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第六十一節 詩会の幕開け

 第六十一節 詩会の幕開け


詩会が開かれる日は、穏やかな晴天だった。


宮中の庭園「芳春苑ほうしゅんえん」には、美しく整えられた花々が咲き誇り、鳥のさえずりが響いていた。


庭の中央には、華やかな装いの妃嬪たちが集まり、それぞれの席に着いている。


そこには、皇后・麗昭媛・嘉儀容といった、後宮の実力者たちの姿もあった。


蘭雪は静かに息を整え、魏尚の言葉を思い返す。


——「陛下のお心が本物かどうか、見極めねばなりません」


この詩会は、ただの雅な催しではない。


慶成帝がどの妃を寵愛し、誰を重んじるのかを示す場なのだ。


そして、それを見極めようとしている者たちがいる。


(皇后様は……どう動くか)


蘭雪がそっと視線を上げると、皇后の姿が目に入った。


彼女は微笑を湛えながら、まるで何も懸念していないかのように見える。


しかし、その目の奥には冷ややかな光が宿っていた。


——「蘭雪、貴女をこのままのさばらせるつもりはないわ」


皇后の心の声が聞こえてくるようだった。


蘭雪は表情を崩さぬまま、席へと歩みを進める。


——戦いの幕は、静かに開けられようとしていた。


やがて、宦官たちが声を張り上げる。


「陛下、御到着でございます!」


場が一瞬にして引き締まり、妃嬪たちは一斉に起立し、深く頭を下げた。


慶成帝が、ゆったりとした足取りで現れる。


彼は鮮やかな金刺繍の衣を纏い、堂々とした姿で玉座へと腰を下ろした。


その傍らには、宦官長・魏尚が控えている。


「皆の者、顔を上げよ」


帝の声が響く。


蘭雪も静かに頭を上げ、皇帝と目を合わせた。


慶成帝の目が、ほんのわずかに微笑む。


(——やはり、私に興味をお持ちなのね)


蘭雪はその視線を受け流しながら、そっと唇を結んだ。


「さて、本日の詩会は、才ある妃嬪たちの詩を楽しむ場である」


帝は扇を広げ、ゆったりと告げる。


「まずは、誰か一人、詩を詠む者はおらぬか?」


その言葉に、妃嬪たちがざわめく。


すると、一人の女性が静かに立ち上がった。


「では、僭越ながら……私から」


——麗昭媛れいしょうえんである。


彼女は名門の出身で、後宮の中でも随一の才女と謳われる妃。


皇后に匹敵するほどの家柄を持ち、貴族層の妃嬪たちの支持を集めている。


その麗昭媛が、ゆったりと微笑みながら詩を詠む。


「春風は、玉楼の花を撫で、紅梅はなお香る……」


優雅な詩が紡がれるたび、妃嬪たちは感嘆の声を漏らした。


詩の巧みさだけでなく、その声音には自信が満ちている。


「さすがは麗昭媛様……」


「やはり、文才は随一ね」


そんな囁きが聞こえる中、麗昭媛は堂々とした姿で帝へと目を向けた。


「陛下、いかがでしょうか?」


慶成帝は軽く頷き、微笑む。


「見事な詩である」


麗昭媛は優雅に一礼し、席へ戻った。


——そして、次が問題だった。


「では、もう一人、詠む者はおらぬか?」


帝がそう告げると、魏尚がわずかに視線を動かした。


その目が向いた先——


蘭雪。


彼は、まるで「次はお前の番だ」と言わんばかりの表情をしていた。


蘭雪は静かに息を吸う。


(……避けることはできないわね)


やがて、彼女はゆっくりと立ち上がった。


「では、私も一首——」


その瞬間、妃嬪たちの視線が彼女に集中する。


——蘭雪が、後宮の才女たちに挑む瞬間だった。

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