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47① 屋根の下


サク…………ん



サクヤ……さ……!



サクヤさん……!!




「だ、誰──」



 目を開けると、視界が酷く歪んだ。頭痛がすごい。



(それに、すごく気持ち悪い……)



「しっかりしてください! 時間がないんです!」



 声にもう一度目を閉じ、開けてみる。そうすればほんの少し、視界が綺麗に見えた。目の前には白灰色の髪。黒目、眼帯の──



「忍!?」



 佐久夜は今、なぜか忍の腕の中で倒れていた。先ほど、屋根の上から落ちたはずなのに。生きている。



「俺、一体なんで……」


「いいですか、わけ分からないと思いますがしっかり聞いてください」



 不安なまま頷くと、以外にも忍は落ち着いて話してくれた。



「私はちょうど先ほど、ミヤビさんとサクヤさんを助けにきたんです。そして偶然にも屋根の上からあなたが落ちてきた。位置的にサクヤさんは地面に落ちて血を流しましたが、治療術をかけました」



 つまり、助けてくれたというわけだ。それに心臓の音が一定になっていく。



「あ、ありがとう。忍」


「大丈夫です。でも今はそんなこと気にしてる場合はありません」



 首を傾げると、忍は佐久夜の手を強く握り始めた。少し力が強いのは、忍が男姿になっているからだろう。



「今この屋根上では、ミヤビさんがアヤさんを殺したところなんです」


「え、殺した!?」


「はい。ミヤビさんはついに、復讐として殺人を犯したんです」



 殺人。そう心の中で唱えるだけで、佐久夜は過呼吸になりそうだった。



「じゃあ、今すぐ雅に会って話し合わないと──」


「いいえ。その必要はありません」


「え……?」



 なぜ、そう視線を送れば、なぜか悲しい声で言われた。



「ミヤビさんは……『人狂(ひとぐる)い』になってしまったんです」


「人……狂い? なんだそれは」


「ニンゲンに通常以上。いえ、それよりもっともっと興味を持ち、我を見失い、ニンゲンに一生執着するようになってしまった煉獄の者のことを言います」



 そして忍はもう一言付け加える。



「ニンゲンへの中毒者、と言った方が分かりやすいですね。まぁとにかく、人狂いは煉獄の中で好まれない部類です。……サクヤさん、逃げてください」



逃げるって、一体なぜ。


 忍は佐久夜の顔を見ると、何か気づいてしまったように肩を落とした。



「…………ごめんなさい。少し焦りすぎですよね」


「あっ、いや。そんなことはない。でも……ミヤを置いてはいけないんだ」



 その言葉に忍は少し間を置き、寄り添うように言った。それだけで場が落ち着くのは、不思議だ。



「本当ですか? 私、知ってますよ。サクヤさん、あなたが本当はニンゲン界に帰りたいって思ってること」



 佐久夜は思わず固まった。まさか、バレていたなんて。恐る恐るもう一度目を合わせると、忍は微笑んだ。



「ふふっ見てればわかりますよ。今までミヤビさんが許してくれないと思って、言えなかったんですよね?」


「お、俺は……その……」



 言葉に詰まれば、優しく拒まれた。そのやり方は、どこか「花火」に似ている。



「無理して言わなくていいですよ。ただ私が言いたいことは、一つですから」


「言いたいこと……?」


「…………サクヤさん。自分の好きなよう生きてください」



 よくある感動的な言葉。響くことはこれまで一度もなかったけど、なぜか今は来るものがあった。



「どうしてサクヤさんの人生なのに、ミヤビさんが決めるんですか?」


「え……」


 ふと、佐久夜は少し前。獄城の中庭で雅と話していたことを思い出した。


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