~二章~ 「操り人形(マリオネット)」前編
──魔王復活より、一夜明け。報告を受けた王は、作戦会議室に残りの賢者達を呼び寄せた。
「──この度の失態、誠に申し訳ございませぬ。一度ならず、二度までも魔王の復活を許してしまうとは、全て我々の責任であります。お叱りはどの様にもお受けしますが、しばし……」
「よい、お主達を責める気は毛頭無い。」
八賢者代表である、大賢者の言葉を遮り王は話を続ける。
……それも、そうだろう。確かに今回の件は魔王の復活を阻止出来なかった、八賢者にあると言える。……しかし、彼らが居なければ復活した魔王とは、戦うことすら出来ないのだから……。王は、八賢者の実力とその実績をよく把握していた。
「今はそれよりも、魔王軍に如何に対応するかが肝心なのだ……大賢者エウンバッハよ。」
「は……。」
エウンバッハの元には、先程早馬から届いた伝令書があった。
……内容は、ミッドガルド王都周辺の街や村からの救援要請だった。勿論ある程度の街には騎士団が駐在し、街の護衛をつとめているのだが。……復活した魔王軍には、到底太刀打ち出来るレベルでは無かった。
「かしこまりました、至急八賢者と騎士団を派遣し対応に移りまする。」
「……しかと、頼む。」
「はっ!」
八賢者は全員立ち上がり、指示された戦場へ向かって行った……。
「魔王の復活とは……面白い事になってきたわい……」
……八賢者の一人がそう、呟いた。
──少し時間が遡り、夜明け前……。
ウェインはまどろみの中に居た、ウェインに流れる魔王の血なのか、それとも昨夜の一件のせいなのかは、わからないのだが……。
ウェインは自分の中に眠る、恐ろしい魔物と戦っていた……。その魔物は魔王と同じ位に、イヤもしかすると魔王よりも遥かに恐ろしい存在なのかも知れない……。
ウェインに襲いかかる、その恐ろしい魔物と共に、ウェインの意識は闇の中へと飲み込まれていった……。
──古城の中で、ハッと目を覚ますウェイン。ウェインの額や顔は、先程の悪夢の性で汗だくだった。汗を拭うと共に昨夜の記憶が一気に蘇ってきた……。
「リュート!!」
辺りを見回してリュートを探す……するとリュートはすぐに見付かる、昨晩斬られたその場所に倒れていた……。
急いで駆け寄り意識があるか確かめる。……意識は無く、剣で貫かれた腹の傷はかなり深い。
ウェインは必死で揺さぶり声をかけた。
「しっかりしろ、リュート!」
……すると、リュートは呻きながらも意識が戻る。
「がはっ……。」
やはり、貫かれた腹部が傷むのだろう、リュートは苦しそうに腹部を押さえていた。
……意識が戻った事に安堵するウェインだが、リュートの状態は厳しい状況である。……急がねば、とリュートの腕を肩に回し立ち上がる。
──この時、初めてウェインは自分が無傷なのを理解した。
昨晩、リュートは大剣で貫かれ、一命は取り留めた物のかなりの重症である。
──しかし自分は……?
覚えていない。覚えていないが……鎧は砕け、服も破けていた。……しかも服に大量の血がこべりついていた。
…………?
思う事は多々あるのだが、今はそれ所では無い。
「リュート、もう少し辛抱しろよ。……死ぬんじゃねぇぞ!」
ウェインは、苦しむリュートを肩に担ぎ歩き出した……。
──小一時間程歩いたのだろうか、ようやく村が見え始めた。
「着いたぞリュート、もう少しの辛抱だ。……しっかりしろよ!」
「………………。」
「どうした?何か言ったか?」
「…………血が……血ガ……。」
「リュート……?」
…………?
「……いや、なんでも無いよ、ウェイン……行こう。」
「?……ああ。」
──村に到着した二人だが、すぐにその異変に気付く。……人の気配がしない……全く無い事に。……もう既に日が登り、暫く立つ。誰か一人でも居てもよさそうなのだが、人っ子一人見当たらない。人が少ない村なのもあるかも知れないが、音すらしないのはおかしい。……それほどまでに、村は静寂に包まれていた。
「…………。」
「リュート、お前はここで待ってろ。……誰か居ないか探してくる。」
リュートを座らせ、一人で探しに行こうとした、その時……。
「……貴様らがやったのか?」
……二人は驚いて振り返った。……気配が全くしなかったからだ、一体いつ来たのか分からなかった。
……振り返ると、そこに初老の男性が一人立っていた。
「コーネリアス様!」
……その者は八賢者の一人、コーネリアスだった。
「コーネリアス様、リュートが……重症なんです、助けて下さい!」
……それを聞いてコーネリアスは、顔をしかめる。
「おかしな事を言いよる、何故儂が貴様らなんぞ、魔族を助けねばならぬのだ?」
「…………!」
ウェインは口ごもった。しかし……。
「僕達は人間です、僕の父は八賢者の一人……。」
……リュートは、そう言いかけて……口をつぐんだ。
……そう、リュートの父は八賢者の一人であり。そして……八賢者を裏切り、魔王を復活させた張本人だ。
「……ああ。」
「……違うんです、聞いて下さいコーネリアス様!」
リュートは、なんとか説明し説得を試みようとしたが……コーネリアスの反応は冷たい物だった。
「ああ……お前、あ奴の小倅か……。」
「捕らえよ……奴らは良い"マリオネット"になる。」
「はい……マスター。」
……何処からともなく、急に少女達があらわれる。……その姿は戦場には全く似つかわしくなく、美しいドレスを纏った、麗しい姿の少女達だった。
……少女達は、恐ろしい速度で二人に襲い掛かって来た。
「がはっ……。」
二人はその速度に全く対応出来ず、一撃の元に倒れ気を失った……。
「魔王の子供に八賢者の子供、これは良い手駒が入ったわい。」
……そう言いながら、帰ろうとするコーネリアスは、何かに気付く。
「来おったか……。」
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
唸る音と共に、辺りは瘴気に覆われた。……そしてその禍々しい瘴気の渦の奥から、巨大な魔物が姿を現した……。
「二十年振りかの……六魔将ネロボーグよ……。」




