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第五十三話【特攻奴隷】

「やっぱ魔法って便利だなぁ。俺もそんな自由に使えるようになりたいんだけど、難しくって」

「アゼットなら練習すればすぐに出来るようになるよ」


 ゼルディック兵士長が持ってきた枝をそれぞれ支えるようにして組み立てそこに生活魔法の火を近づけ燃やしている。

 星空の下でこうして火の暖かさに触れていると自然と心が浄化されるそんな感じがする。


「それで今後どうする?」

「まだ先だしあとで良いんじゃないか? 今はとりあえず飯でも食おうぜ」

「いや決めておこう。道中何があるかわからんからな」

「兵士長が言うなら、わかったぜ」


 みんながどうすべきかと悩んでいるとログマネスが何やら喋りだした。


「ルース印の硬貨を扱うのは三国同盟を組む、アスラン、リジェイロ、アルタン。ならばまず二つを探せば良い。早く調べ終えた方が残り一つに向かいのちに片方が合流」

「俺はそれで構わない」


 ゼルディック兵士長がログマネスの案に賛成すると他のみんなも次々と賛成した。

 その話が終わると次にメンバーをどうするかという話が始まった。


「メンバーは俺、クレイ、シュレーナさん、アリアさん、それとチユにケイト先輩。そっちはゼルディック班一行とログマネス先生で良いんじゃないか。

「いや――」


 ゼルディック兵士長が何か言おうとした時ログマネスがそれを遮った。


「どうやらこれが特別指導だということを忘れていうるようだな。私が見ていなければ何の指導にもならない。よってチユ・リネーリアは兵士長の方へ行け」

「わ、私!? そ、そっち知ってる人い、いないし」

「文句を言うな。そんなに嫌ならケイト・ルアンダーもそっちだ。剣技でも学んでこい」

「……そういうことなら分かりました」


 ログマネスが僕のことをギロっと目を動かし睨んできた。

 これは完全に何かをしようとしている目だ。

 復讐心で燃えたぎってやがる。


「そう言えば国から少しばかりの食料を貰ってきた。今日はこれを食べてやり過ごせ」


 ゼルディック兵士団長は布袋の中からさらに包まれた何かを取り出した。

 何とも香ばしい良い匂いがしてくる。

 これはもしかして干し肉なのか。


「とは言っても贅沢なものじゃないが。腹の足しにはなるだろう。ここに置いておく。俺は馬車に戻って仮眠する」

「俺もそうするぜ」

「なら馬車の中の寝場所を決めるわよ!」


 ゼルディック兵士長、ウェンナさん、グレイさんは馬車の方へ戻っていった。


 火が静かな夜の中、バチバチと音をたてている。

 それをただ見つめながら干し肉を食べていた。


「君達は本当に大丈夫なの?」


 リスタさんが干し肉を食べながら聞いてきた。


「大丈夫です。覚悟が出来てなかったら僕達はここに来てませんから」

「そう……私達が君達とそして友達を無事に学校に戻してあげるから。無理はしないようにね。君達はまだ未来ある若者なんだから」

「はい、ありがとうございます。出来るだけ足を引っ張らないように頑張ります」

「うん、期待しているよ。じゃあ、私も馬車に戻るね。くれぐれも夜ふかししすぎないように。ログマネス先生、よろしくおねがいします」


 リスタさんがそう言うとログマネスは軽く頷いた。

 そしてリスタさんは馬車に戻っていった。


 それにしてもリスタさんはいつも落ち着いている。

 そのうえ良くわからないが謎の包容力までもある。

 まるで近隣のお姉さんの様な存在に感じる。


「私はどこかの木の上で寝るとしよう。寝る時は火の始末を忘れるなよ」


 そう言ってログマネスも去っていった。


 干し肉をむしゃむしゃ。

 ひたすら無の時間が流れる。

 リリーシャがいなくなっただけでこんなにも僕達は変わってしまうなんて。


「やっぱリリーシャって凄かったんだね……」


 思わずそんな一言が口から溢れた。


「あぁ、そうだな」

「うるさかったですけど、いざなくなると悲しいです」

「だ、だだダル絡みするから、ま、まだ苦手だけど……で、でもやっぱり寂しい……」

「…………うん」

「失って初めて気づくってやつだな。君達の友達であるリリーシャも大切だが、今はエリカが無事なのか常に考えてしまう。もし何かあったら……俺は……。すまない……」

「大丈夫ですよ。みんな同じ想いですから」


 僕は鞘に入った剣を見つめそう言った。


***


 翌日。

 僕らは馬車の中で目を覚ました。


 というか狭い。

 なんで昨日は何も思わず寝られたんだ。


「あっ」


 身体を起こしているとシュレーナさんも起き上がってきた。


「シュレーナさん、おはようございます」

「……ん。おはよ」


 まだ相当眠いのかあくびをしては目を擦っている。


「眠たいのならまだ寝ていた方が良いですよ。出発までは時間があると思いますし」

「……ん」


 シュレーナさんは僕のローブに包まりながら再び横になった。

 僕はシュレーナさんのローブを着て、馬車を降りた。


 やっぱり朝は冷える。

 でもいつもと違った空気で少しばかりワクワクする。


「もう起きたのか。グランディール」


 馬車を降りると剣の手入れをしているゼルディック兵士長が居た。


「おはようございます。朝はやくから手入れですか?」

「あぁ、これは大事な剣だからな。前線を突き進み切り開く剣士にとって剣は命そのもの。だからこうして毎朝手入れをしているんだ」


 剣士にとって剣は命……。

 ならば今剣を失ったリリーシャは……。

 いや、今から余計な事を考えるのはやめよう。


「剣は好きか?」

「好きですけど……」

「そういうやつが増えれば良いんだけどな」

「………?」

「魔法士と魔法剣士、どちらも始まりは同じだ。一人の女性、一人の男性、愛し合った二人から始まった世界。今では魔法士と魔法剣士は一見、手を組み仲を築いてるように見えるが世界的に見たら泥沼だ」

「……一体なにが」

「どっかで耳にしたことはあるか。魔法剣士は特攻奴隷だということを」


 言い方は違うがこれはラルスさんのお父さんの様な人を意味している。

 魔法剣士は魔法士と違い常に敵に近いとこで戦うことになる。

 だから魔法士の中にはわざと囮にしている者までいるのだ。

 勿論それは魔法士の中でも一部の者の行為だがそれでも許されるべきことではない。


「俺はそれが許せなかった。だから今も団長は杖と剣の間にある果てしなく高い壁を打ち壊そうとしてくれている。でもそれは到底一人で成せることではない。魔法剣士は特攻奴隷なんかではない。剣を持ち命を持つ、一人の人間なんだ。いつかこの剣で持たぬ者、剣士、そして君達が生きやすい世界にしてみせるさ。命がある限り全力で」

「…………」


 もし僕らにも特別な力があればゼルディック兵士長に協力出来たのかもしれない。

 でも今はただ外から見ていることしかできない。 


「お! クレイ、起きてたのか!」


 すると馬車からアゼットが降りてきた。


「まさか……ゼルディック兵士長から剣術でも教わろうとしていたのか! おい! ずるいぞ、クレイ!」

「別にそんなんじゃないよ」

「魔法士が剣を……か。面白いな。時間があったら教えよう」

「え?」

「なっ! 俺もお願いします!! どうかどうか!!」

「あぁ、いいだろう。ひとまず今はみんなを起こしてきてくれ。出発するからと」


 アゼットが喜びながら馬車に走っていった。


「待ってろよ、リリーシャ」


 僕は朝日を見ながらそう呟いた。

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