序章 月が昇る
この世界は、とても変わっている。
例を挙げるならそう、例えば私がこれから通うことになる学園。
私立花爛学園にはアイドルを育成する専門の学科が存在する。それも本格的に、成功すればそのまま時の人となるような。
アイドルという職業も、私にはとても変わったものに見える。
ただの、同じ人間。恋愛できるわけでも、親友になれるわけでもないただの人間に、人々は自分の財を費やす。
そんなアイドルに対して全くの興味もない自分がこの学園へ通う理由も当然変わっている。
泥棒するためだ。
この花爛学園はまずひとつに、高額な学費が掛かる。
いわゆるお嬢様学園な訳だ。そして、この学園を目指す理由も、大抵は手塩にかけて育てた自分の娘を見てほしいという富裕層の思想に染まっている。
我ながら大胆でかつ、良い計画だと思っている。
この学園生活で私は荒稼ぎするつもりだ。
キラキラしたアイドルという夢、膨れ上がった承認欲求、そんなもので目が眩みきった人間から搾取する。
今までそうして生きてきたように、これからもそうやって生きていく。
これが私、夜野紫月の誰にも知られてはいけない、変わった一面。
この時の私は、全く理解していなかった。
アングラな夢物語に目が眩んでいるのは私も同じだった。
そして、この学園には、変わった人間が集まっている。
私以上に変わった人間など、いるはずもないと思っていた。