第五十四話【魔法士狩りと白布面の女性】
出発してから数十時間、僕達は山間道にやってきた。
幅は広いがすぐ横は石の壁。
山間道があるここはアイズ大陸とフレンシア大陸を結ぶ唯一の陸の道。
かつての人々はツルハシや魔法の力でこの道を切り開いたとか。
それにしても馬車の交通量が多い。
さすがは唯一の陸の道と言ったところだろうか。
「上から石とか落ちてきたらやばそうだな」
「そんなこと言うなよ。本当に起きたらどうするんだ」
アゼットの言うことは間違いない。
実際道のあちこちに大きな石が転がっている。
あれはきっとこの上から落ちてきたものだろう。
あんなものが当たれば無事では済まないだろう。
「このまま何もないと良いんですけどね!」
アリアさんがそう言った時、前の方で大きな音がした。
顔を出して確認した。
前方で馬車が一台横転していた。
こちらに走って逃げてくる者達もいた。
「何が起こってるかわからないけど行こう!」
「おう!!」
僕達は馬車を降りた。
後続の馬車からゼルディック兵士長達も降りてきた。
「グランディール、ちょうど良さそうな練習台がいるみたいだな。ここらで剣術についてでも教えてやる」
「は、はい!!」
「お、俺も!! 俺も!!」
ゼルディック兵士長がこちらにやってきた。
「まずは柄をしっかりと握れ。ただ全身に力を入れてはならない」
「はい!」
言われた通り柄を握った。
「こんなかに持つ者いんだろ!! 知ってんだぞ! 出てこいよ!!」
「……ッ」
ログマネスの様子がおかしくなった。
いきなり杖を取り出し詠唱をしようとしていた。
「グレイ、抑えろ」
「あぁ!」
ゼルディック兵士長の指示でログマネスはグレイに抑えられ魔法を使えないようにされた。
一体どうしてしまったのだろうか。
そんなことをしている間に前方で暴れる者達はこちらに近づいてきていた。
どうやら暴れる五人は一台の馬車を狙っているようだ。
後ろには子供が二人乗っている。
「あれは魔法士狩りね。まだフレンシアにいたなんて」
そうだ、フレンシア大陸はアイズの死後、アイズ大陸ほどの魔力の恩恵を得ることは出来なかった。
その為持つ者から無理やり魔力を奪い取る魔法士狩りというものが流行っていた。
魔法剣士を狩ることもあるが魔力量は圧倒的に魔法士の方が多いため良く狙われたそうだ。
「やめてくれ! 子どもたちは魔力なんて微塵も持っちゃいないよ!」
「うっせぇ! この魔晶石が反応してんだろ! ビンビンになッ!」
「それは俺の子達じゃねぇ、他のやつらだ!」
「わっかんねぇやつだな。近くから反応してるっつってんだろ!」
男の人が魔法士狩りに蹴られた。
まずい。
急いで行かないと。
「あとは柄に魔力を流しそれを剣先まで伸ばすイメージだ。それは乱れず常に一定でな」
「はい!」
剣のノウハウはわからないが絶対に今は杖で戦った方がいい。
「ひとまずは一振りするところからだな。行け」
ゼルディック兵士長に言われ走り出そうとした時、チユが止めてきた。
「上!」
魔力を感知したのか。
しかも上から。
「無理やり奪うぞ。お前ら!」
「わかりま――ウギャァァァ!!!!!!」
「ど、どうした!!!?」
近づいた魔法士狩りの一人の腕が斬り落とされた。
「な、何が起きてやがる!?」
「ウワァァァァ!!!!!!!!!!!」
また一人、そしてまた一人と腕、足が斬り落とされていく。
気づけば魔法士狩りは全員血だらけになり倒れていた。
「先を越されたようだ。また今度教えよう」
「わ、わかりました」
どこからか姿を現した女性がいた。
その女性は黒い服を着て顔には白い布面をつけていた。
女性は剣を倒れた男に突き刺し立てると腰を抜かしている男に対して何かをいい出した。
「私が助けたのに礼はなしなのか」
「あ、ああありがとうございます!」
「言葉じゃない。形で示せ」
「は、はははい!」
男は馬車から袋を取り出しそれを女性に手渡した。
女性はその袋を開けるとしばらく眺めていた。
袋をしばりそれをどこかにしまった女性は男から剣を抜き取った。
「貴様が持たぬ者ならここで殺していたとこだ。運のいい奴だ」
女性は剣についた血をシュッと飛ばした。
すると女性がこちらに振り向いた。
布面をしていてわからないが目があったようなそんな気がした。
そして女性はそのままフレンシア大陸方面へと姿を消していった。
「今の人、何だったんだ?」
「……気にするな。先を急ぐぞ」
ゼルディック兵士長に言われ僕らは馬車に乗り込んだ。
それにしてもあの女性は一体何だったのだろうか。
目にも見えぬ移動速度、一撃で決め斬る正確さ。
剣士素人の僕でもそれがどれだけ異次元なことなのか分かった。
***
あれから数時間後、僕らは山間道を抜け一度休息していた。
そして今、なぜかゼルディック兵士長から剣の使い方を学ばさせられている。
「そんな持ち方じゃないだろ。言った通りに持て」
「は、はい!!」
「そうしたら魔力を流してみろ」
剣に魔力を流し込もうとするが全く流れない。
「魔法を使う気があるのか?」
杖とは勝手が違う。
杖は体内の魔力を一定化、後に魔法を発動したい時に杖に出力する。
しかし剣の場合、発動の詠唱を開始してから剣と体内を巡る魔力を一定に循環させなければならない。
それが出来ると詠唱なしで技を発動出来るらしいんだけど。
難しすぎて無理。
「やっぱ僕には無理ですよ……」
「俺は生活魔法なら扱える。剣士なのにな」
「難易度が違いすぎて厳しいですよ」
「そんなのは言い訳だ。つべこべ言わず魔力を流せ」
「はい……」
誰か助けてくれよ。
みんなに目で訴えかけるがこっちを見てるのはアゼットだけ。
もっとこっちに興味を持ってくれ。
「どうした、出来ないのか。魔法学校一年で上位のグランディールでもか」
何だ、その話。
聞いたこと無いぞ。
というかそんなに急かされたら余計に出来ない。
もっと遠くから見守ってほしいものだ。
文句を言っていても仕方ないか。
恐らく出来るようになるまでこの謎の特訓は終わらないだろうし。
一定なんて知ったこっちゃない。
魔力フル循環で行ってやる。
そうすればちょっとくらいは剣に魔力が行くはずだろう。
「……すぅ」
僕は息を吸い、そして吐いた。
身体が熱い。
魔力が激しく流れるのを感じる。
「……ッ!!?」
「な、なんですかこれは……」
僕の剣に炎が宿った。
「出来た!!」
喜んだ瞬間、炎は消えただの剣に戻った。
いや、どうやって魔力を流しっぱに出来るんだ。
敵に感知されかねないし。
僕には魔法剣士は向いてないらしい。
今日は諦めましょう。
そう告げる為にゼルディック兵士長の方を見た。
すると周りでみんなが固まっていた。
「皆さん、どうしたんですか?」
「グランディール、さっき後ろにいたのは……あ、いや何でもない。そろそろ休憩は止めにして進むぞ」
「は、はい……」
みんなどうしたんだろうか。
後ろに魔物でもいたのか。
それとも虫でもついていたのか。
よくわからないが僕は剣を鞘にしまい馬車に向かった。




