39 一件落着だと思った
「今なら、深いお前の傷を。背中をさすってやれることができる。もう一度、父にチャンスをくれないか?」
「ち、父上……」
忍は震える手で閻魔の手を取った。その瞬間、忍の服は変わり、体も細く華奢な体へと変わった。
本当は、これが忍のありのままの姿だ。
本当は、これが正真正銘愛し合う「家族」だ。佐久夜。
忍が両親と話している間、僕は佐久夜の横顔を見ながら考えた。
……微笑んでる。
でもどこか悲しそう。
羨ましいのかな? サクヤは愛に恵まれてなかったし。
自分も母親に、父親に抱きしめてもらいたかったとか。
そういうことでも考えてるのかな。
「雅」
あ。
いつの間にか、佐久夜はこちらを見ていた。綺麗な焦げ茶色の瞳。
「な、何」
「雅は、梅さんがいなくて寂しくないのか?」
寂しい。もう、どんな気持ちだっけ。
「思ってたらどうすんの」
「ど、どうするって何も……気になっただけだ」
ふーん。
どうせ自分が「寂しい」って思ったから聞いただけでしょ。別にいいけど。
「思ってないよ。もう」
「もう?」
「……前、死んでしばらくは思ってた。でも、寂しさって絶対何かで埋まるもんじゃない?」
佐久夜はしばらく考えると、首を傾げて口角を上げた。
「絶対?」
「うん。大天狗が言ってたんだけど、寂しさは楽しさ。悲しさは嬉しさ。怒りは優しさと共感。不安は休み。でなんとかなるって。つまり、全部楽しければ忘れるだってさ」
つまりの意味がわからない、と口を尖らせれば、佐久夜は笑った。
始めは意味わかんなかったけど、今ならなんとなくわかる。
まぁ、あのお気楽天狗が言ってるし信じ難いんだけどね。
「じゃあ、雅は楽しかったんだな。梅さんが死んだ後も」
まぁ……たしかに。でも
「サクヤが、病んでた僕の部屋に首絞められに来てくれたおかげだよ」
「おい、言い方怖いな」
あれ痛かったんだからな〜、と佐久夜は首をさすった。
ふと、自分も聞いてみたくなる。
「サクヤは? ここに来てから少しは楽しかった?」
きょとんとした顔は、やがて懐かしそうに目を瞑った。
「最初は……死んでパニックだったのにいきなりこんな煉獄連れてこられてびっくりした。それにここでも猫かぶって笑顔振り撒いて」
ははっと乾いた声で笑う。
「自分、何やってんだろ、とは思ってた。でも雅と出かけたり喧嘩して。いろんな出来事があったけど結局は一緒に今こうして話し合える仲にもなったし。ん〜……めっっちゃ楽しい!!」
そう言う佐久夜は幼い子供に似ている。佐久夜も僕も。まだ子供なんだ。
だからこんなところで止まりたくない。立ち止まりたくも、振り返りたくもない。
「サクヤ、最後の質問」
──人間界と煉獄、もし選べるとしたどっちで生きたい?
「…………」
長い沈黙もあったが結局、サクヤはこの質問に答えられなかった。
難しいし。仕方ない。
でも僕はこの質問にはいつか、必ず答えなければならない日が来ると思ってる。なぜかは勘。
それに覚悟がないと煉獄では生きていけないし。ほら。
煉獄には今、凶悪な殺人犯がいるでしょ?
危険なんだよ。




