41 少しの進展と新たな情報
「もし……二つ目の方法が逆に『煉獄での日々の記憶を消して、人間界でまた生きる』だったら? サクヤはどうする?」
でも予想通り、彼は二つ目の方法を選ぶんだ。
(前話より)
「まさか、人間界でまた生きれるのか……!?」
目を輝かせる佐久夜に、思わず体が熱くなった。
声も少し、荒げてしまう。
「サクヤ……!! これはあくまで、もしもの話だよ!?」
それでも彼は聞いてはくれなかった。どれだけ嬉しいんだ、佐久夜は。
「分かってる。でももし本当なら、俺は…………俺はもう一度母さんに、花火に会いたい!!」
正面向かって言われると、なんだか怒る気も失せた。それにまだあんな母親にすがっているのかと、呆れるようにため息が出た。
「あのさ……せっかくあの過去から逃げれたのに、戻りたいって。何?」
「あ……」
佐久夜はやっと自分が言っている言葉の意味がわかったようだ。
ただ「会いたい」。それだけじゃ済まないことだってある。
「そ、そうだな。会っても母さんが喜んで俺を受け入れるわけないもんな」
「うん、そうだよ。サクヤが居るべき場所はいつでも煉獄なんだから。ね?」
「うん……ごめんな」
「いいよ。僕の方こそいきなり選択肢突きつけてごめん。……帰ろっか」
佐久夜は大人しく頷いてくれた。
そうだよ。サクヤはただ、僕と一緒にいればいい。
あんな、あんな人間界になんて戻らなくていい。
絶対。絶対に帰らせたりなんかしない。
****
忍たちの部屋に戻れば、もう青藍と閻魔大王の姿はなかった。お互い仕事も用事もあるのだろう。
代わりに、忍が僕たちの話し相手になってくれた。
「で、お二人は一つ目の方法を選ぶつもりなんですね」
さっきの会話について説明すると、案外すっと納得してくれた。
反対してたのに、変なの。
「サクヤさんの人生ですから。私が首を突っ込んでは駄目ですし……」
「そこまで考えてくれてたんだな、忍は。ありがとう」
礼を言った佐久夜の顔は少し青白い。
さっきの言い合いでも気にしてるのかな。
「サクヤ。顔色悪いけど、大丈夫? 横にでもなる?」
「あ、あぁ……大丈夫だ。少し、今後が不安でな」
「大丈夫、絶対未来は平和だよ。約束したでしょ?」
「うん…………」
少し空気が悪くなってしまった。
忍は僕たちをしばらく無言で見つめると、申し訳なさそうに口を開いた。
「あの……実は先ほど、ウメさんの事件について情報が回ってきたんですけど」
「「え!?」」
二人同時に顔を向けると、ビクッと忍は震えた。
「何それ、えっ、ちょっと、もっと早く言ってよ!!」
「そうだぞ忍!」
「ご、ごめんなさい! お二人の今後の未来の話も大事かと思って……」
忍はもごもご口を動かした。でもそんなのいいから、こっちは早く話が聞きたい。
「それとこれは別! ほら、何がわかったの? 犯人? 犯人だよね?」
「えっと……先ほど、遊郭の名店『四季の屋』でアヤらしき人を見たと連絡が入って……」
は……? 姐さんらしき人?
「でも、姐さんは死んでて──」
あ。
気づいた僕に、忍は言葉を付け足す。
「ミヤビさん、もし本当にアヤさんが生きていれば、事件の真相がひっくり返ることになります」
「うん……もし生きていたら、」
姐さんは自作自演でサクヤに刺されるふりをしていた。
そういうことになる。
「雅、」
佐久夜は心配そうに僕の肩に手を添えた。
僕はその手を両手で握り返す。
「大丈夫。サクヤが犯人じゃないことは、確実だから」
「…………うん」
情報が入ったならば、まずは動かないと。
それにもし姐さんが生きているなら、話したいことだってある。
告白の、返事とか。
僕と佐久夜は身支度を整えると、すぐ獄城から姿を消した。
相変わらず、屋根の上を走るのは疲れる。
****
「お、お客様!? そこは関係者以外、立ち入り禁止です!!」
賑やかで眩しい遊郭。
華やかな花魁が揃う「四季の屋」は、相変わらず簡単に侵入できてしまった。
「うるさいなぁ、高い寿命払って入ったんだからさ。姐さんに会わせろっての」
僕たちは一番安くて阿保そうな女を借り、見事綾が居るであろう部屋の近くまでやってきた。
しかし、部屋の戸はこの女に邪魔されて開けられない。
佐久夜も思わず、側から心配の声を漏らしてきた。
「雅、彼女はここに案内してくれただけでも感謝すべき人なんだ。邪魔をしてきてももう少し……優しくしてあげてほしい」
「お連れの方……!!」
まだ若い花魁は、佐久夜の言葉にぽっと顔を染めた。
いやいや、今そんな空気じゃないから。
「でもさ、この部屋の向こうに姐さんがいるんでしょ? なら早く開けないと」
グッとまた戸を引こうとすると、花魁が体ごと使って阻止してきた。いつまで経っても開けさせてくれない。
だから女はめんどくさいんだよ。
「君、なんで戸を開けさせてくれないんだ? 俺たちは、本当に綾さんの知り合いなのに」
諦めかけた僕とは逆に、佐久夜は目線まで合わせて女に話しかけた。それも信じられないくらい優しい声で。
さすが猫被りの常習犯だ。
「わ、私はただ! アヤ様の『何があっても、誰が来てもこの部屋の戸を開けるな』と言われた約束を守っているだけです!!」
女はうるうると目を滲ませた。
全く……
「分かったよ、無理やりはやめる。だからもう安心していいよ」
そう言うと、女は「本当ですか!?」と喜んで戸の前から身を引いた。これだから阿保な女は。
「サクヤ! 今だ!!」
「分かってる……!!」
僕の合図と同時に、佐久夜は思い切り戸に身を叩きつけた。
──バタンッ
戸は勢いよく佐久夜とともに部屋の中に倒れ、女は自分が戸の前から退いてしまったと気づき、わっと逃げていった。
僕は構わず部屋の中に入る。
「姐さん!」
呼ぶと、部屋の隅で何かが動いた。暗くてよく見えないが、綾だろう。
佐久夜も立ち上がり、僕の横に立つ。
「綾さん。事件について、何か知っているんですよね?」
佐久夜の問いに、部屋の隅にうずくまる影は言った。聞き覚えのありすぎる声だ。
「もう、バレちまったんだね……」
影は静かに立ち上がり、こちらに歩み寄ってきた。




