第五十五話【アスラン王国】
ここはアスラン王国。
フレンシア大陸の中で最も持つ者が多く住む国だ。
「いい匂いがする」
「きっとあの屋台ですよ! 美味しそうなものがたくさん並んでます!」
「お前達、ここに遊びに来たわけではないぞ」
国の門から二つある城のうち小さい方の城まで続く一直線の道。
その道を挟むように家々が立ち並び、さらにはたくさんの屋台もある。
人通りはかなり多く、アスランがどれだけ栄えている国なのかがわかる。
「それにしてもチユとかケイト先輩は大丈夫だと思うか? ちょっと心配だぜ」
「それは大丈夫だと思うよ。あっちにはゼルディック兵士長達がいるし」
既に僕達の馬車とゼルディック兵士長達の馬車は別れた。
ゼルディック兵士長達は持たぬ者がいない国――リジェイロ王国に向かった。
ログマネスの采配によりチユとケイト先輩はあっちに行くことになった。
チユに関してはちょっと不安なこともあるがケイト先輩やゼルディック兵士長達がついているからきっと大丈夫なはずだ。
それにチユは魔力を感知できる。
あっちでもしかしたら活躍出来るかもしれないし。
一応こっちの魔法感知をするのはログマネス。
前に戦った時にも言っていたが本当に鼻がいいらしい。
鼻が良いからと言って魔法感知が出来るのかわからないけど。
「今日はもう夜も遅い。どこか宿に泊まるぞ。どこでもいいな?」
「はい」
僕らは特に何も考えずに返事をした。
***
「すいません、旅のお方が大変多い状況でして……一人一部屋というのはご遠慮ください。ですが! 二部屋だけ空いてますので今すぐ御用出来ますがどうしますか?」
「ならそれで頼む」
「一泊でよろしいですか?」
「まだそれはわからないから未定にしておいてくれ」
「わ、わかりました……。でしたらお支払いもお帰りになる時の方がよろしいですよね」
「あぁ」
「かしこまりました。ではこちらが部屋の鍵となります」
受付の女性は番号の書かれた小さな杖を渡してきた。
ログマネスはそれを受け取った。
「二階か。行くぞ」
僕らはログマネスについていき二階に上がった。
***
「ここか。私が一人部屋でお前達が同じ部屋。それで構わないな」
誰がログマネスと同じ部屋で夜を過ごすものか。
ただの拷問でしかない。
「なんだ? クレイ。何か一言言いたそうだな」
「あ、え、いや何もないですよ?」
え、もしかして心の声読めるの。
「これが鍵だ。なくすなよ」
ログマネスは僕に杖を投げてきた。
「あ、はい」
そしてログマネスは部屋に入っていった。
「えーっとこれどうやって使うんだ?」
「寮の鍵と似たシステムじゃないのか?」
「そういうことか」
僕はその杖を鍵穴に近づけた。
するとカチッという音と共に扉が開いた。
さすが持つ者が多い国。
色々なところに魔法を使った何かがある。
「結構広いですね! ベッドも人数以上ありますし!」
「ログマネス、こんなにベッドがある部屋で一人とか寂しいな」
「たしかにな!」
すると壁からドンッと叩く音が聞こえた。
なんで耳も良いんだよ。
地獄耳かよ。
「はぁ……疲れた疲れた」
「ここに来るまでやることなさ過ぎてしんどかったですよね」
「ほんとそうだよな。ずっと同じ景色でさ。クレイはずっと本読んでるし」
「移動時間に勉強した方が良いかと思って」
「どこまで真面目なんだ……」
僕は剣を立てかけてベッドの上に座った。
「私だ。開けろ」
ノックと共にログマネスの声が聞こえてきた。
近くにいたアゼットが扉を開けた。
「これで何か食べてこい。私は部屋にいる」
ログマネスは布袋をアゼットに渡し部屋に戻っていった。
「おぉ! こん中にルース印の硬貨が結構はいってるぞ」
「これでご飯を食べに行くってことですね!」
「でも待て……誰かルース印の硬貨の価値を知ってる人いるのか?」
「……まぁ、なんとかなるんじゃないか? とりあえず飯行こうぜ!!」
アゼットとアリアさんはいち早く貴重品だけ持って部屋を出た。
ベッドから立ち上がり剣を手に取りシュレーナさんと共に部屋を出た。
***
「ふたりともあんま先々行くなよ」
「クレイは保護者か!」
「そうですよ! 私達は子供じゃないので安心してください!」
宿通りということもあってか酒場などのお店が沢山ある。
夜に街に出たことがないからわからないが恐らくかなり賑わっている。
「シュレーナさん大丈夫ですか?」
「……ん? なんで?」
「さっきからあまり喋らないので体調でも悪いのかなと思いまして」
「それは大丈夫」
「それならなんで……?」
シュレーナさんがこっちに一歩近づいてきた。
「私、こうやって外食することなかったから……」
「……そうだったんですか。なんだかすいません」
「だから凄くワクワクしてる。外食のルールは分からないからリードしてね?」
「……勿論です!」
僕らが会話をしていると道に男が吹き飛ばされてきた。
どこから飛んできたのかと思い見渡すと近くの店の扉が倒れていた。
恐らくあそこから飛んできたんだ。
というかなんで飛んできた。
「おいッ! 約束が違うじゃねぇか! 女紹介してくれるって話はどこに行っちまったんだッ? あぁ??」
「チッ、だからもうちょっと待てって言ってんだろ。お前の仕事が早すぎて追いついてねぇんだよ。もっと手加減しろよ。脳筋魔法剣士がッ!」
「なんだとテメェ!!!」
僕はアゼットと見つめ合った。
「わかったぜ」
アゼットは鞘から剣を抜いた。
「お兄さん達? 何があったかは知らないけど公共の場で暴れるのは違うぜ?」
「なんだお前? ってガキか。これは大人の話だ。あっち言ってな」
「喧嘩はさせないぜ?」
「邪魔する気か、いいぜ? 先にお前だ。土の加護を与えし者よ――」
男が詠唱を始めた時、アゼットは既に元の場所にはいなかった。
腹部を蹴り詠唱を中断、そのまま押し倒し剣を首近くに突き付けた。
「ッ!?」
「俺は殺る気はないが動いたらどうなるかわからないぞ」
「よくやったアゼット!!」
アゼットの近くに行こうとした瞬間、アゼットが僕に向かって「後ろ!!」と叫んできた。
「ガキにやられるとか情ねぇな。それとさっきの件は許してやるぜ。ちょうどいいところに良いのが二人もいたからな」
後ろを振り向くと男がシュレーナさんとアリアさんの肩に手をおいていた。
「あ?」
その時、心のどこかで何かが切れた。
シュレーナさんは初めての外食を楽しみにしている。
なのにそれを台無しにしようとしやがって。
ふざけるなよ。
「なめたことをするなよ、脳筋魔法剣士が」
「どうした、怒っちゃったか? おこおこか? あぁ?」
「あぁ、そうだよ。凄く不愉快だ」
僕は男に向かって杖を向けた。
男も剣を鞘から抜いた。
「来いよ。ガキが……アァァァァァ!!!!!!!! ン………」
男は声を荒げたと思いきや良くわからない声を出し剣を地面に落とした。
そして悶絶し始めた。
さっぱりわからないがとっとと終わらせてご飯を食べよう。
きっとシュレーナさんはお腹が空いているはずだし。
「我が敵を斬り裂け。『炎刃』
「待て待て待て!!! それは卑怯過ぎんだろォォォォ!!!!!!!!」
シュレーナさんとアリアさんは横に避けた。
そして男に魔法が直撃した。
男は遠くへと弾き飛ばされた。
「ふぅ……じゃあせっかくですしここのお店に入りましょう! シュレーナさん、アリアさん!」
「はい!!」
「ん!」
「……容赦ねぇ」
周りからの視線が凄かったがそんなことは気にせずに扉の壊れたお店に入っていった。




