零 『堕ち戻り』
今日もせっせっと働きます。
ニンゲンは私たちがいないとすぐ喰われて死んでしまう。
もちろん私たちもニンゲンがいないと仕事がなくて死んでしまう。
だから今日も働くんです。
せっせとさ。
あら。
また新たなお客様。
「いらっしゃいませ、ニンゲン様!」
私、梅と申します。
はい。この度は私がこの世界、『煉獄』を簡単に説明させていただきます。
ここ煉獄は、天国と地獄の間にございます。
ニンゲン様、貴方は下界でお亡くなりになりました。覚えていますか?
はい、ここ煉獄は下界からやってこられたニンゲンを世話する場所にございます。
世話? と不思議に思うことでしょう。
これもまた簡単に説明いたします。
ニンゲンは一度下界で命を落とし、煉獄にやって来ます。
そして自分が天国に行くのか、地獄に行くのか決まります。
そう。
つまりニンゲンがどちらの道に行くか決まるまで、私達はニンゲン様を世話するのです。
期間ですか?
そうですね……大体は四十九日間ですが、短ければ一日です。
差がすごい?
そりゃそうです。
下界でニンゲンが何をしたかによって道は決まるのですから。
自ら命を絶った、罠にハマり人を殺めた、いじめに虐待。
ニンゲンはとても面白い生き物です、いろんなことをしますでしょ?
裁きをするにも、難しいんですよ。
心配しないでください。
大体のニンゲン、天国行きですから。
それに、運が良ければ生まれ変わることも、世界を何度もループできたりもするんです。
まぁ、何に生まれ変わるのか分からないし、「何度も」ループする辛さもあるかもしれませんが。
あっ……ごめんなさい。
つい変なことを話してしまいました。
楽しいお話をしましょう。
煉獄には、いろんなモノが来るんですよ。
貴方たちニンゲンに妖、鬼、神、山神まで様々。
きっとすぐ煉獄が好きになりますよ。
あっ、でも注意してください。
決して一生は煉獄にいられませんから、依存はしないでくださいね。
四十九日が過ぎても煉獄にいれば、強制地獄行きですから。
そういえば……先程から浮かない顔をしていますよね?
なにか不安なことでも?
あぁ、なるほど。
ニンゲンとは私たちよりもずっとか弱いのを忘れていました。
自分が煉獄にいるモノたちに「喰われないか」心配なのですね。
そこは大丈夫です。
たしかに喰おうとするモノはいますが、一人のニンゲンにつき、一人従者お付けいたします。
必ず貴方様を守ってくれることでしょう。
…………あれ。
違いました?
なんです、何が不安なのです?
え? この暗闇?
あぁ、そういうことですか。
それなら早くおっしゃってくれればいいのに。
お客様、またの名はニンゲン様。
貴方は先ほど、地獄行きが決定いたしました。
人生で道が分かれる。
貴方は人間界で、どんな罪を働いたんでしょうね。
そんな顔したって無駄ですよ。
では……さようなら。
今日もせっせっと働きます。
ニンゲンは私たちがいないとすぐ喰われて死んでしまう。
もちろん私たちもニンゲンがいないと仕事がなくて死んでしまう。
だから今日も働くんです。
せっせとさ。
あら。
また新たなお客様。