第九十一節 御前試合の幕開け
第九十一節 御前試合の幕開け
試合当日。
朝の澄んだ空気の中、宮廷の訓練場にはすでに多くの人々が集まっていた。試合を見守るため、皇帝・慶成帝をはじめとする後宮の妃嬪や女官たち、そして皇后・沈麗華の姿もあった。
蘭雪は静かに息を整えながら、周囲を見渡した。葉貴妃の陣営には、鍛え上げられた采女たちが並んでいる。対する蘭雪の采女たちは、実戦経験が乏しい者も多いが——彼女たちには知略がある。
「試合を始める」
皇帝の声が響くと、場が静まり返った。
(ここからが本番——冷静に、慎重にいけば勝機はある)
蘭雪は静かに采女たちを見つめた。
「皆、落ち着いて。私たちの戦い方を貫きましょう」
采女たちは頷き、それぞれの持ち場へと向かった。
試合は三つの競技で構成される。
第一戦:弓術
第二戦:剣術
第三戦:団体戦
第一戦:弓術
「弓術の試合、始め!」
試合場の中央に標的が並べられ、選ばれた采女たちが弓を構える。蘭雪は霍玲瓏に目を向けた。
霍玲瓏は宮廷生まれであり、幼い頃から礼儀作法とともに弓術を学んでいた。蘭雪の采女たちの中では、最も弓が得意だ。
対する葉貴妃側の代表は、馮蓮。彼女もまた、弓の名手として知られていた。
「……負けるわけにはいかないわね」霍玲瓏が呟き、弓を構えた。
シュッ——
鋭い風を切る音とともに、霍玲瓏の矢は見事に的の中心を射抜いた。
場がどよめく。しかし、馮蓮も負けてはいない。すぐに次の矢を放ち、霍玲瓏の矢と同じ位置に命中させた。
「……互角、ですか」蘭雪が唇をかむ。
試合は白熱し、双方とも一歩も譲らない。しかし、霍玲瓏は最後の矢でわずかに的を外してしまい、第一戦は葉貴妃側の勝利となった。
(まずい……だが、まだ終わりではない)
蘭雪は冷静に次の戦いへと意識を切り替えた。
第二戦:剣術
剣術戦に選ばれたのは、蘭雪と王茜。
対する葉貴妃側は、沈芷蘭ともう一人の采女。沈芷蘭は柔らかい笑みを浮かべながらも、その目には冷徹な光が宿っていた。
「蘭雪様……私、本気でいきますよ?」
「ええ、それでこそ」
蘭雪は剣を構えた。
試合開始の合図とともに、沈芷蘭がすばやく動く。
(速い……!)
蘭雪は反射的に剣を振るい、沈芷蘭の攻撃を受け止めた。しかし、沈芷蘭の動きは流れるように美しく、無駄がない。
「蘭雪様、本当に剣術は得意ではないのですね」沈芷蘭が挑発するように微笑む。
「……剣で負けても、勝負には負けません」
蘭雪は沈芷蘭の攻撃をかわしながら、時間を稼いだ。王茜のほうを見ると、彼女は相手を圧倒している。
王茜が勝利すれば、試合は引き分けとなり、第三戦の団体戦に持ち込める。
——そして、数分後。
王茜の剣が相手の剣を弾き飛ばし、葉貴妃側の采女が地面に崩れ落ちた。
「王茜の勝利!」
審判の声が響き渡る。蘭雪はほっと息をついた。
「……ふふ、やりますね」沈芷蘭は静かに剣を収めた。「これで団体戦ですね」
第三戦:団体戦
試合の最終決戦。
団体戦では、五人対五人で戦う。蘭雪は王茜、李紅梅、霍玲瓏、馮蓮と共に挑むことを決めた。
「絶対に勝つわよ!」王茜が気合を入れる。
「ええ、勝ちましょう」蘭雪も頷いた。
合図とともに、試合が始まる。
——ここからが、本当の勝負だ。




