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第十八節 葉貴妃の策略

 第十八節 葉貴妃の策略


 蘭雪が沈貴人へ報告を終えてから数日が経った。


 柳琴からの情報はまだ届いていないが、蘭雪は焦らずに待つことにしていた。


 そんなある日、翡翠殿に沈貴人の侍女・香梅が慌ただしく訪れた。


「蘭雪様、大変です! 葉貴妃様が、沈貴人様を宴へ招かれました!」


「宴……?」


 蘭雪は眉をひそめた。


 葉貴妃が開く宴に、沈貴人を招く——それは、ただの親睦を目的としたものではないだろう。


(何か意図がある……警戒しなければ)


「いつの宴なの?」


「今夜です。場所は栖鳳殿」


 栖鳳殿は、葉貴妃が暮らす宮。


 その場所で宴が開かれるということは、沈貴人は葉貴妃の領域へ足を踏み入れることになる。


 何か仕掛けられていたとしても、逃げ場はない——。


 蘭雪は沈貴人がこの宴に出席するべきかどうか、瞬時に考えた。


 しかし、香梅は困ったように続ける。


「……すでに沈貴人様は出席を決められました」


「……!」


 沈貴人が出席を決めたということは、それだけの覚悟があるということ。


(ならば、私はどう動くべきか……)


 蘭雪は静かに息を整え、決断した。


「私も宴に向かうわ」


「えっ……?」


 香梅が驚くが、蘭雪は微笑みながら言った。


「もちろん、正式な招待を受けてはいないけれど……おそらく、沈貴人様には侍女の同行が許されるはずよ」


「私が沈貴人様に付き添えば、何か異変があったときに対応できるかもしれない」


 香梅は少し考えた後、頷いた。


「……わかりました。蘭雪様なら、沈貴人様もお喜びになるはずです」


 こうして、蘭雪は葉貴妃が開く宴へと同行することを決めた——。



 夜——。


 栖鳳殿の庭には無数の灯籠が並べられ、淡い光が水面に映えていた。


 空には満月が輝き、どこか妖しくも美しい雰囲気が漂っている。


 蘭雪は沈貴人の侍女として、その後ろに控えながら殿内へと足を踏み入れた。


 ——そこには、葉貴妃が微笑みながら座していた。


「まあ、沈貴人。よく来てくださいましたわ」


 葉貴妃は金糸の刺繍が施された華麗な衣をまとい、玉簪を揺らしながら優雅に微笑む。


 彼女の隣には、数人の妃嬪たちが控えていた。


(……やはり、ただの宴ではない)


 蘭雪は警戒を強めながら、沈貴人の動きを見守った。


 沈貴人は微笑を浮かべたまま、慎重に礼を取る。


「葉貴妃様のお招き、光栄に存じます」


「ふふ……皆で楽しく過ごしましょう」


 葉貴妃は扇を軽く振り、侍女たちに酒を注がせた。


 しかし、蘭雪の視線は別のものに向いていた。


 ——それは、葉貴妃の後ろに控える侍女・柳琴の姿。


(柳琴……何か伝えたいことがある?)


 柳琴は一瞬だけ蘭雪のほうを見たが、すぐに視線をそらした。


 その仕草は、「気をつけて」と言っているように感じられる。


(何か仕掛けがある……)


 蘭雪は周囲を観察しながら、静かに酒盃を手に取った。


 この夜の宴は、単なる歓談の場ではない。


 葉貴妃が仕掛ける策略とは、一体——?



 ——盃が、静かに満たされる。


 蘭雪は沈貴人の背後に控えながら、視線を慎重に巡らせた。


 葉貴妃はゆったりと扇を動かしながら、侍女たちに命じて妃嬪たちへ酒を振る舞わせている。


「さあ、せっかくの宴ですもの。皆さま、遠慮なさらずに」


 沈貴人の前にも、琥珀色の酒が注がれる。


 しかし——。


(この酒、何かある)


 蘭雪はすぐに察した。


 盃を置いた侍女の手が、わずかに震えていた。


「沈貴人、この宴を楽しんでくださる?」


 葉貴妃が、意味ありげに微笑む。


 沈貴人は優雅に頷いた。


「もちろん、葉貴妃様のおもてなしを断る理由はございませんわ」


 沈貴人は盃を手に取る——が、その瞬間。


「お待ちくださいませ!」


 蘭雪が、すっと前に出た。


 葉貴妃が、細い眉をわずかに上げる。


「何か?」


 蘭雪は沈貴人の盃を持ち上げると、にこりと微笑んだ。


「沈貴人様はお体を大事にされるべきお方……代わりに私が、この盃をいただきます」


「……!」


 沈貴人の瞳がわずかに揺れる。


 妃嬪たちも、ざわめきを見せた。


 葉貴妃は扇を閉じ、冷ややかに笑う。


「まあ……侍女風情が、貴人の酒を飲むというの?」


 蘭雪は一歩も引かない。


「このような光栄な席でございますもの。身分の低い私でも、お酌くらいは許されるかと」


 静寂——。


 葉貴妃の視線が、蘭雪を鋭く射抜いた。


 そして——彼女は微笑みながら言った。


「……ふふ。ならば、飲んでごらんなさいな?」


(やはり、この酒には何かが仕掛けられている)


 蘭雪は盃を持ち上げ、ゆっくりと口元へ運んだ——。



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