第百二十九節 ——慶成帝の沙汰を引き出す
第百二十九節 ——慶成帝の沙汰を引き出す
葉貴妃の微笑みに隠された冷徹な意図を感じつつ、私が膝をついて言葉を続けると、慶成帝は何も言わず、ただ冷徹な瞳で私を見つめていた。その視線には、何も答えを出さず、無言の圧力をかけてくるような重さがあった。静寂が長く続き、私は深く息を吸い込みながら、慎重に言葉を選んだ。
「陛下、先程の葉貴妃とのやり取りで、私が不安に思うのは……貴妃がすべてを把握し、手を打つ前に動けなくなることです。」
慶成帝は一瞬だけ瞳を細め、私の言葉をじっくりと噛みしめるように聞いていた。私はその隙間を逃さず、続ける。
「私が今、求めるのは、陛下のご意向です。後宮内の勢力がどのように動くか、それが最終的に私にどんな影響を及ぼすか、私一人で全てを対処するのは無理があります。」
私がそのように言い切った瞬間、慶成帝は軽く眉を上げて微かに笑った。
「無理があるとは、なかなか謙虚だな。」
その言葉に私は焦らず、微笑みを崩さずに頭を下げた。
「私が言いたいのは、陛下のご支配がどのように働くのか、私もその指針が欲しいということです。」
「指針か。」
慶成帝は、さらに黙って扇を軽く振りながら、考え込む素振りを見せる。数瞬の沈黙の後、彼の低い声が静かに響いた。
「蘭雪、後宮で何が起こっているかを、私は全て知っているつもりだ。」
その一言で、私の心は一瞬固まった。慶成帝があれほどの静観を示しながら、すべてを見守っていたとは……。だが、それでも彼が本当にどのような沙汰を下すつもりなのか、私の中には確信が持てない。
「だが、私が望むのは、ただ結果ではなく、過程だ。」
その言葉に、私は一気に緊張を解き、慎重に言葉を紡ぐ。
「それは、陛下が後宮内でどのように振る舞い、どの勢力をどう動かすつもりであるか、それを私が理解することで、私の行動にも一貫性を持たせることができます。」
慶成帝はしばらく私を見つめた後、軽くため息をつくように言った。
「そなたには、なかなかに鋭い洞察がある。だが、私はそなたに全てを任せるつもりだ。」
その言葉に、私は驚きと共に少し警戒を感じた。しかし、慶成帝は続けて語りだした。
「だが、注意せよ、蘭雪。そなたが思うようにすべてが運ぶわけではない。それを承知の上で進む覚悟があるか。」
その冷徹な目に、私は自分の決意を改めて心に刻んだ。
「承知いたしました、陛下。私には覚悟があります。」
慶成帝は私を見て、さらに静かな言葉を続ける。
「後宮での動きは、そなた次第だ。だが、いかなる手を使おうと、最後に私がどのように振る舞うか、それが全てだ。」
その言葉には、絶対的な支配の意志が込められていた。
私は静かに頭を下げ、改めて彼の決断を受け入れた。
静かな間が流れ、慶成帝はゆっくりと振り返り、私に視線を向けた。その瞳は冷徹でありながら、どこか満足げに見えた。それは私が自分の覚悟を示したことに対する彼なりの評価だったのかもしれない。
慶成帝は一息つきながら、さらに続けた。
「では、そなたにひとつ、役目を与えよう。」
その言葉に、私は心臓が跳ねるのを感じた。地位を与えると言われた時、すぐにその意味を理解した。これは、私に対する試練であり、同時に大きなチャンスでもある。
慶成帝はゆっくりと歩みを進め、私の前に立つと、その目をじっと見据えた。
「そなたには、後宮での管理職を与える。これからは、後宮内での勢力をまとめ、私の命令を円滑に実行する役目を担ってもらう。」
私はその言葉に少し驚きつつも、すぐに頭を下げて答える。
「ありがとうございます、陛下。私はその役目を全うする所存です。」
慶成帝は微笑みもせず、ただ静かにうなずくと、さらに言葉を続けた。
「だが、注意しろ。そなたがその地位を得たとしても、後宮は一筋縄ではいかない。権力を握る者は、多くの敵を作るものだ。それに、今後、貴妃や他の勢力も黙っていないだろう。」
その言葉に、私は改めて後宮という場所がいかに複雑で危険なものであるかを思い知らされる。だが、私にはもう後戻りできない覚悟があった。どんな困難が待ち受けていようとも、私はこの位置を守り抜かなければならない。
「承知しました、陛下。」
慶成帝は目を細め、再び私に軽くうなずくと、その手で扇を振るった。扇の動きに合わせて、後ろに控えていた側近が一歩前に出てきた。
「これから、後宮内での役職が正式に決まる。お前の名を改めて後宮に伝えることとなるだろう。」
側近が差し出した巻物を慶成帝が受け取ると、それを私に向けて差し出した。その巻物には、私に与えられる新たな役職とその任務が記されているはずだ。私はそれを手に取り、慎重に巻物を開いた。
「これが、蘭雪への正式な任命状だ。」
慶成帝の声が低く響き、私はその文を一字一句確認しながら、心の中で決意を新たにした。これが私の新たな道であり、後宮での支配者への第一歩となる。
巻物をしっかりと握りしめ、私は再び慶成帝に頭を下げた。
「陛下、ご信任、誠に感謝申し上げます。私、必ずや後宮を掌握し、陛下の期待に応える所存です。」
その言葉に、慶成帝は微動だにせず、ただ一瞬だけ頷く。彼の目には、すでに次の試練が私を待っていることを感じ取った。
「覚えておけ、蘭雪。後宮で権力を持つ者は、誰一人として手に入れた力を保てるわけではない。その力をどう使い、どう維持するか、それが真の支配者となるための試練だ。」
私は再度、深く頭を下げ、心の中でその言葉を噛みしめた。慶成帝の言葉が示す通り、後宮の支配は決して容易なものではない。だが、私はもう迷うことはない。この役職を与えられた以上、私はそのすべてを背負い、最後まで進み続ける覚悟だ。
「陛下、私は必ずや、その試練を乗り越えます。」
慶成帝は再び私に目を向け、静かに言葉を放った。
「よし、進め。後宮はお前の手のひらの中だ。」
その言葉を受け、私は新たな一歩を踏み出した。後宮の支配者として、今後待ち受ける数々の試練に立ち向かうための戦いが、ここから始まるのだ。




