表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/51

12 黒いのは渦と桜


 煉獄の街は今日も眩しい。

 何万何千万。下手したら何億もの灯りがあたり一面に広がっている。


 そして今僕が走っているのは、一列に並んぶ店たちの屋根上。

 市場だからか、道にはかなり多くの人が歩いている。これは佐久夜を見つけるのも簡単じゃない。


しかも黒いウズ()に襲われてるって……なんかの妖怪かな。

だとしたら普通に祓うのも簡単じゃない。


「よし、」


 数分間走り続けて、やっと騒がしい声が聞こえてきた。食器や商品が割れる音。人の叫び声や、逃げる足音。


「……この辺かな」


 一旦足を止め、道に目を向けてみる。


あ、いた。


 そこには、誰か知らない男に手を引かれ走っている佐久夜の姿が見えた。そして二人の後ろからは、黒く不気味な(うず)が追いかけてきている。


かなりでかいな……まあ、いけるか。


 僕は二人の足の速さに合わせながら、屋根の上を走る。走る中、もちろん男と佐久夜の会話も聞こえてきた。



『おい、ニンゲン! 世話係はついてないのか!? なんで助けに来ない!?』

『えっと、ちょっと色々ありまして……今はいないんですよ』

『はあ!? そんなニンゲンの世話もしない、()()()()()()()()()()がいんのか!?』



「チッ……本人が聞いてるっつーの」


 いつ地面に落ちるかタイミングを見計らっていたけど……気が変わった。僕はためらいもなく勢いよく屋根の上から男の顔面へと飛び降りた。


「どうも、怠惰でろくでなしのミヤビでーす……っと!」


 足は見事男の顔面に当たり、男は横に並ぶ店に突き飛ばされた。「うわあああ」と野太い声と共に。

 そして僕が地面に着地すれば、必然的に佐久夜とは目が合った。そう、焦げ茶色の目と。


「あっ」


 佐久夜は慌てて男を助けに行こうと手を伸ばしたが、僕はその手を掴み上げた。他に構ってる暇なんてないし。


「サクヤったら……なに男にも変な化け物にもつかれてんの?」

「み、雅! 一体なんで──」

「今はそんなのどうでもいいから。ほら、今から僕と一緒にジャンプして」


 頭の整理がついていない佐久夜に、容赦はしない。黒い渦にはもう直近まで追いつかれていた。


「はい、せーの!!」

「えっ、ちょっと、みやっ……!」


 思い切り地面を蹴ると、ものすごい高さで上に飛んだ。見える景色も一気に変わる。


「ひっ……!?」


 心臓がまるでどこか飛んでいきそうになった感覚に、佐久夜は短く悲鳴をあげた。


 上からは街の赤い光が広がって見え、まるで赤い雲の上を飛んでいるようだ。そして後ろから追いかけてきた渦は、急に止まれず正面にある店に一直線にぶつかって行く。

 それに僕は皮肉たっぷりに言った。


「はは、アイツなんなのかわかんないけど頭悪いね。止まれずに猪突猛進とか。笑える」


 しかし佐久夜は隣からの返事はなかった。助けてやったのに。そうチラッっと横目で見れば、彼は僕の着物を掴んで震えていた。


まぁ……そうだよね。


 僕はさっきとは真逆に、地にふわふわと舞い降りてみせた。そっと両足が地面につくと、思わず佐久夜はふらっと僕の肩に寄りかかった。


「ごめん、いくらなんでもやりすぎた……平気?」


 しばらくの沈黙の後、佐久夜はまだ少し震えながら呟いた。それはまるで、初めて生き物に触れた子供のように。


「す、すごかった……真っ赤な光の上を飛んでるみたいだった……!!」


なんだ、怖かったんじゃない。

驚いてたんだ。


 気づけば、なんだか胸が暖かくなっている気がした。思わず口も勝手に動く。


「あ〜……あんなのでサクヤは喜ぶの? そんなの頼まれれば何百回でも飛ばせてあげるのに」

「おい、回数が尋常じゃないぞ」


ないすツッコミ。


 二人でクスッと笑うと、僕は全て片付いたようにのんびり呟いた。


「よし。じゃ、帰ろっか」

「ん…………え、は?」


 しかし佐久夜は信じられないと眉を眉間に寄せてきた。


いや、さっきの笑顔はどこいったんだよ。


「お、お前。あのやばい渦を街に放っておくのか!?」

「うん。だってサクヤは助けたし、目標達成〜的な?」

「ダメに決まってるだろ!! 被害が出る前に早く! あの渦をどうにかしないと!」


 慌てる佐久夜に、ため息が出る。せっかくこれで帰れると思ったのに。


「仕方ないな〜…………危ないから下がってて」


 急な僕の低い声にびっくりしながらも、佐久夜はそっと半歩後ろに隠れた。すると前から、怒り狂ったようにものすごいスピードで向かってくる黒い渦があった。


 僕は特に棒立ちで、片手を向ってくる渦に向ける。この術を使う時は手のひらを強く握り、指を花のように開花させると使える。そして一言。



藤爛漫(ふじらんまん)



 すると僕の声に従い、宙に藤が咲き誇った。そしてその藤の花びらが鋭く渦に何枚も突き刺さっていく。

 普通はきっとこれで血を吹き出して死ぬはずだが、黒い渦はあくまで風の集まり。


そんな簡単には倒れてくれない。


 そして渦は少しスピードが遅くなったものの、またこちらに突進してきた。


「みっ雅、術が効いてな」

「大丈夫。相手が風なら、自分も風でいかせてもらうだけ」


 今度は手で空中に大きく円を描き、その円の中心に素早く人差し指を突き出す。



瞬風縁(しゅんぷうえん)



 円の中心から、ものすごい量の風が飛び出した。そして僕はその風を空中で操り、ぐるぐると回していく。

 それに僕と佐久夜の髪や、着物まで激しくなびく。


あぁ、こんな大きい術を使うなんて……最っ高に気分がいい……!!


 操っていくうちに風は次第に大きくなっていき、やがて大きな竜巻が出来上がった。


 周りで見守る人々は、あんぐり口を開けている。実はこの技、とてつもなく難易度が高い。

 モノを操る。それは術の中でもトップに難しい分類に入る。


「じゃあね、僕の仕事を増やした罰だよ」


 そう竜巻を渦に放り投げれば、渦はあっという間に竜巻に飲み込まれていった。それも酷いうめき声と共に。


 そして完全に渦が消えれば、街の人々や、さっき突き飛ばされた男もわっと歓声を上げて集まってきた。一瞬にして僕と佐久夜は囲まれる。



『すごいね君!』

『まだこんなに若いのに』

『どこの弟子の子なんだい?』

『ぜひ俺の弟子に……』



人前で術を使えばいつもこれだよ……こんな僕に勧誘なんて、意味ないのに。

いいや、無視しよ。


 僕は素早く佐久夜に顔を向け直した。


「サクヤ、怪我は?」

「な、ない!! そんなことより雅! お前すごいな!!!」

「えっ……あ、ありがとう」


 佐久夜は目を輝かせ、バシバシと背中を叩いてきた。きっとまだこの時の僕は、佐久夜に褒められた気持ちで気づきもしなかっただろう。

 今夜のお風呂で、僕はまさか自分の背中に紅葉色の手形がびっしりついてることを。





****





「それにしても、なんでサクヤが街に?」



 帰り道、二人お団子を食べながら話した。


「あぁ、綾さんに大天狗さんのところへ忘れ物を届けて来いとおつかいを頼まれてな」

「姐さんが? そんな危ないことさせる人だっけ?」

「うん…………やっぱり俺は、避けられてるんだろうな。犯人に疑われて」


 佐久夜は団子を食べる手を止め、視線を足下に向けた。


サクヤ……


 僕もなんだか申し訳なくなり、佐久夜に自分の団子をあげようとしたが、首を横に振られてしまった。

 もちろんこんな団子一つで謝罪ができるとは思っていない。


「サクヤには……ほんと、申し訳ないと思ってる。本来はサクヤがゆっくりできるように僕が努力しないといけないのに、いろんな事件にも巻き込んで、迷惑かけてる」

「め、迷惑なんか一度も思ってない……!」


 佐久夜の顔はもう足元から上げられ、じっと真剣にこちらを見つめていた。

 つくづく、自分はサクヤの真面目な顔に弱いと思う。どこか、梅さんが怒った時の雰囲気と似てるから。


「あっ、なぁ雅。ここ寄っていいか?」


 佐久夜が指差す方を見ると、そこには玉ノ屋があった。


あ……もうこんなとこまで帰って来たんだ。

早いな。


「何か買いたいの?」

「いや、見たいだけだ」

「ふーん……まぁいいよ」


 佐久夜は食べ終わった団子の串を僕に渡し、嬉しそうに店の中へ入って行っていった。僕も二本の串を片手で燃やし、続いて店に入った。

 どうやら今日は琴がいないみたいだ。気配がない。


「おっ、あったあった」


 佐久夜は一つの髪飾りを手に取った。隣から覗くと、キラキラと宝石のように輝くの藤の耳飾りがそこにはあった。


「あれ、それ藤の耳飾りじゃん。サクヤが初めて来た時にもあった」

「うん。雅、お前これ渡したい人がいないって言ってたよな?」

「あ〜、そんなこと言ったかも」


 「じゃあ」、佐久夜は僕と向き合った。黒色の瞳と焦げ茶色の瞳がぶつかる。


「もし、雅が俺を完全に信用してくれたら、この耳飾りを俺に渡してくれないか?」

「…………そ」


 そんなことしなくても、僕は昔よりかはずっとサクヤを信用してるのに。サクヤが何考えてるのか、よく分かんない。


「まぁ、一応いいけど。でもなんでそんなことすんの?」

「信用されてると分かってた方が安心だろ」


たしかに。


 納得した僕は、佐久夜が他の商品を見てる間、密かに耳飾りをカウンターに持っていき、自動で支払いをした。佐久夜が煉獄を離れる日に、できれば渡したいと思った。


あれ、そういえば藤の花言葉ってなんだっけ。

まぁ……悪い意味じゃなかったら別に渡しても問題ないよね。


 こうして僕たちはそのまま、まっすぐ家に帰った。赤い満月が、やけに綺麗な夜だった。





****





 その晩。それも真夜中。


 佐久夜は部屋で、上半身を鏡で見つめていた。一見彼の性格からは、自分の体に見惚れているようにも見えるが、彼はぼそりと呟く。


「笑いすぎたな」


 そんな言葉に、彼の後ろに広がる黒い影がうずいた。そして彼の真っ白な寝巻きの着物には、なまめかしく、熟れた()のような真っ赤な血が滲んでいた。



「また雅のせいで、腹の傷が開いたじゃないか」




雅:人間嫌いな少年(主人公)

佐久夜:雅が初めて世話する人間

綾:あまねの湯の新しい支配人。派手な花魁。


よかったらブックマーク、下の評価よろしくお願いします!

していただいたらもっと煉獄が盛り上がります。


またあまねの湯で皆様をお待ちしています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ