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24 仮面にヒビが入るとき


 次の日も特に変わったことはなく、また忙しい日々が三日も続いた。


 その間も僕は必死にこの世界を考え、気づいた。この世界は、きっと「()()()()()()()()()」だと。


きっとあの液体は、人間の過去に入れる道具か何かだったんだ。


 そしてこのままいけば、僕は佐久夜の死因も見ることになるはずだと、分かった。




 休んでいた佐久夜の学校は、今日で三日振りになる。バイト漬けだった日々もこれで一旦終わりだ。


 また佐久夜はどうやら友達がたくさんいたようで、教室に入った途端、一気に生徒が話しかけてきた。

 それに隣に立つ佐久夜は困ったように眉を片方傾ける。



へぇ〜。

サクヤって本当に周りから好かれてたんだ。



 母親の前で話していた時とはまるで別人のように、笑顔で元気な声で話す佐久夜。特に僕の知ってる彼と、変わりはない。



「心配するな! この三日間はただ自分探しに行ってただけだ。そう、美しい自分をな!」



 そんな佐久夜に、周りは面白そうに笑いだした。彼はいつまでも周りに笑い続け、楽しそうに自慢話を話する。



まーた始まったよ……



 僕もそろそろ呆れ、初めて見る教室の中でも探索しようと足を動かした。

 しかしその時。ふと佐久夜の心の声が聞こえてきた。



(もっと……もっと笑わせないと)



 僕は思わず大きく目を見開く。



え……なに……?



 僕の声に答えるように、今度はもっと大きく声が返ってくる。



(俺は美しい。一番。最高。頭がいい。すべて完璧。自分は、自分は阿保なナルシストなんだ……!)



 その瞬間、なんと佐久夜は床に倒れてしまった。僕はあまりにも予想外する展開に、何もできなかった。





****





『佐久夜の記憶(目線)』


 目が覚めると、自分は保健室のベットで寝ていることが分かった。隣には、一人の女子が座っている。



「あ、佐久夜くん! よかった、起きたんだね。体調はどう?」



 少女は、心配そうに自分の顔を覗き込んできた。この顔、見覚えがある。



「あぁ、花火(はなび)。心配させて悪かった。俺はもう平気だ」



 花火。サラッとしたショートの髪に、茶色の瞳。彼女は、去年田舎の方からやってきた転入生だ。


 そう理解した途端、自分は思わずふいっと彼女から顔を背けた。きっと今、自分の耳は赤くなっているだろうから。



「平気って……本当に言ってるの? 顔、すごく赤くなってるけど」


「お、起きたてだからな。体温が高いんだ」



 そう言っても、彼女は心配し続ける。



「もう……佐久夜くんはいつもそうやって隠しごとする!」


「か、隠しごと?」


「うん、そう。みんなは気づいてないかもしれないけど、私には分かるんだから」



 花火は誇らしそうに口角を上げる。俺はそんなふうに笑う、彼女の笑顔が好きだ。



「……さっき、みんなにすごく笑われてたけど、傷ついたりしないの?」


「いや、するわけないだろ。みんな俺に嫉妬してるだけだ」



そう、完璧な自分に。



「でも噂で聞いたの。佐久夜くん、よくトイレで吐いてるって」


「あ……いや、そんな記憶はないな。噂なんて信じるものじゃ──」


「それだけじゃないよ」



 花火は、強く勢いのある声で自分の言葉を遮った。真っ直ぐに向けられた瞳は、なんて優しさの色で溢れているんだろうか。

 それに比べて。



「学校、もう来れないの?」



思わずどきっとした。もう、そんな噂まで流れていたなんて。完璧に隠していたはずだったのに。



「まぁ、少しした家庭の事情だ。……ほら、もうこの話は終わりに」


「昨日、深夜にコンビニでバイトしてたよね。お母さんが見かけたって」



……たしかに昨日もバイトがあった。しかしそれがコンビニ店員だったかなんて、もうとっくに記憶の彼方だった。


 それに花火は止まることなく話し続ける。



「無理しないでよ? 何かあるなら私、力になりたいし」


「……」



 昔、かなり仲の良かった友人にもそんなことを言われた。しかし真実を知れば、友人は簡単に俺から離れ、いつの間にか避けられるようになった。


 それに。無理をしないと生きていけないことだってある。それも分からないまま、俺の力になれるなど、簡単に思って欲しくない。いや……思うな。


 どうせみんな、()()を見れば怖がって助けようともしなくなるのに。



「じゃあ……これを見て欲しい」



 そう言い、自分は上半身の制服を全て脱いだ。



花火なら……きっと周りにも言わないよな。



 始めは目を丸くしていた彼女の表情は、徐々に青ざめていく。その理由は、この自分の体にあった。



「どっどういう……こと……なの?」



 震える声の先には、痣や切り傷がつき、赤く腫れている自分の体があった。いつ見ても痛々しい。自分でもよくそう思う。



「これで俺の家族のことがよく分かっただろ? ごめんな」


「ぁ…………」



 優しく笑うと、流石の彼女も口を閉ざした。「()()」の痕を見れば、誰だってこんな反応になる。


 自分はいつだって、普通ではない不幸な人間なのだから。仕方なかった。





****





 玄関に足を踏み入れると、ふとリビングが明るいのに気がついた。

 今の時刻は深夜二時。いつもなら母さんも部屋で寝ていて、電気をつけることはできない。



まさか。



 ハッと足元に視線を落とした。そこには、高級そうな靴が脱ぎ捨てられてある。



──ドク、ドクドクドクッ



 一気に自分の心臓が音を立て始めたのが分かる。そして俺は急いでリビングに走り込んだ。すると、するはずもないタバコの匂いが鼻を刺激した。



「と、父さん……なんで……」



 リビングには、高いスーツを着た男がタバコを吸って立っていた。目が合うと、勝手に体がビリッと痺れた気がする。


 父は苦笑しながら言った。



「えーと……名前なんだっけ?」



あぁ……酷い。

息子の名前も忘れるこいつが、俺の父親なんて。




「小野 佐久夜」

中学三年の冬。彼はこの世を去ることになる。


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