17 獄城に張られた蜘蛛の糸
獄城。
閻魔大王の城。侵入者(人間の場合)は、地獄へ落とされる。
真っ黒な城に、赤い炎がちらつく。城はとてつもなく大きく、高い。きっと見張の数も多いはずだ。
何階にサクヤがいるのか知らないけど、とりあえず真ん中の窓から入るか……見張りがいませんように!
僕は城の黒い屋根に飛び乗り、壁に背をつけて慎重に窓へ飛び込んだ。運よく、窓は鍵がかかっていなかった。
「よっ」
中の部屋は想像より狭く、左右と前に、蜘蛛柄の襖があった。
「どれを開ければいいんだ……」
とりあえず左!
そっと襖を開け、中を覗いた。しかし隣の部屋は、どうやら今いる部屋と同じになっているらしい。
いくつも同じ部屋がある……使われてないのかな?
でもそれにしては綺麗すぎる。
不思議な気持ちのまま、最後の、前の襖を開いた。
「わぁあ…………」
襖の先には廊下があり、廊下の先、つまり城の中心は、なんと吹き抜けになっていた。それも、めまいするほどの大きな吹き抜け。
思わず廊下に出て、手すりから下を覗いた。上にも下にも続く何層もの階。そしてその階一つ一つにいくつか部屋がある。
しかし下は先が見えないほど薄暗く、まるで大きな化け物でも出て来そうだった。それに、落ちればひとたまりもないだろう。
でもどうしよう。
これじゃあ階段もないし、ここの階からはどこにも移動できない。詰んだ。
「さ、サクヤ〜……」
見張りにバレないよう、小声で呼んでみる。
もちろん返事はな……
「雅!? そこにいるのか?」
「え、サクヤ!? どこにいるの!?」
少し小さめだが、しっかりと聞こえた。しかし辺りを見渡しても、誰ひとりの影も気配も見当たらない。
だが佐久夜もここの複雑な城の仕組みを理解しているようで、慌てず僕に言った。
「多分声からして、お前の下だ。真下の階の部屋だ」
「わ、分かった。でもどうやって降りたらいい?」
「廊下から飛び降りろ。遠くからは見えないが、下には蜘蛛の糸が張ってある」
蜘蛛の糸……?
「もし飛び降りても、ちぎれたりしないよね?」
「さあな」
はぁ……最悪。お願いだから、ちぎれないでよ。
死ぬ覚悟で、廊下の手すりから下の暗闇へ身を投げた。ふわっとおかしな感覚がする。
目を開けると、自分はしっかり蜘蛛の糸の上に着地していた。糸が見えにくいためか、まるで自分が空中に浮いているように見える。
ギギッと音を立てながら、向かいの部屋へと手すりを飛び越えた。下の階も、さっきいた上の階と変わらない。
「サクヤ!!」
勢いよく襖を開けると、手足が蜘蛛の糸で縛られているサクヤの姿がそこにあった。急いで駆け寄り、糸を切っていく。
「……雅、あの」
「話は帰ってから。今はとにかく逃げるよ」
佐久夜が頷くと同時に、糸も切れた。手を引き、もう一度廊下へ出る。部屋の窓は、ご丁寧に蜘蛛の糸で頑丈に封じられていた。
「上に上がるときは、蜘蛛の糸からジャンプすればいけるかな?」
「あぁ、多分な」
「じゃあ、一回手すりから飛び乗るよ」
しかし、もうそこに蜘蛛の糸は張っていなかった。
「あれ……なくなってる」
呟くと、佐久夜は顔を強張らせた。
「どうやら……気づかれたようだな」
「誰に? 見張りに?」
「見張りかはわからないが、俺を捕らえた奴だ。蜘蛛の糸を操る」
操るってことは……めっちゃ強い奴じゃん。ついてないな。
「今のところ気配はないけどね」
「油断はするな。俺はそのせいで捕まったんだからな」
僕たちは慎重に辺りを見渡しつつ、吹き抜けを囲む四角形の廊下を歩いた。一周でも、少し時間はかかる。
気づかれたってことは、今も相手は僕たちを見てるってことか……煽れば出てくるかな?
「おい。お前今、変なこと考えただろ」
「あ、バレた?」
「なんとなく顔で分かる」
ふーん。顔で分かる……ね。
「じゃあ、今から僕がすることもわかるってことだね」
「まぁな……って、は?」
「いくよ」
「えっ、ちょっ!! みや──」
佐久夜を肩に乗せ、勢いよく地面を蹴る。
『瞬風縁・大』
呟きと同時に、勢いよく竜巻が宙に浮かんだ。渦を倒した時より、何倍も大きい。
そして周りのいろんな糸は、どんどん竜巻に吸い込まれていく。つまり、糸を操る敵も。
僕は宙に浮ながら、敵が来ないか様子を伺った。
「ちょっと、おい! 雅! 落ちる! 落ちるって!!」
「うるさいなぁ。僕がちゃんと持ってるし、文句言わないでよ」
しかしそれでも肩の上、担がれた佐久夜は泣きそうな声で言った。
「みっ雅? みやっ……雅!!」
「何!? もう、うるさ」
しかし次の瞬間、後ろから鋭い糸が伸びてきた。
「い……な……」
その一瞬で、プツッと自分の頬が切れる音がした。鋭い痛みから、顔に赤い線が出来上がる。
「誰だ!」
ハッとして振り返ると、向かいの廊下に一人、影が立っていた。
「あっ、惜しい。もう少しで頭を突き抜けそうだったんですけど……」
灰色のウルフカットの髪に、真っ黒の瞳。左目には真っ白な眼帯がつけてあった。
「うわっ……強そうじゃん……」
自分の呟きに、相手は眉をピクリと動かす。
「お初にお目にかかります。私、忍と言います。どうぞ、蜘蛛の糸の切れ味をお楽しみください」
雅:人間嫌いな少年(主人公)
佐久夜:雅が初めて世話する人間
忍:?
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