」

おかわりをねだると、ママは首を横に振る。

「太っちゃうから、だめ」

「太るのはパパの夜食のせいだろ。ぼくじゃない。ぼくは被害者だ」


夜、パパが晩酌を始める。

テーブルの上には焼き鳥、チーズ、そして唐揚げ。

「それ、ぼくの祖先が狩ってたやつだよな。なんでぼくが見てるだけなんだよ。せめて、せめて匂いだけでも…」

パパがうっかり落とした唐揚げのかけらに、ぼくは秒速で飛びつく。

「いただきました。これぞ、現代における狩猟本能の発露。ぼくの勝ちだ」


だが、すぐにママの声が飛ぶ。

「ユキト、それはだめ!」

「え、なんで!? 落ちてたんだよ? 落ちたものは犬のものって、法律で決まってるだろ?」

取り上げられた唐揚げを見つめながら、ぼくは静かにうなだれる。


それでも、夜の最後にパパがこっそりくれるササミジャーキーだけは、ぼくの秘密のごちそうだ。

「やっぱり、パパはわかってる。撫で方は下手だけど、味覚の理解度は合格点だな」

ジャーキーをくわえて、ぼくはソファの上に戻る。

今日も、なんとか生き延びた。


ぼくの食生活は、カリカリと幻のチキンの間で揺れている。

それでも、たまに訪れる“ごちそうの奇跡”を信じて、ぼくは今日も皿の前に座るのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ