35 再会
「話でしたら聞きますよ。ニンゲンのことは詳しい方ですので」
僕らは時間の許す限り、青藍の部屋に入らせてもらうことになった。
(前話より)
「なるほど……よく分かりました」
部屋には三人。僕たちの生い立ちを全て聞き終わった青藍は、冷静に質問を返した。
「ところでサクヤさん。あなたは地獄に堕ちたくないんですよね?」
サクヤは黙った。
本人もまだ自分の気持ちを理解できていないようだ。でもただ、ポツリとつぶやいた。
「雅と、一緒にいたい」
そんなことを言われると、思わず動きたくなるような感覚が胸に込み上げてくる。
よかった……サクヤも僕と同じ考えで。
しかし真逆に、青藍は切なそうな顔をするのだった。
「諦めろ、とは言いいません。でもサクヤさん、あなたは死んだんです。必ず地獄に落ちなければなりません」
……そんなの、分かってる。
僕も佐久夜も思わず同じ顔になる。
「何か……方法はないんですか? 俺たちが二人で居られる」
佐久夜の言葉に、部屋が静まり返る。
きっと方法なんてない。交わってはいけない関係を救う方法なんて。
「サクヤ、流石に無理があるかも……」
「あ、あぁ。そうだよな、ごめん」
──んんっ
青藍の咳払いが聞こえた。僕たちの視線は彼女へと向けられる。
「ありますよ、二つ」
****
人間を楽しめ、世話をする煉獄。
思う存分極楽に浸り、さまざまな道へ進む人間。
両方は正反対であり、決して交わらない。だけど今、それが変わる予感がした。
「方法がある……?」
目を丸くする佐久夜。しかし、その続きを聞けるのはまだ先になりそうだった。
もう。時間が来たから。
「では話はここで。そろそろ見せたいものがある部屋に連れて行ってください」
「ほ、方法は教えてくれないんですか!?」
「……部屋に連れて行ってください」
立ち上がった青藍を追いかけるように佐久夜も立ち上がる。僕も本当なら立ち止めるべきだけど、青藍が教えてくれる気配は全くない。
まだ、僕たちが知るべきではない……?
「サクヤ、青藍様に失礼だよ」
「で、でもこのままじゃ」
「いいから。また後で聞こう?」
渋々だが、頷かれる。
早く自由になりたいのは僕も同じだ。だけど、もう少し待ってもいいかもしれない。
まずは目の前のことを成し遂げるべきだ。
「青藍様、こっちです」
「えぇ、ありがとう」
閻魔大王と青藍様を会わせたら、今度こそ必ず自由になってみせる。絶対未来は明るいはずだから。
見てて、梅さん。
青藍を約束の部屋へ案内すると、ちょうど扉の中から声がした。
「入れ」
閻魔大王の声に、扉は勢いよく開かれる。僕と佐久夜は、そっと青藍を部屋に入らせた。
「なっ」
青藍は閻魔大王に気付き声を上げたが、もう遅い。
「青藍……!?」
「閻魔、様」
****
【青藍目線】
──どうすればいい。
たとえ何年会っていなくとも、お互い思うことはいつでも一緒だった。
閻魔は驚いたように口を震わせる。
「お、お前。なぜここにいるんだ」
雅と佐久夜の罪人が来るはずなのに。
低い声で睨まれる。きっと自分は今、みっともない。
私は内心、ひどく震えていた。
「私はただ、シノブに従っただけです。今、部屋を出ますから」
シノブたちは一体何を企んでいるの……?
早く、この空気から逃げ出したい。
扉に手をかけると、バチっと電気のようなものが走った。
「……っ!?」
「チッ……外にいる奴が術をかけやがったな」
閻魔大王はズカズカと扉の側に近づく。
鼓動がうるさい。閻魔様に嫌われているなど、自分が一番よく分かっているのに。
まだ妙にときめく余裕があるなんて。
「どけ、俺が開ける」
しかし、扉はただ電気を走らせるだけだった。
気まずい時間が流れる。今思えば、お互い百年は会っていなかった。
「申し訳ありません、私なんかが閻魔様に迷惑をかけてしまって……」
不安と抑え込む喜びを噛み締めながら、深く腰を折る。しかし、それに閻魔大王は眉を傾けた。何かに納得していない様子で。
「閻魔様? もう、閻とは呼ばないのか?」
「え……」
閻。そう呼んでいたのは、一体何百年前だっただろうか。




