第八話【アグアス村】
オルス村を出発してから恐らくだが三時間くらいは経過した。
景色はほとんど変わらずバリエーションは森か川か、でこぼこした地面ばかり。
一つくらい景色の良いところでもあればこの旅も楽しいと思えるのに。
そろそろ一人でこうしているのも退屈だ。
村を出発してから少しの間は僕の隣で座って景色を見ては花を探し馬車を止めてと言ってきたり、こちらが質問したら返答なしという見慣れた光景だったのだが今は疲れたようで荷台でバッグを枕代わりにして眠りについている。
僕も一旦休みたいが休むところに適した場所があまり見つからない。
あと一時間、一時間経ったら休もう。
そしていい感じのところを見つけよう。
僕はあくびをしながらそう心の中で思った。
***
結局二時間も馬車で進んでしまった。
本当は一時間経ったら休もうなんて考えたいたのだがいい感じのところが見つからず探していたらプラスで一時間も進んでいた。
だがその一時間のおかげで小さな綺麗な川を見つけることが出来た。
僕は馬車を止め馬についている紐を近くの木に括り付ける。
そして馬車から降り荷台の入口の布を少し開け馬用のえさを少し取りそれを馬に食べさせたあと川に近づいた。
川は凄く透き通っており小さな魚が何匹か流れに逆らいながら泳いでいる。
試しに川に触ってみると、
「冷たっ」
そこまで気温は低くないのだが川の水温はかなり低いようだ。
はぁ……っとため息をはきながら近くの石に座り込んだ。
もしこれが一人ならもっと辛かったんだろうな、なんて思う。
流石にこんな過酷な道のりを一人で行っていたら入学する前におかしくなってしまいそうだ。
「久しぶりに読むか」
僕は一度立ち上がり荷台の入口へと向かった。
そして布をどかしバッグの中に入れていた本を取り出した。
最近は色々なことがありすぎてあまり本を読むことが出来なかった。
だからこういう時間を使って読もう。
疲れが取れるまで。
本を持った僕は馬を括り付けている木まで向かう。
じゃれてくる馬を少し撫で木陰になっているところに座り込んだ。
そして僕は本を開いた。
ページをめくる度に心地の良い風が吹いてきて少しうとうとする。
「…………」
***
顔に何か当たってきている気がした。
僕が目を開くとその正体は馬だった。
本を読んでいる途中に眠ってしまった僕のことを起こしてくれたようだ。
なんて賢い馬なんだ。
僕は立ち上がり本をしまいに戻る。
その時、空の様子が目に映った。
少しの雲、沈みゆく太陽の光。
「ってもう陽が暮れてる!?」
急いで荷台に行き本を置いた。
中ではまだシュレーナさんが眠っている。
完全に熟睡している。
そして僕は木に括り付けていた紐を取り席に座りすぐに出発した。
早くどこかの村に泊めさせてもらわないといけない。
ここから一番近い村は確かアグアス村だっただろうか。
近いと言っても多分一時間はかかる。
だから出来るだけ早く向かおう。
こんなところで魔物に出くわして足止めされたら大幅な時間ロスだ。
***
再出発してから一時間と少しが経過した。
代わり映えのない木ばかりの景色から一転、明かりのある景色が見えてきた。
きっとあそこがアグアス村だ。
アグアス村は確かルサンダー領でウェンツェ王国のかなり端にある村だ。
立派な畑がいくつかありその先には民家が沢山立ち並んでいる。
規模としてはオルス村より少し大きいくらいだ。
畑と畑に挟まれた広い道を進んでいると前から二人の男性が歩いてくる。
一応馬車を止めた。
「こんな時間に何だ何だ。それに見ない顔だな。ここに何しに来たんだ?」
「商人か何かか?」
「あ、初めまして。オルス村から来たクレイ・グランディールです」
「オルス村……あぁ、あそこか。ルハイル大森林が近いとこだろ」
「つい最近にも魔物が暴れたって言ってたとこか」
どうやらオルス村のことを知っているようだ。
「今、エントリア王国を目指して馬車で移動してるんですけどもう夜になってしまうのでここの村に――」
「悪いがそれは無理なんだ。少し前にもそういうことを言ってきた集団が村の作物とか盗んでいってよ。だからあんまりよそのもんを一時的に住まわせるのはな」
「家でなくても大丈夫です! どこか広いとこに馬車を止めさせていただけたらそこで寝るので、だからどうかお願いします!」
「う〜ん、でもなぁ」
男が腕を組みながらどうするか悩んでいると後ろから「良いじゃないか」と言いながら近づいてくるおばあさんがいた。
「村長!」
どうやらこのおばあさんがアグアス村の村長のようだ。
杖をつきながら村長は僕の目の前までやってくる。
「このクレイっていう子がエントリア王国に行くためにって、でも流石に子供一人でこんなとこまでこさせるなんて裏があるかもしれないですよ」
「ほう、この時期に子供一人でエントリア王国に行くと。もしや魔法学校にでも行くのかい?」
「あ、はい!」
「ほっほっほっ、そうかそうか。なら泊まっていきな」
「え、本当ですか!」
「そ、村長。ですが!!」
良し、これでひとまず今日はどうにかなりそうだ。
「だけど条件が一つ」
「条件……ですか?」
「そうじゃ、条件はわしの孫も連れて行ってくれんか」
「孫?」
「わしの息子の娘なんじゃがあいにく使わせられる馬車がなくてな、困ってたんじゃ。だからその馬車に一緒に乗せて行ってくれるならご飯も用意するぞ」
ご、ご飯。
泊まりだけでなくご飯まで振る舞ってもらえるのか。
ならば答えはひとつ。
「わかりました! その条件、受けさせてください!」
「決まりじゃ。それじゃあ二人共そういうことだから案内しておやり」
村長はそう言いながら僕の隣の席に座ってきた。
「流石にここから歩いて戻るのはしんどいから乗せてもらうよ」
「は、はい!」
「それじゃあ、クレイ。こっちについてきてくれ」
二人の男は歩きながら馬車を先導してくれた。
「魔法学校か。懐かしいな。俺も行ってたわ。成績悪かったけどな」
「それはお前がサボりまくってたからだろ」
「仕方ないだろ。授業選択自由、受けるタイミングも自由、自由すぎたら普通そうなるだろ」
あの男の人が言うようにエントリア魔法学校は生徒自身で行動し成長していくことをひとつの教育理念として掲げている。
だから魔法、または魔法以外のことを自分で選択し自由に学べるようになっているのだ。
ガサガサ
ガサガサ
いきなり荷台から音が聞こえてくる。
シュレーナさんが起きたのだろうか。
するとひょこっと荷台から姿を現したシュレーナさん。
「……クレイくん、ここは?」
「シュレーナさん、おはようございます。ここはアグアス村です」
「アグアス……」
寝起きでかなり眠たそうな顔をしている。
指で目をこすりなんとか眠気を飛ばそうとしている。
「おやおや、こんなに可愛いお嬢さんを連れていたとはねぇ、もしかしてそういう関係なのかい?」
「ち、違います。シュレーナさんもオルス村の人で一緒にエントリア魔法学校に行くんです!」
「そうだったのかい。入る前から二人の子と友達になれるかもしれないなんて、ラッキーだねぇ、これは」
喋っていると男の人が立ち止まり「あそこです」と指をさして言ってきた。
僕は指をさしている方向に馬車を進め止めた。
席から降り馬を馬車から外し馬小屋の中に入れた。
「お疲れ様」
馬の頭を撫でみんながいるところへ戻った。
「二人共案内ご苦労さま」
「いえ、では僕たちはこれで」
そう言って二人の男は去っていった。
「じゃあ、荷物を持ってわしの家に行くよ」
「お願いします!」
僕たちは荷台に乗せていた荷物を全て持ち村長の後ろをついていった。
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