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第五節 沈貴人の秘密

 第五節 沈貴人の秘密


 夜の帳が下り、後宮は静寂に包まれていた。


 蘭雪は黒衣に身を包み、慎重に沈貴人の宮へと向かう。


(翠微香の効果が出ているはず……今夜が機会)


 夕刻、沈貴人の侍女に渡した香が焚かれていれば、宮の者たちは深い眠りに落ちているはずだ。


 蘭雪は宮の裏手へと回り、低い塀を越えた。


 ——静かだ。


(成功している……)


 慎重に庭を進み、奥の寝殿へと近づく。


 沈貴人の宮は、皇帝の寵姫に相応しい華やかさを持ちながらも、どこか異様な静けさが漂っていた。


(沈貴人の秘密……何が隠されているの?)


 蘭雪は寝殿の扉に手をかけ、そっと開いた。


 ——薄暗い室内に、淡い香が漂っている。


 寝台には、沈貴人が横たわっていた。


 その端正な顔は、静かに眠りについているように見える。


(翠微香が効いている……)


 蘭雪は寝殿を見渡し、慎重に探索を始めた。


 机の上には、玉で飾られた硯や筆が並び、香炉にはまだ香の残りが燻っている。


 その横に、一枚の紙が伏せられていた。


 蘭雪は静かに手を伸ばし、紙を手に取る。


 そこには、筆で書かれた短い文があった。


 ——「玲瓏は、まだ私の手元にはない」


(玲瓏……玉玲瓏?)


 蘭雪は息を呑んだ。


(沈貴人は、玉玲瓏をまだ持っていない?)


 ならば、後宮で囁かれている噂——「沈貴人が皇帝から玉玲瓏を賜った」 という話は、偽りなのか?


(では、なぜそんな噂が広まっているの?)


「……誰?」


 突然、寝台から微かな声がした。


 ——沈貴人が目を覚ました?


 蘭雪は息を殺し、身を潜めた。


(まずい……)


 沈貴人は寝台の上で身を起こし、ぼんやりとした目で周囲を見回している。


「……今、誰かいた?」


 侍女が眠っているため、返事はない。


 沈貴人はしばらく辺りを見回したが、やがて再び寝台へと横たわる。


(危なかった……)


 蘭雪は慎重に寝殿を抜け、庭の影へと身を隠した。


(沈貴人は、まだ玉玲瓏を手にしていない……この事実をどう解釈すべき?)


 噂を流したのは、誰なのか?


 それは、沈貴人自身なのか——それとも、別の誰かの策略なのか?


 蘭雪の胸に、新たな疑問が生まれる。




 

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