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23 佐久夜の過去


 目を開けると、僕は見たこともない部屋に立っていた。


ここは……? サクヤは……?


 足元から顔を上げると、そこには()()()()()()()()と、眼鏡をかけた年寄りが向き合い、話し合っていた。


『サクヤ!!』


 慌てて駆け寄ったが、佐久夜はなんの反応も見せず、無視をされた。


嘘……聞こえてない?


 僕は戸惑いながらも、佐久夜の肩を揺さぶろうと手を伸ばした。しかし、触れることはできなかった。


透けてる……?


 自分の体がまるで幽霊のように、透けていたのだ。


「嘘でしょ……」


 混乱する僕を差し置いて、佐久夜は淡々と話し始める。


「でも先生。成績だって一位を取りましたし、生徒会も学級員も頑張ってるんです」


 生徒会や学級委員、というやけに聞いたことない言葉が引っかかった。


人間界の話かな……なら、もしかしてここって人間界!?


 さっきの佐久夜の言葉に、年寄りはため息をつく。


「でもねぇ、授業料が払えていないことは事実なんだよ……もちろん君の家庭のことは知ってる。だから一度ここに電話して相談しなさい」


 佐久夜が先生と呼んでいた年寄りは、そっと紙を渡した。そこには電話番号が書いてある。そして一番上に


「児童相談所」


 そう書いてあった。

 それに気づけば、僕と佐久夜はいつの間にか家の玄関に立っていた。なんとなく雰囲気から、ここは佐久夜の家だと分かる。


瞬間移動……!?

いや。ただ場面が進んだだけ……?


 どうやら時間や場面は急に移動するらしい。この世界は何か僕に見せようと、知らせようとしてる。そんな気がした。


 しかし佐久夜は自分の部屋に学校の荷物を置くと、すぐにまた家から出ていってしまった。外に出れば早足で歩かれ、彼に自分は本当に見えていないと、少し心が痛んだ。


 それにここでは術も使えなく、ただただ佐久夜の行動を見守るしかできない。しかし、変化もあった。


 少し道を歩き続けると、なんと佐久夜の心の声も聞こえてきたのだ。それも脳内から直接。

 いつもより少し低く、落ち着いた声だった。


(五時から九時まで塾で講師。九時から二時までコンビニバイト……今日は寝れそうにないな)


ばいと……仕事のことだよね?

サクヤって何歳だっけ。これがニンゲンの生活なのかな……


 人間界をよく知らないことに、とても後悔した。



 時間は流れ、真夜中二時過ぎ。やっとのことで僕たちは家に帰ってくることができた。ニンゲンの生活は、こんなにも大変なのか。


 それに佐久夜の体力や僕の精神も、もう限界だった。しかし佐久夜はまだやることがあるのか、自分の部屋にはいかず、別の部屋に入った。


あ〜……! これ以上寝ないなんて勘弁してよ……!!


 あくびをしつつ、佐久夜について行く。入った部屋には小さい机やクローゼット以外ほとんど何もなく、ただ一人の女が寝ていた。



誰……?



 しかし近づいていくにつれ、その女の顔は青白く、体調が優れていないことがよく分かった。

 そんな女に、佐久夜は優しい声で話しかける。


「母さん、ただいま」


 返事はない。


死んでる……?


 一瞬疑ったが、女。こと佐久夜の母親の胸は、微かに上下に動いていた。佐久夜はそっと彼女の側に座り込む。


「今日、先生に言われたんだ。授業料が足りないから学校には来ないでくれって。でも大丈夫だ。これからもしっかり自分で勉強するから」


 かすかに震えた声の佐久夜は、拳を強く握っている。そして寝ていると思った母親も、ほんの少し目を開いた。かすれ声が部屋に広がる。


「絶対……絶対佐久夜は良い子のままでいて。佐久夜が良い子でいれば、きっとお父さんも私のことを見直してくれるはずだから……」

「うん、そうだな。約束は守る」


約束……?

それになんか……


 まだ確信はできないが、佐久夜の母親。どうやら気がおかしい。精神の病気か何かか。


「じゃあ、おやすみ。母さん」


 詳しいことは何もわからないまま、謎の時間が終わった。

 今見せられているモノはなんなのか。沈んだ佐久夜はどこにいったのか。



きっと全ては、あの穴の中にあった青黒い液体が原因だ。




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