間話2
@@@@侍女たちとの料理対決——蘭雪の密かな得意技 @@@@
ある日の午後、蘭雪のもとで働く侍女の**春梅**が、楽しげに声を弾ませながら言った。
「蘭雪様、新しい点心の作り方を試してみたいのですが……台所を少しお借りしてもよろしいでしょうか?」
春梅の言葉に、側にいた侍女の**柳香と杏蘭**も興味を示した。
「それなら、私たちも一緒に作りましょう!」
「お嬢様にもぜひ味見をしていただきたいです!」
蘭雪はくすりと微笑む。
「味見だけではつまらないわね。せっかくなら、私も作ってみようかしら?」
侍女たちは驚いたように目を丸くした。
「蘭雪様が、料理をなさるのですか?」
「ええ、子供のころに少しだけ習ったことがあるの。昔はよく遊び半分で作っていたものよ」
その言葉に、侍女たちは目を輝かせる。
「それなら、料理対決ですね!」
「お嬢様に料理の腕で負けるわけにはいきません!」
こうして、彼女たちは宮中の小さな台所を借り、即席の料理対決が始まった。
蘭雪は、手早く生地を捏ねながら、薬膳を取り入れた特製の点心を作り始める。桂花と蜂蜜を練り込んだ生地に、ほんのりとした棗の甘みを加え、香り豊かな仕上がりを目指した。
「ふふ、これなら体にも良さそうね」
一方、春梅は細かく刻んだ果実を練り込んだ華やかな色合いの点心を、柳香はしっとりとした胡桃入りの焼き菓子を、杏蘭は黒胡麻の風味が効いた蒸し団子を、それぞれの得意料理として披露。
「お嬢様に負けないように、私たちも頑張ります!」
「ふふ、負けず嫌いなのね」
鍋から立ち上る湯気がふわりと室内に広がり、点心の甘い香りが鼻をくすぐる。生地を丸めたり、蒸籠を開けるたびに、彼女たちの笑い声がこぼれた。
そして、ようやく全員の点心が完成。
「さあ、品評会よ!」
蘭雪がそう言うと、侍女たちはわくわくした表情で自分たちの点心を並べる。
まずは春梅の果実入り点心。
「色合いが綺麗ね。味は……甘酸っぱくて爽やかだわ」
次に柳香の胡桃の焼き菓子。
「香ばしくて、食感も楽しい!」
杏蘭の黒胡麻団子は、しっとりとしていて濃厚な味わいだった。
そして、最後に蘭雪の薬膳点心。
「……あら、これは少し甘すぎたかしら?」
蘭雪が小さく首を傾げると、柳香が頬張りながら勢いよく言った。
「それでも美味しいです! この甘さが、疲れたときにはちょうどいいですよ!」
その言葉に、全員が笑い合った。
「これは引き分けね」
蘭雪がそう言うと、侍女たちは「次こそ勝ちます!」と意気込むのだった。
その夜。
蘭雪が部屋に戻ると、小さな包みが卓上に置かれていた。
「……?」
開いてみると、そこには珍しい香りの茶葉がそっと添えられていた。淡く漂うのは、どこか懐かしい花の香り。
「これは……?」
蘭雪はふと、誰が置いたのかを考えた。しかし、心当たりはない。
——いや、一人だけ、あの人なら良いなと思う人物がいる。
静かに廊下を歩き去る影。
それは、昼間の料理対決を密かに見守っていた、蘭雪がまだ名も知らぬ美形の若い宦官——**沈逸**だった。
しかし、彼は何も言わず、ただそっと茶葉を置き、姿を消していた。
蘭雪は月明かりの下で、その茶葉をそっと手に取り、微かに微笑む。
「……ふふ、面白い人ね」
静かな夜に、薬膳点心の甘い余韻が、蘭雪の心にじんわりと広がっていった——。




