表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/51

34 作戦前の懐かしみ


条件『閻魔大王(父上)と母上を会わせて欲しい』



 昨夜三人で考えた作戦はこうだ。


 一、小鬼に変装した忍が、閻魔大王に近づく

 二、忍は、僕と佐久夜を捕らえたと嘘をつく

 三、でもいざ目の前に連れてきた者は、なぜか忍の母親

 四、閻魔大王はきっと突然の出来事に怒るだろうから、その時母親本人に愛を語ってもらう



「愛を語る、とはなんですか?」



 最後の説明に、忍は不思議そうに首を傾げる。

 佐久夜はよく眠れたのか、笑顔で答えた。



「閻魔大王に告白してもらうんだ。そうすれば閻魔大王もたじろぐはずだろ?」


「ですが、本当に父上は反応するでしょうか……」



 そんな言葉に、僕は思わず口を挟む。



「でもそもそもさ。条件はただ二人を会わせるだけでしょ? 縁を戻すんじゃないからね」



 あくまで会わせるだけ、と念じておく。かなりきつい言い方だけど、それぐらいしないとこっちが危ない目に遭う。



「じゃあ、瞬間移動頼むぞ」


「はい」



忍が頷くと、ふわりと心臓の浮かぶ感覚がした。






****






 次瞬きをすれば、目の前はもう獄城の廊下へと変わっていた。相変わらず空気が重い。


 忍はこちらに体を向ける。



「作戦実行の前に、まずは母上に会ってもらってもいいですか?」


「そうだな、まずは顔を合わせておかないとな」



 佐久夜の声に僕も頷く。

 どこの部屋に行けばいいの、と口を開こうとした時。



「シノブ……? この方達は一体……」



 後ろから女の声がした。振り返ると、忍は嬉しそうに女のそばに駆け寄った。



「母上! いいところに来ました」


「は、母上……??」



 佐久夜はぽかんと口を開ける。


 確実に何百歳を超えているはずの忍の母親は、まるで人間界でいう20代のような見た目をしているのだ。

 忍は、母親に「自己紹介」と小さくささやく。



「私、青藍(せいらん)と申します。閻魔大王様の正室(せいしつ)……いえ。ただの妻です」



ただの妻、ね。


 相当嫌われているのか、閻魔大王の「正室」(本妻)と名乗るのに自信がないようだ。

 青藍は、忍と同じ少し灰色のかかった白髪を片手でいじる。



「シノブが同い年の子を連れてくるなんて……何かあったの?」



 それに子の忍は優しく答える。



「母上に()()()()()()があって。合図をしたらこの二人について行って、ある部屋に入ってくれませんか?」


「見せたいもの……? 今では駄目なの?」



 忍の言葉が詰まったので、僕は助け舟を出した。見せたいモノが、まだ閻魔大王とは言ってはいけない。



「準備が整ってから見せたいんです」


「そ、そう……」



 青藍は不思議そうに首を傾げた。それはどこか忍と重なって見える。

 血のつながった親子。僕はそんな言葉に胸がむず痒くなるのを感じた。



「……羨ましい」



 声は出なかったが、震えた息が漏れた。


 梅さんと僕の関係。それは本当に親子だっただろうか。



「雅?」


「え、あ……」



 いつの間にか、目の前には佐久夜の顔があった。顔はかなり呆れているが、目は心配の色をしている



「あのなぁ。今くらいは集中してくれ。俺たちの未来がかかっているんだからな」


「ご、ごめん。ちょっと考え事してて」



 むすっと睨まれる。



「ナーバスだけにはなるなよ」



なーばす?

人間の言葉かな。


 すると僕の表情を読んだのか、佐久夜は言い直してくれた。



「つまり、落ち込むなってことだ! ほら。もう忍が小鬼に変装したぞ」


「え、早くない?」



 視線をずらすと、見たこともない赤い小鬼が立っていた。


いや誰だよ。あっ、シノブか。


 赤鬼に変装した忍は、少し恥ずかしそうに口を開いた。



「えっ……と。それでは、行ってきます」


「何か困ったら逃げてくるんだぞ。叫んでもいいからな」



 佐久夜のいつもの心配に、忍は笑った。



「ふふっ、サクヤさんは時々母性が出るんですね。親みたい」



 安心したような微笑み方。それにどこか見覚えがあったのは、佐久夜も感じたはずだ。



「は……」



 一瞬で佐久夜の顔がこわばる。



『佐久夜くんって時々、母性出るよね。親みたい』



 花火だ。花火が山で言った言葉。


 小さな表情の変化に、忍は気づくはずもなく続ける。



「ではお二人は数分後、部屋に母上を案内してください」


「うん」



 僕は佐久夜の代わりに頷く。


 忍の背中が見えなくなると、佐久夜は崩れるようにしゃがみ込んだ。側には事情も知らない青藍もいたけど。



「はは……もう、会えないんだったな」



 疲れたような表情に、僕は何も言えない。かけていい言葉が、分からなかった。


 僕たちはお互い、もう会えない人を思い出していた。きっと今の僕も、佐久夜と似たような表情をしているはず。



「あの……お二人は、何か事情があるのですか?」



 青藍は困ったような表情をした。僕は慌てて首を振ろうとしたが、なーばすな佐久夜は言ってしまった。



「俺、死んだ人間なんです。それも地獄に落ちる」



あ……


 僕とは真逆に、青藍は表情ひとつ変えない。そしてただ一言声をかけた。

 それは今、佐久夜が欲しがっているであろう言葉で。



「話でしたら聞きますよ。ニンゲンのことは詳しい方ですので」



 僕らは時間の許す限り、青藍の部屋に入らせてもらうことになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ